13・過去を知る者たち
文字数 1,310文字
「ちょっと。こんなところに呼び出してなんなのよ、キング」
本名、音羽薫 。
AGでの呼び名はクイーン。
スタイルの整った美女……ではなくオネエである。
自認する性別というのは、人によって違う。完全に自分はこっちだ! と思う人もいれば、どちらでもないと言う無性別の人もいる。
ただ、この二つに関しては自認が確定していると言え、中性だと感じる人もまた曖昧というよりは中性だという自認がしっかりしていると言えよう。
ある人の言葉を借りれば、性別というのはバーのようなものでよりどちらかに傾いているかで決まる。
なので『自分は完全にこっちだ!』と断言できることの方がホントは珍しいのかもしれない。
そして身体と心が正反対でない限り、人は自分の肉体と精神の差に折り合いをつけて生きているものである。
大人になれば制服というものから解放され、ある程度は心の求めるファッションを着こなすことが出来るのも、その理由の一つかもしれない。
最近では自分の好きなスタイルを選べる学校や企業も出てきている。
時は同性婚可能な世の中。
同性同士の恋愛に偏見を持つ者は稀である。
そもそも他人の恋愛は他人のものであり、自分の人生に関係はない。
しかしそんな世の中でも生き辛い人々はいる。
それはどちらの性別か自認できず、曖昧な位置にしかいられない者たちだ。
その中でも男女どちらも愛することのできない無性愛者は、他人に全く興味を持つことができない。
上辺の人間関係しか形成できないのにも関わらず、それすら面倒に感じてしまう。
クイーンこと音羽薫は、その中でも全てが曖昧な位置にいた。
「よう、クイーン。てか、外ではその呼び方やめろって」
キングこと、本名は南和仁 。
彼は有名なセレブ一家、大崎グループ社長宅の料理長を務めている。
音羽はAGというゲーム内で南と意気投合。
たまにこうしてリアルでも食事をする友人となった。彼とは、なんでも気軽に話すことができ、気楽な仲。
「はいはい。オカマをオカマバーに呼び出す、イカれた野郎さん」
「余計、嫌だ」
と、南はカウンターに項垂れた。
「で、今日はどういった要件?」
音羽は元々中性的。胸には手を入れていた。声も低い方ではないので、一見女性に見える。
「いや、特に用というモノでもないさ」
と言いながら、スマホの画面を見せる南。
見せられたのは一枚の写真のようなモノだった。
盗撮だろうか、ピントが合わないわけではないが顔まではわからない。
「誰」
と、音羽。
こんな風に話の内容が分からないように話すということは、AG関係のことに他ならない。
彼は画面に映る人物の手首のあたりを、コツコツと爪先で叩いた。
そこに注視しろという意味合いだろう。
その人物の手首には特殊な白いリングが存在した。
AGというバーチャルリアリティーゲームは、手首に情報が詰まっているスタイル。なので装備や装飾品には『手首用』というものが存在しない。
つまり、手首に何かをつけている場合、それは運営の一部であるマザーからの配給品と考えて良いのだ。
「なるほどね」
音羽はリングの意味合いを想像し、頷いた。
──いよいよ二十年前の悪夢の再来ってわけね。
本名、
AGでの呼び名はクイーン。
スタイルの整った美女……ではなくオネエである。
自認する性別というのは、人によって違う。完全に自分はこっちだ! と思う人もいれば、どちらでもないと言う無性別の人もいる。
ただ、この二つに関しては自認が確定していると言え、中性だと感じる人もまた曖昧というよりは中性だという自認がしっかりしていると言えよう。
ある人の言葉を借りれば、性別というのはバーのようなものでよりどちらかに傾いているかで決まる。
なので『自分は完全にこっちだ!』と断言できることの方がホントは珍しいのかもしれない。
そして身体と心が正反対でない限り、人は自分の肉体と精神の差に折り合いをつけて生きているものである。
大人になれば制服というものから解放され、ある程度は心の求めるファッションを着こなすことが出来るのも、その理由の一つかもしれない。
最近では自分の好きなスタイルを選べる学校や企業も出てきている。
時は同性婚可能な世の中。
同性同士の恋愛に偏見を持つ者は稀である。
そもそも他人の恋愛は他人のものであり、自分の人生に関係はない。
しかしそんな世の中でも生き辛い人々はいる。
それはどちらの性別か自認できず、曖昧な位置にしかいられない者たちだ。
その中でも男女どちらも愛することのできない無性愛者は、他人に全く興味を持つことができない。
上辺の人間関係しか形成できないのにも関わらず、それすら面倒に感じてしまう。
クイーンこと音羽薫は、その中でも全てが曖昧な位置にいた。
「よう、クイーン。てか、外ではその呼び方やめろって」
キングこと、本名は
彼は有名なセレブ一家、大崎グループ社長宅の料理長を務めている。
音羽はAGというゲーム内で南と意気投合。
たまにこうしてリアルでも食事をする友人となった。彼とは、なんでも気軽に話すことができ、気楽な仲。
「はいはい。オカマをオカマバーに呼び出す、イカれた野郎さん」
「余計、嫌だ」
と、南はカウンターに項垂れた。
「で、今日はどういった要件?」
音羽は元々中性的。胸には手を入れていた。声も低い方ではないので、一見女性に見える。
「いや、特に用というモノでもないさ」
と言いながら、スマホの画面を見せる南。
見せられたのは一枚の写真のようなモノだった。
盗撮だろうか、ピントが合わないわけではないが顔まではわからない。
「誰」
と、音羽。
こんな風に話の内容が分からないように話すということは、AG関係のことに他ならない。
彼は画面に映る人物の手首のあたりを、コツコツと爪先で叩いた。
そこに注視しろという意味合いだろう。
その人物の手首には特殊な白いリングが存在した。
AGというバーチャルリアリティーゲームは、手首に情報が詰まっているスタイル。なので装備や装飾品には『手首用』というものが存在しない。
つまり、手首に何かをつけている場合、それは運営の一部であるマザーからの配給品と考えて良いのだ。
「なるほどね」
音羽はリングの意味合いを想像し、頷いた。
──いよいよ二十年前の悪夢の再来ってわけね。
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