#5

文字数 1,881文字

 しばらく走っていくつか角を曲がると家に着いた。扉を勢いよく開けるとアレグレは座っていた椅子から立ち上がり、私にかけよる。

「どこに行っていたの」

 心配そうに彼は尋ねる。
 彼の気持ちは伝わったが、今は急いでいるので返事を返している暇はない。

「何か食料ない?」

 答える代わりに彼に聞く。
 少し経って彼が渡してくれたパンなどを持って家を飛び出す。
 外は完全な暗闇になっていて、家に灯る明かりと、ところどころある街灯の弱々しい光があるばかりだ。

「ちょっとっ」

 いきなり家を飛び出した私を追ってアレグレも走る。
 帰ってくるとき通った道を通り、路地裏に到着した。しかし、そこにシェダーはいなかった。
 私もアレグレも肩で息をしている。
 本当にいなくなったのか。私が場所を間違えただけではないのか。
 辺りを見回すと「俺と話してくれてありがとう。さようなら シェダー・グリセル」という辿々しい字で書かれた紙が落ちていた。
 その場に立ち尽くして考える。
 私が家に帰った後に気が変わったのだろうか。それとも私たちの話を誰かが聞いていてその人に食料を取られないよう身を隠したのだろうか。
シェダーの安全が心配になってきた。
アレグレにも頼んで灰色の翼を持った彼を探してもらう。しばらく二人で探し回ったが路地には人はおろか、動物一匹いなかった。

「もう帰ろう」

 アレグレにそう言われ仕方なく家に向かう。これ以上探しても意味はないだろう。そうはわかっていてもどこか諦められない。
 ずっと探し続けても意味はない。無理やり自分を納得させてアレグレと共に家に向かって歩き出した。
 一言も口をきかないまま家に入り食卓についた。
 アレグレが準備してくれていたご飯を食べる。
 掘っておいて飛び出したせいだ。料理はすっかり冷たくなっていた。

「なんで黒い羽を持つ人々は嫌われているの」

 彼に聞いてみたかったのだ。

「——不幸を呼ぶと恐れられているからじゃないの」

 彼は少し詰まってから答える。

「そんなこと知ってるよ。でも、ただの色の違いじゃない」

 口調が強くなってしまう。彼には関係ないとわかっているのに。
 それに対して彼は困ったように言った。

「そうなんだけどね」

 それ以上聞いても意味がないと見切りをつけ、私は話題を変える。

「どうしてあなたには羽がないの」

 アレグレは黙ったままだった。硬い表情をしている。
 続いて恐る恐る聞いてみる。

「あなたが自分で切り落としたの」

 ——はぁ。
 私には少し諦めた感じに聞こえた。
 彼は小さく頷いた。さらに聞く。

「どうして?」

 アレグレは答えない。顔を背けて俯いたままだ。

「あなたの羽は何色だったの?」

 私はさらに尋ねる。
 がしかし、あなたは寂しそうに笑ったまま答えようとしない。
 そのまま何の会話もなく夕食は終わった。
 ぎこちない空気のまま私たちの夕食は終わった。そのまま何事もなく床につく。
 布団にくるまって、いなくなってしまったシェダー・グリセルと無くなったアレグレの羽について考えていた。


 ふと目が覚めた。どうやらいつの間にか眠ってしまっていたようだ。窓の外から眩しい光が差し込んでいる。

「おはよう」

 目を覚ましてしばらくベッドの上でぼぉっとしていると、彼がドアをあけ朝食の準備ができたと呼んでくれた。心なしか声がいつもより低い。
 アレグレと一緒に朝食を食べる。昨日のこともあって食卓は静まり返っていた。
 その日は一日家の中で過ごした。
 外に行きたくなかったわけではない。
昨日のことがあって、アレグレをとても心配させてしまったので外に出ると彼にさらに迷惑をかけてしまうと考えたのだ。
それに、アレグレと話をするのが気まずかったと言うのもある。
 家に一日中こもっているのだから時間は有り余るほどある。その時間を使って私は考えていた。
 ずっとアレグレの羽について考えていると、ある可能性に思い至った。それはアレグレが自ら羽ウィ切り落とした理由についてだった。
つまり、アレグレの羽は黒色だったのではないかと言うことだ。
黒い羽を持っていたから、周りから嫌われ、自分の黒い羽を自分で切り落とした。そうならば説明がつくと思う。
そして、彼が私が話した黒色の羽に対してぼんやりした返答しかしなかったのもそれが理由だと思った。
 きっと黒い羽を持っていたことで彼は想像もつかないような苦しみを味わったのだ。自分の羽を自分で切り落とそうとするくらいに。
 そう考えると、彼に羽や彼の過去に関する話をするのは酷だと思った。
羽を持っていた頃のあなたの姿を想像したりしない。
 私は心の中で固くそう誓った。
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