#12
文字数 1,624文字
その次の日から少し安定した生活は始まった。
僕はニウ夫婦に少しでも迷惑がかからないように一日中街を走り回ってお金と食糧を集めていた。
アセスナは何をしていたかというと、家事に着いてゼレナーさんに学んでいた。
でもアセスナは料理は全然ダメだった。その代わり彼女はその他の洗濯物や掃除がとてもうまかった。
僕もゼレナーさんに学んで少しぐらいは料理を作れるようになった。
そしてある日僕がいつもより早く帰宅すると家にはアセスナがいなかった。ニウ夫婦に行き先を聞いてみるが彼女らも知らないという。
彼女は夕食前に帰ってきた。
僕は行き先が気になったので、その日の夕食でアセスナに尋ねた。
「アセスナ、今日どこ行ってたの?」
それに対して彼女は申し訳なさそうにこう答える。
「——水浴びに」
彼女の羽は黒い。そのことをニウ夫婦は知らない。もし見せたら追い出されるかもしれないと思って言っていないのだ。
彼女らに会うときはアセスナはずっと布を羽織っている。
もちろん家の中で水浴びなどできるはずもない。
「そんなの、うちの水を使えばいいよ」
ゼレナーさんは勧めてくれたがアセスナは首を縦に振らない。
夕食が終わった頃には夫婦も諦めて彼女の外出を許そうとしていた。僕は優しい夫婦に拾われたことを本当に感謝した。
でも、ニウ夫婦は、アスセナはが纏っている布についても不思議に思っているようだった。
何度か彼女になぜ羽織っているのかを尋ねていた場面を僕も見たことがある。毎回ヒヤヒヤさせられたがアスセナの「見せたくないものがあるので」という返答を羽に傷を持っていて、それを人に見せたくないというふうに取ったのだろうか。
「見せたくないならいいよ。病気とかだったら私たちも心配だし教えたくなったら教えてね」
いつも優しく微笑んで許すだけだった。
そんな優しい人たちに守られてきた安定的な生活はある日を境に変貌してしまう。
僕たちが、ニウ夫婦との生活に慣れ始めた頃。
ある日の朝。
「起きろ。起きてさっさとこの家を出ていけ」
「なんということをしてくれたの。穢れた悪魔め」
僕たちはニウ夫婦に突然叩き起こされ、家を追い出されたのだ。
「二度と帰ってくるな」
そう言ってつ近づくことも禁止されたのだが、僕にはやはり何が起きたのかわかっていなかった。
追い出されてしばらく彷徨い歩いていると、アスセナがいきなり僕に謝った。
「ごめんっ」
びっくりして返す言葉を失っていると。彼女は続けて言った。
彼女によると追い出されたのは自分のせいだというのだ。
その日は安定した生活が続いていたせいか気が緩んでいたのだろう。アスセナがいつも被っている布が寝ている間に少し取れてしまっていたのだ。それを見たニウ夫婦が黒い羽に気づいて僕たちを追い出したのかもしれないという。
その話をしている時、アスセナは今にも泣き出しそうな顔をしていた。
あれだけ優しかったら黒い羽も見逃してくれると思うのも無理はない。
油断したのだ。思ったより夫婦の黒い羽に対する反応は酷かった。僕も想定外だった。こんなことになるとは。
「君のせいじゃないよ」
そう言っても彼女の気分を晴れさせることはできなかった。
重い空気のまま僕たちは泊まる場所を探して歩き始めた。夫婦のもとで暮らしていた時に貯めたお金があったのでその日の食料には困らなかった。
一日歩いたが、僕たちを泊めてくれる優しい人々など存在しなかった。元々貧民街などそういうものだ。ニウ夫婦が優しすぎたのだ。今となってはその優しさも演技だったのかもしれないと思ってしまうけれど。
いくら探しても都合のいい建物は見当たらなかった。
僕たちが最終的に寝ると決めた場所は貧民街の端っこを流れる川。それに掛かるボロボロの橋の下の河川敷だ。
貯めていたお金で買った少しの食料を食べ、持っていた布にくるまって眠った。
「消えたい」
うとうとしかけた僕の耳に初めて崩れそうな声が響いた。
僕はニウ夫婦に少しでも迷惑がかからないように一日中街を走り回ってお金と食糧を集めていた。
アセスナは何をしていたかというと、家事に着いてゼレナーさんに学んでいた。
でもアセスナは料理は全然ダメだった。その代わり彼女はその他の洗濯物や掃除がとてもうまかった。
僕もゼレナーさんに学んで少しぐらいは料理を作れるようになった。
そしてある日僕がいつもより早く帰宅すると家にはアセスナがいなかった。ニウ夫婦に行き先を聞いてみるが彼女らも知らないという。
彼女は夕食前に帰ってきた。
僕は行き先が気になったので、その日の夕食でアセスナに尋ねた。
「アセスナ、今日どこ行ってたの?」
それに対して彼女は申し訳なさそうにこう答える。
「——水浴びに」
彼女の羽は黒い。そのことをニウ夫婦は知らない。もし見せたら追い出されるかもしれないと思って言っていないのだ。
彼女らに会うときはアセスナはずっと布を羽織っている。
もちろん家の中で水浴びなどできるはずもない。
「そんなの、うちの水を使えばいいよ」
ゼレナーさんは勧めてくれたがアセスナは首を縦に振らない。
夕食が終わった頃には夫婦も諦めて彼女の外出を許そうとしていた。僕は優しい夫婦に拾われたことを本当に感謝した。
でも、ニウ夫婦は、アスセナはが纏っている布についても不思議に思っているようだった。
何度か彼女になぜ羽織っているのかを尋ねていた場面を僕も見たことがある。毎回ヒヤヒヤさせられたがアスセナの「見せたくないものがあるので」という返答を羽に傷を持っていて、それを人に見せたくないというふうに取ったのだろうか。
「見せたくないならいいよ。病気とかだったら私たちも心配だし教えたくなったら教えてね」
いつも優しく微笑んで許すだけだった。
そんな優しい人たちに守られてきた安定的な生活はある日を境に変貌してしまう。
僕たちが、ニウ夫婦との生活に慣れ始めた頃。
ある日の朝。
「起きろ。起きてさっさとこの家を出ていけ」
「なんということをしてくれたの。穢れた悪魔め」
僕たちはニウ夫婦に突然叩き起こされ、家を追い出されたのだ。
「二度と帰ってくるな」
そう言ってつ近づくことも禁止されたのだが、僕にはやはり何が起きたのかわかっていなかった。
追い出されてしばらく彷徨い歩いていると、アスセナがいきなり僕に謝った。
「ごめんっ」
びっくりして返す言葉を失っていると。彼女は続けて言った。
彼女によると追い出されたのは自分のせいだというのだ。
その日は安定した生活が続いていたせいか気が緩んでいたのだろう。アスセナがいつも被っている布が寝ている間に少し取れてしまっていたのだ。それを見たニウ夫婦が黒い羽に気づいて僕たちを追い出したのかもしれないという。
その話をしている時、アスセナは今にも泣き出しそうな顔をしていた。
あれだけ優しかったら黒い羽も見逃してくれると思うのも無理はない。
油断したのだ。思ったより夫婦の黒い羽に対する反応は酷かった。僕も想定外だった。こんなことになるとは。
「君のせいじゃないよ」
そう言っても彼女の気分を晴れさせることはできなかった。
重い空気のまま僕たちは泊まる場所を探して歩き始めた。夫婦のもとで暮らしていた時に貯めたお金があったのでその日の食料には困らなかった。
一日歩いたが、僕たちを泊めてくれる優しい人々など存在しなかった。元々貧民街などそういうものだ。ニウ夫婦が優しすぎたのだ。今となってはその優しさも演技だったのかもしれないと思ってしまうけれど。
いくら探しても都合のいい建物は見当たらなかった。
僕たちが最終的に寝ると決めた場所は貧民街の端っこを流れる川。それに掛かるボロボロの橋の下の河川敷だ。
貯めていたお金で買った少しの食料を食べ、持っていた布にくるまって眠った。
「消えたい」
うとうとしかけた僕の耳に初めて崩れそうな声が響いた。