#7

文字数 1,959文字

 数日後。
 アレグレとの関係もよくなったところで私は単独で商店街に繰り出した。
 恐る恐る彼に聞いてみると「いいよ」と簡単に許可をもらった。
 もちろん「ちゃんと暗くなる前には帰ってきてね」とも言われた。
 アレグレに心配をかけてはいけない。「明るいうちに帰る」私は肝に銘じる。
 家を飛び出してまっすぐ古本屋に向かう。ランギ・アイル似合うためだ。
 彼女がいるかはわからないがい行ってみる価値はあるだろう。
 商店街を歩いていると店先に大きな羽が見えた。透き通った空色。ランギの羽だ。私はかけだした。店の中に急いで入る。

「ランギッ」

 大きな声で呼びかける。
 あたりが静まった。声を出しすぎたようだ。ランギも困ったような顔をしている。

「あっ。ごめんなさい」

 小さな声で謝り、肩をすくめる。そしてランギに向かって歩いていく。
 開口一番。

「羽について私にもっと教えてほしい」

 彼女にそう頼み込んだ。そんな頼みをいきなりされるとは思わなかっただろう。
 ランギは驚いたような表情をして少し考え込んだ後。

「ん——。じゃあ、店番してくれる」     

 そう言った。
 私に羽の話をするのが嫌だったかはわからないが、少しでも自分の仕事を減らそうとしてくれるのならと思ったのだろう。全く。
 そう考えてはいたが、もちろん了承する。私が知らないことを教えてくれるのだ。他の人に伝手はないので、店番など安いものだった。
 彼女に店できるエプロンを借りる。
 それを身につけて会計の椅子に座る。
 まず、自分の黄金色の羽について尋ねる。自分のことを知っていると知らないとでは聞いた話の臨場感や実感が湧くかどうかが大きく異なると思ったのだ。
 彼女から帰ってきた答えは想定した通りだった。  

「黄金色の羽はとても珍しくて、その羽を持つものは優秀であるとされるの。この街の権力者のほ
とんどはそれに似て色を持つし、その輝く羽に皆は憧れるわ。もちろん私も、ね」

 羽の色だけで優秀と決めつけるのはどうかと思うし、褒めてもらった言葉もあまり心には響かなかったが、私は彼女は教えてくれたことに素直に感謝する。

「ありがとう。あなたの透き通るような水色も綺麗よ」

 心から誉めたつもりだが、お世辞にや皮肉に聞こえたのだろうか。彼女は浮かない顔で、ただありがとうと言った。
 そして約束通り私は彼女に代わって店番をする。会計の椅子に座って客を見つめるだけの仕事だが様々な客が訪れたので飽きなかった。
 店内を眺めていると、不意に不審な客に気づく。
 彼は普通の人より一回り二回りくらい大きなオレンジ色の羽を持っていた。その色はとても鮮やかでしばらく見とれていた。
 すると、彼の手が置いてある本に触れた。そうしてすぐ彼はその本を大きな翼に隠し、私から見えないようにして店から出て行こうとした。ように見えた。
 もちろん私は慌てて彼に声をかけ、引き留める。

「あなた、今本を手に取りましたよね。ちゃんと料金払いましたか」

 そう聞かれて彼はあからさまに怪しいそぶりを見せた。あたりを見まわし、「えぇっと」としどろもどろにいう。
 面倒ごとに巻き込まれたと思ったのだろう。客の一部がこちらを見ながら店を出ていく。

「カバンの中身を見せてください」

 そう私に言われて彼は渋々持っていて大きなバッグを投げ出す。
 その中身を私は一つ一つ丁寧に見ていった。
 しかし、その中には本一冊入っていなかった。では私が見たのはなんだったのか。
 彼のカバンには手製の薄暗い髪を束ねただけのノートのようなものが入っていた。
 騙された。そう感じた時にはもう遅かった。顔を上げると彼は笑っていた。もちろん声には出していないが、顔には勝ち誇ったような笑みが浮かんでいた。

「共犯は誰。さっきここを出ていった人の中に盗んだ人がいるはずよ」

 彼に向かってなるべく威圧するように言う。
 しかしもちろん効果はない。
 彼は笑みを浮かべたまま黙っている。

「答えなさい」

「知らないよ」

「誰なの。答えて」

「知らないんだ。答えようがないだろ」

 このやりとりが四、五回続いたところで意味はないと悟り、私は彼を解放した。
 そうせざるをえなかった。このまま彼一人に構っていては他の客に疎かになってしまう。
 それに、このまま声を荒げ続けても店の印象が下がって客が減ってしまうだけだと思ったのだ。
 渋々会計の場所に戻っていく。彼は悠々とした足取りで店を出ていった。
 この書店には特に高価な本は並んでいない。一気に数十冊盗むならまだしも一冊だけでは利益はほぼ内に等しい。しかも一回に墨を働いたら二度目に入店した時に警戒されるので同じ店で二度は使えない。警察に捕まる危険に見合う犯罪ではない。
 完全に私に対する嫌がらせのためだけの窃盗だった。
 悔しくて自分に腹が立った。
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