#1
文字数 1,419文字
白い部屋の中で目が覚める。
大きな窓から、白いカーテンを抜けた光が差し込んでいる。
見覚えのない部屋だ。
しばらくぼぉっとしていると、見知らぬ男性が入ってきた。
彼の髪は薄い金髪で、彼は白い服を着ている。
「目が覚めたかい」
彼は優しい声で私に話しかける。
どう返せばいいのだろうか。「覚めました」では変だろう。
「えっと——、あなたは」
そこまで言って私は思う。
そもそも私は誰なのだろう。
途端に心の奥から不安がむくむくと湧き上がってくる。彼は私に何をしようというのだろう。どうして私は彼と同じ建物にいるのだろう。
「ああ、やっぱり忘れているね」
そう。私は忘れている。何もかも忘れている。何も思い出せない。それが不安でたまらない。
彼は少し悲しそうな表情を見せて、そして微笑んだ。
その理由は私にはわからない。
「君の名前は?」
彼の質問に私の心臓がバクンと鳴った。
えっ。
私の名前は——なんというのだろう。わからないので黙り込んでいると彼は言った。
「わからない?」
黙って小さくうなづく。
「じゃあ、僕がつけてもいい?」
名前、をつけてもらってもいいのだろうか。こんな不審な人に。しかし、名前がないとやはり不便なはずだと思い直し、小さな声で「はい」と言った。
彼が私につけてくれた名前はリリィ。リリィ・ドラドという。
「君の綺麗な金色の羽にはドラドという言葉がぴったりだ」
そう言って彼は満足そうに頷いた。
私はリリィ。リリィ・ドラド。自分の名前を復唱する。
すると彼の名前も気になってきた。
「あなたは、あなたの名前は、なんというのですか」
その質問に彼は思い出したようにあぁと言って自己紹介をした。
「僕はアレグレ・ドラドという。君につけたドラドは僕のファミリーネームからとっているよ。それとも、いや——かな」
そんなことはないという意思表示を込めて首を横に振る。
つけてもらった名前に好きも嫌いもないだろう。
彼も安心したようでホッとしたように息をついた。
アレグレさん。なんだか温かい名前だなと感じた。
名前を知ったところで、気になった質問を投げかける。
「あなたには、どうして羽がないのですか。私にはある黄金色の大きな羽が」
そう。アレグレの背中には何もなく、まるで隙だらけだった。
私の質問に少し黙って肩をすくめ、アレグレは答える。
「訳あってなくしちゃったんだ」
彼は少し哀しそうに笑って背中を見せてくれた。
そこには大きな傷が残っている。
手を伸ばそうとして、慌てて引っ込めた。薄茶色の傷跡が残った傷は痛々しかった。
服を着直したアレグレは部屋を出て、しばらくするとスープを持ってきてくれた。温かくて少し甘さを感じるそれを飲みながら、彼の話を聞く。
「改めて、初めましてだね」
温かいスープは私に安心を与えてくれた。
「君の黄金色の羽はとても素敵だね」
「すごく、似合っている」
自分の羽を褒められたのは嬉しかった。しかし、彼の背中が思い起こされてなんとも言えない気持ちだった。
スープを飲み終わり、彼がくれた服に着替えたところで、私はアレグレとともに街に出かけたることになった。
「街に行ってみない?」
彼が私をそう誘ったからだ。何も知らないまま家を出るのは怖い。しかし、家にこもっていても何もわからない。それに町を見に行きたいと言う好奇心もあった。
家を出て、あたりを見回す。記憶にない見知らぬ街。私の胸は不安と期待でいっぱいだった。
大きな窓から、白いカーテンを抜けた光が差し込んでいる。
見覚えのない部屋だ。
しばらくぼぉっとしていると、見知らぬ男性が入ってきた。
彼の髪は薄い金髪で、彼は白い服を着ている。
「目が覚めたかい」
彼は優しい声で私に話しかける。
どう返せばいいのだろうか。「覚めました」では変だろう。
「えっと——、あなたは」
そこまで言って私は思う。
そもそも私は誰なのだろう。
途端に心の奥から不安がむくむくと湧き上がってくる。彼は私に何をしようというのだろう。どうして私は彼と同じ建物にいるのだろう。
「ああ、やっぱり忘れているね」
そう。私は忘れている。何もかも忘れている。何も思い出せない。それが不安でたまらない。
彼は少し悲しそうな表情を見せて、そして微笑んだ。
その理由は私にはわからない。
「君の名前は?」
彼の質問に私の心臓がバクンと鳴った。
えっ。
私の名前は——なんというのだろう。わからないので黙り込んでいると彼は言った。
「わからない?」
黙って小さくうなづく。
「じゃあ、僕がつけてもいい?」
名前、をつけてもらってもいいのだろうか。こんな不審な人に。しかし、名前がないとやはり不便なはずだと思い直し、小さな声で「はい」と言った。
彼が私につけてくれた名前はリリィ。リリィ・ドラドという。
「君の綺麗な金色の羽にはドラドという言葉がぴったりだ」
そう言って彼は満足そうに頷いた。
私はリリィ。リリィ・ドラド。自分の名前を復唱する。
すると彼の名前も気になってきた。
「あなたは、あなたの名前は、なんというのですか」
その質問に彼は思い出したようにあぁと言って自己紹介をした。
「僕はアレグレ・ドラドという。君につけたドラドは僕のファミリーネームからとっているよ。それとも、いや——かな」
そんなことはないという意思表示を込めて首を横に振る。
つけてもらった名前に好きも嫌いもないだろう。
彼も安心したようでホッとしたように息をついた。
アレグレさん。なんだか温かい名前だなと感じた。
名前を知ったところで、気になった質問を投げかける。
「あなたには、どうして羽がないのですか。私にはある黄金色の大きな羽が」
そう。アレグレの背中には何もなく、まるで隙だらけだった。
私の質問に少し黙って肩をすくめ、アレグレは答える。
「訳あってなくしちゃったんだ」
彼は少し哀しそうに笑って背中を見せてくれた。
そこには大きな傷が残っている。
手を伸ばそうとして、慌てて引っ込めた。薄茶色の傷跡が残った傷は痛々しかった。
服を着直したアレグレは部屋を出て、しばらくするとスープを持ってきてくれた。温かくて少し甘さを感じるそれを飲みながら、彼の話を聞く。
「改めて、初めましてだね」
温かいスープは私に安心を与えてくれた。
「君の黄金色の羽はとても素敵だね」
「すごく、似合っている」
自分の羽を褒められたのは嬉しかった。しかし、彼の背中が思い起こされてなんとも言えない気持ちだった。
スープを飲み終わり、彼がくれた服に着替えたところで、私はアレグレとともに街に出かけたることになった。
「街に行ってみない?」
彼が私をそう誘ったからだ。何も知らないまま家を出るのは怖い。しかし、家にこもっていても何もわからない。それに町を見に行きたいと言う好奇心もあった。
家を出て、あたりを見回す。記憶にない見知らぬ街。私の胸は不安と期待でいっぱいだった。