#16

文字数 1,037文字

 さらに街が明るくなってアスセナが目覚めた。
 今晩、襲撃されることはなかった。橋の下に戻ってもおそらく安全だ。その前に、今日の食糧を集めなければ。
 目標を決めて僕たちは歩き出す。
 歩きながら僕はずっとゼレナーのことを考えていた。彼のことが許せない。アスセナを限界まで追い込み、彼女の扉を壊したあいつが。
 そのやるせない気持ちはどんどん彼に復讐したいと言う方向に向かっていく。それを具体的な計画をする前にとどめてくれたのはアスセナの声だった。

「大丈夫?怖い顔をしているよ」

 彼女こそ大丈夫ではないだろうに。それなのに僕を気遣ってくれる。そんな彼女を悲しませたくなかった。復讐なんて考えても僕の満足にしかならない。そう納得させてくれた。
 でも、僕には彼女を根本から幸せにする術がない。そのことにずっと悩んでいた。
 そんな苦悩の中でも、無事に食料は見つかって騒動なく一日が終わった。
 二日振りに戻ってきた橋の下で夕食を食べている時、僕はアスセナに言ってみた。
 彼女は喜んでくれるだろうか。

「記憶と引き換えに羽の色がからるなら、そうしたいと思うかい」

 僕の言葉を聞いて彼女は顔を伏せ、何か言った。
 でもそれは小声で、僕には聞き取れなかった。


 そしてその次の日から、彼女は変わった。
 僕の前で彼女は「消えたい」と言わなくなった。
 言いたいはずなのに。誰かにもたれかかって辛いことや悲しいことを聞いてもらいたいはずなのに。彼女は泣かなくなった。何があっても平気なふりをするようになった。
 その理由が僕にはわかった。
 おそらく彼女は僕に迷惑をかけたくないと思ったのだろう。
 でも彼女は今にも壊れそうだ。僕がそんな彼女を心配していることに気づかないのだろうか。それともこれは僕への迷惑に入らないのだろうか。
 寝る前、いつも僕は布にくるまって考える。
 君にはどんな色が似合うかな。僕にそれを選ぶ権利はないけれど、きっと僕の黄金色は君の金髪に似合うはずだ。


 その日、僕はいつもよりだいぶ遅く橋の下に戻った。あたりはもう明るくなる時間帯だ。
 眠っている君の頬には涙の跡が残っている。
 僕がいないから。僕に弱さを見せなくてもいいから存分に泣いたのだろう。
 泣き疲れて眠っているアセスナに僕はそっと語りかける。

「さようなら」

「また今度『初めて会った』ら素敵な羽だと笑顔で褒めてあげる」

 そう言って彼女にそっと移し替えるために、
 僕は拾ってきた大きな刃物を
 震える手で背中に当てて、
 羽を切り落とした。
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