7・日常

文字数 1,146文字

 変わらない日常がずっと続くと思っていた。
 高校三年の冬。
 K学園付属高等学校に通う大崎久隆、霧島咲夜、片倉葵はいつものように、大崎家の従業員食堂にいた。
 お金持ちの令息、令嬢が多く通うマンモス校のK学園で、大崎家は二大セレブの片割れと称されている。もう一人のセレブとは大里家。大崎家にとってはいろいろと繋がりは深いが、事業面においてはライバルでもあった。

 だが大崎家がたくさんの家事使用人を雇っているのは、お金持ちだからでも家が広いからでもない。
 大崎家次男の久隆が三つの時に、母は病によりこの世を去った。
 ママを恋しがる久隆を見て、可愛い我が子が寂しがらないようにと父がたくさんの家事使用人を雇ったのである。
 大崎家では彼らはファミリーと呼ばれていた。
 敷地内には、家族が暮らす三階建ての洋館の他に従業員用の棟がある。

 通称【AG】こと、『A world with utopia underground』
 学生に人気のバーチャルリアリティーゲームである。意識を飛ばし電気信号によって、あたかもその世界の中で自由に動き回っているかのように感じるのが人気の秘密。
 二十年前に事故が起き、意識が戻らないままの者もいるとは言うが若者にとってそれは恐怖とはなりえななかった。むしろ技術は日に日に進歩するものであり、もう事故は起きないだろうと高を括る者もいるだろう。

 それは久隆たちも同じだったに違いない。

 この日、大崎久隆は恋人の咲夜と親友の葵に『AGで遊ばないか?』と声をかけた。
 咲夜は中学の頃から【AG】をプレイしている長期ユーザー。
 ランキング上位常習者であり、ゲーム内では有名。彼は一もにもなくOKの返事をくれた。
 しかし葵の方は事情があり、また今度と言う返答。
 やっていないわけではないが、今まで彼を【AG】内で見かけたことがなかった。それは咲夜も同じ。

 本人曰く、習い事で忙しいからなかなかインできないのだというが、IDも教えてくれないというのは何かあるのではないかと思ってしまう。
 この日もいそいそと葵は出かけてしまった。
 家の中でプレイしなければならないということはないが、無防備な状態となるので【AG】は基本、安心安全な室内で行うことが推奨されている。
 【AG廃人】などはオムツをしてプレイすることもあるらしい。そのため、【AG】内ではインをして二時間ごとに『一度ロクアウトしてください』というテロップが流れる仕様だ。
 
 トイレくらい行け! ということなのであろう。
 なんでも夢中になり過ぎれば、身体には毒である。

「もしかして、葵って審議会のメンバーなんじゃ?」
 葵が出かけるなり咲夜がそう耳打ちした。
「いやいや……そんなわけは」
 否定したのは、単に突飛な想像だと思ったからだ。
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