魔法発表会 1

文字数 2,815文字

 2日後の水曜日。私が帰宅すると、マホが私に魔導石を差し出した。
出来ましたわ

ピコさんのぶんの魔導石ですわよ

えっ、どういうこと?
ナノさんから伺いましてよ

ピコさんが魔法を習得して魔法発表会で披露なさると

初耳だよ!

ナノってば、どうしていつも私のやることを勝手に決めて、しかもそれを私に伝えもしないかな!

あらまあ

わたくしはてっきりピコさんからおっしゃったものとばかり……

申し訳ありませんわ、この話は無かったことに
 マホは恐縮して魔導石をしまおうとした。いや、私はやりたくないわけじゃなくて、驚いただけなんだって。
いや、やるよ、せっかくだから

教えてよ、魔法

 私はマホの魔法にあこがれていたと思う。なので魔法を習うことにためらいは無かった。


 魔法の訓練は、魔導石から魔力を受け取るということから始めた。魔導石を握って呪文を唱える。基本的な魔法の場合は慣れれば呪文は必要ないらしいけど、初心者はとにかく呪文を唱えることで魔法の型が身に付くそうだ。徐々に魔導石が暖かくなり、不思議な感触が手のひらから腕に広がっていく。これが魔力なのだろう。


 次に、光を(とも)す魔法の訓練。魔力を手にためて呪文を唱える。

光よ、灯れ
 何も起きない。気合を込めてもう一度呪文を唱えたけど何も起きない。何度も繰り返した。
うまくいかないなあ
まあ最初はそういうものかもしれませんわね
どうやったらコツをつかめるんだろ
さあ……

わたくしの場合、初めて魔導石を触った時からこのような魔法はできましてよ

 なんて参考にならないアドバイス。ひょっとして、この世界の人間には魔法は使えない? この世界に魔法を広めるという目標は、女神が憶測を誤った? いや、もっと試してみないとわからない。


 私は指先を見つめ、想像した。魔導石から魔力が手のひらに流れ、それが指先から出てくる。魔力は光に変わり、シャボン玉のようにあふれ出てくる……。

うわあ、できてますわ、ピコさん!
 はっ、と我に返った。私の指先から光があふれ出ている。想像じゃない、現実に!
すごい!

私、魔法を使えてる!

でもなんで指先?

指先から光が出るのを想像したから?

そうでしてよ

魔法を制御するのに、想像することはとても重要なのですわ

じゃあ、もし鼻の穴から光が出るなんて想像したら……
 私の視界の下のほうが明るくなった。これってもしかして私の鼻の穴が!?
ぷぷっ
 マホが口を押さえてうずくまった。必死で笑いをこらえている。
いやー!

見ないで!

 私は魔導石を放り出して鼻を隠した。魔導石を放したことで光は消えたので、隠す意味は無かった。


 その次は物を空中に浮かせる念動魔法。さっきので魔法のコツをつかんだので、軽いものなら浮かせることができるようになった。しかし自分が空中に浮く浮遊魔法は成功しなかった。

 空中に浮く魔法に何度もチャレンジしたものの一度も成功しないまま、魔法発表会の当日を迎えた。


 マホとリンを連れて待ち合わせ場所の空き教室に行くと、ナノはもう来ていた。教室の中には大きな水槽があり、1匹の(こい)が泳いでいる。

これを使うの?
そうなのー

魔法の実演で好きに使っていいのー

 今日のナノの服はやたら派手なゴスロリファッションにいつものウサ耳カチューシャだ。ナノの見た目の幼さゆえにあまり違和感が無い。
今日はやけに派手な服だね
派手なほうがインパクトあるのー
なんじゃ、わらわの普段着とあまり変わらぬではないか
 そう言ってリンがナノの横に並んだ。リンはアンティーク人形だからいつもゴスロリ。まるで姉妹のようだ。
これがマホとピコの衣装なのー
 ナノは私たちに衣装を手渡した。広げてみると……バニーガールの衣装!?
なにこれ!

こんなの着る必要ある!?

ショーの主役だからねー、このくらい派手にしたほうがいいのー
魔法発表会はエンターテイメントじゃないんだよ!

真面目に魔法を紹介するためのものなのに、こんなの場違いすぎるよ!

 マホはバニースーツを眺めて首を(かし)げた。
まあ、かわいらしい服ですこと

どうやって着るのかしら

楽しみですわ

 バニーがどんな服なのか絶対わかってないよ、この人。
着なくていいよ、そんなおかしい服!

私は今着てる服でやるから!

うーん、バズれば魔法を広める手間が省けると思ったのー

でもそんなに嫌なら無理に着なくていいのー

 私はバニースーツをカバンにしまい、水槽を講堂に運ぶのを手伝った。
 広々とした講堂には何百人もの人が集まっていた。その多くは学生だけど教職員も少なからずいる。講堂の中央ではビデオカメラが回っている。そんな中で私たち4人が壇上に立っている。私が緊張でカチカチになっているそばで、ナノは平気な顔でマイクを手にした。
レディース・アンド・ジェントルメーン!

あたしたちの魔法発表会にお集まりいただき、ありがとうなのー!

 ナノはやっぱりショーをする気だ!
ここにいる金髪美女はねー、なーんと!

異世界からやってきた魔法使いなのー!

 ナノはマイクをマホに手渡した。
皆さん、初めましてですわ

わたくしのことはマホとお呼びくださいませ

 マイクが私に回ってきた。こんな雰囲気のつもりじゃなかったんだけどな……。とりあえず予定通りにしゃべることにしよう。
機械情報工学科2年の鴨川です

私たちが遭遇した魔法という現象についてぜひ皆様に知っていただきたく、この会を開催いたしました

まずは実際にご覧になってもらいましょう

物を空中に浮かせる魔法です

 マホが水槽に手をかざすと水面が盛り上がっていき、水の柱となった。手を振ると動きに合わせて水の柱が講堂の中を飛び回った。客からは歓声が上がった。水が水槽に戻ると今度は鯉が空中に舞い上がった。

水が空中を舞った後は鯉が空中に

マホさん、鯉をどうしますか?

 私はマイクをマホに向けた。
はい

先日初めてお刺身というものをいただきまして、わたくしも作ってみたくなりましたわ

ご覧くださいませ、風の(やいば)

 マホが鯉に向かって手を突き出すと、鯉がばらばらに切り刻まれた! 血しぶきが飛び散り、講堂は客の悲鳴に包まれた。マホは大きな皿の上に鯉の破片を全部載せた。
出来ましたわ

鯉のお刺身でしてよ

 内臓がぐちゃぐちゃで血まみれ。もしアニメ化したら絶対モザイクがかかるような惨状だ。

そんな気色(きしょく)悪いの、お刺身じゃない!

どうにかしてよ、それ!

お気に召しませんでして

では元に戻しますわ

この傷ついた者の体を構成するすべてよ、体をあるべき姿に戻せ……
 マホの手から光が出て鯉を包んだ。バラバラだったのが1つにつながり、切り口がみるみる消えていった。そして鯉は皿の上で元気にはねた。どよめきの声が上がった。
ご覧くださいませ

治癒魔法で完全に回復しましたわ

鯉にはものすごいショッキングな体験をさせちゃったね
 あまり良い方向性じゃないけど、インパクトは十分に与えたようだ。こうやってツッコミを入れながら次々と魔法を紹介していこう。
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登場人物紹介

ピコ (鴨川美咲 かもがわみさき)

工学部の大学生。幼いころから工作やプログラミングに取り組んでいて、頭脳明晰なため技術方面に非常に明るい。人付き合いは苦手だが、ツッコミだけはやたら上手。アニメが好き。合理主義者で、効率とかエコとかを重視する。地味メガネ。

口調:「私はピコだよ」「私はピコです」

ナノ

ピコの親友。商学部の大学生。行動力抜群で交渉能力にたけていて、誰に対しても馴れ馴れしく図々しい。思いついたことはどんなに大がかりなことでも下らないことでも実行する。ピコ並みに頭がいいが発想が幼く、よく「うんこ」とか言う。大浴場が好き。小さくてかわいい。いつもウサ耳カチューシャをつけている。

口調:「あたしはナノなのー」

マホ (イリス・オリヴィエ)

異世界で冒険者や軍人をやっていた魔法使い。死後に女神に会い、そのままの姿で転移してきた。この世界に魔法を広めようとしている。一般常識にうとくて天然ボケ。やけに食に執着している。いろいろと大きい。

口調:「わたくしはマホですわ」

リン

アンティークドールにマホが魔法をかけて作ったオートマタ(自動人形)。マホの秘書のような立場だけどあまり役に立っていない。自己中心的で、意地悪、上から目線。

口調:「わらわはリンじゃ」

筧雅行 (かけいまさゆき)

ピコの大学の研究室の先輩。ピコの影響でロボット工学に魔法技術を取り入れる研究をすることになった。登場人物の中で最も一般的な感性を持つ常識人。

口調:「僕は筧だよ」「僕は筧です」

チア (榊原千秋 さかきばらちあき)

魔法を習得して社員になることになった。いつもやる気がみなぎっている熱血タイプ。何事も頭は使わず気合と根性で乗り切る脳筋。スポーツが好きで、特にバスケが好き。

口調:「自分はチアッス」

鈴木

魔法を習得して社員になることになった。前世は最強の闇魔法使いだったと言い張る中二病。ダークでクールな雰囲気を演じているが内向的。妄想をノートに書き溜めている。

口調:「我はブルトゥシュヴァリエだ」

メカナノ

心を持つロボット「ピアロイド」の試作機。広報担当。見た目はナノにそっくり。お笑いが好きでしょっちゅうふざける。

口調:「うちはメカナノ言います」

メカマホ

心を持つロボット「ピアロイド」の試作機。広報担当。見た目はマホにそっくり。メカナノと同じ性格に造られたはずなのだが、硬派な報道を担当しているせいか言動は落ち着いている。

口調:「うちはメカマホ言います」

委員長 (桜田明美 さくらだあけみ)

名高い建築士として中途採用された。顧客から要求されたものを完璧に設計するが自分のアイデアは全く盛り込まない。生真面目な堅物だが酒をこよなく愛する。

口調:「私のあだ名は委員長だわ」

フィオ (泉沙理亜 いずみさりあ)

楽園建設社長を任された。人の適性を見抜く能力にたけていて会社組織を作るのがうまい。興味の無いことは全く気にしなくて、だらしなく無気力なことが多い。ゲームが好き。

口調:「私はフィオだぞ」

ルナ

エンパワー社の開発したタブレット端末。人工知能を搭載していて会話ができるが自分の意志は持たない。画面には女の子が表示される。

口調:「私はルナだよぉ」

サフィーヤ

モーリタニア政府から派遣されて、住民の困りごとを解決する仕事をすることになった。優しくて気が利き、誰に対しても親切にするが、特にピコを気に入っている。料理が好き。

口調:「私はサフィーヤというデス」

スライマーン

ベテラン国会議員。頑張る人が報われる世の中を目指して経済発展に力を入れている。猫が好き。

口調:「私はスライマーンであります」

ジャスティス仮面

世の中は陰謀に満ちていると信じ、悪と戦う正義のヒーローを自称しているが、性格はゲス。絶対正義党を立ち上げて、陰謀に対抗する仲間を集めている。

口調:「私はジャスティス仮面ナリ!」

アキコ

心を持つロボット「ピアロイド」。物静かで奥ゆかしい。でも困りごとに直面したときの行動力は結構高い。

口調:「私はアキコですの」

パトリック

絶対正義党員。魔法の腕前が非常に高い。顎が長い。

口調:「俺はパトリックだ」

ミラ

楽園フーズで企画を担当していて、いつもいいアイデアを出す。ノリが軽い。お祭り大好きなパリピ。

口調:「あーしはミラだしー」

サミール1世

即位して間もないモロッコ国王。政治だけでなく経済にも影響力が大きい。器が大きい。

口調:「余が国王である」

タマ

研究用に頭の上部だけ作ったオートマタ。意志を持たない。

ピコの母

実に庶民的。

学生A

魔法発表会のときにいた人。

学生B

魔法発表会のときにいた人。

学生C

魔法発表会のときにいた人。

学生D

魔法発表会のときにいた人。

学生E

魔法発表会のときにいた人。

電子工学科の学生

電子顕微鏡を扱える。

材料工学科の学生

折れにくい棒の材料を研究している。

安川

機械工学科の先生。ピコの研究の指導をする。

学長

大学の学長。

飯島

医学部の先生。

電子工学科の先生

魔法発表会のときにいた人。

政治学の先生

魔法発表会のときにいた人。

記者A

記者会見のときにいた人。

記者B

落成式のときにいた人。

ショウ

魔法を習得する新入社員の募集に応じた。派手でチャラいナンパ男。

山本

魔法を習得する新入社員の募集に応じた。あまりしゃべらない。特技は柔道。

岡部

経理をしている社員。

社員A

魔法を習得する新入社員の募集に応じた。

社員B

モブ社員。

社員C

船旅中に子供たちに勉強を教えていた。

開発者A

ロボットの開発者。

開発者B

ロボットの開発者。

開発者C

ロボットの開発者。

開発者D

ロボットの開発者。

開発者E

ソフトウェア開発者。

開発者F

システムエンジニア。

開発者G

人工知能技術者。

楽園ロボティクス社長

パッションロボティクス事業部長から楽園ロボティクス社長になった。

楽園ロボティクス部長

製造・流通の仕事の取りまとめをしている。

怪しい人A

秘密集会のリーダー。

怪しい人B

秘密集会の参加者。

怪しい人C

秘密集会の参加者。

作業員A

溶接作業をしていた人。

作業員B

床を平らにする作業をしていた人。

作業員C

トラス構造を作っていた人。

作業員D

クリスマスパーティーで話しかけてきた人。

ピザ屋

ピザの宅配に来た人。

料理人

食堂で働いている。

住職

寺にいる。

店員

服のレンタル店で働いている。

チャン・リーファン

落成式に来賓として来ていた建築家。

来賓A

落成式のときにいた人。

来賓B

落成式のときにいた人。

来賓C

落成式のときにいた人。

高野

楽園フーズの社長をすることになった。

グエン

楽園交通の社長をすることになった。

部田

買ったロボットが失踪して困っていた人。女性と話すと緊張する。

冒険者A

バッタ討伐隊のメンバー。

冒険者B

バッタ討伐隊のメンバー。

絶対正義党員A

集団の中にいた、仮面をつけた人。

絶対正義党員B

集団の中にいた人。

絶対正義党員C

集団の中にいた人。

ロックウルフ

魔法武闘会での絶対正義党チームの選手。

チャコ

魔法武闘会での絶対正義党チームの選手。

観客A

ロボット研究成果発表会にいた人。

観客B

魔法武闘会にいた人。

観客C

魔法武闘会にいた人。

インクレディブルプランナー加藤

役員選挙の候補者。意識高い系ビジネス用語をたくさん使うほど頭がいいと思っている。

マリア

役員選挙の候補者。動画配信者として無謀なチャレンジをしている。

護衛

モロッコ国王の護衛をしている。

政府職員

モロッコ政府の偉い人。

アナウンサー

報道番組のアナウンサー。

育児士

よその子供を預かって育てている。

案内人

迷路商店街の案内所で店を探すヒントを与えている。

喫茶店員

迷路商店街の喫茶店で働いている。

星空屋店主

迷路商店街で天文グッズの店を営んでいる。

自動運転車

人工知能搭載の小型貨物車両。ロボットアームがあり、自動で荷物の配達や回収をする。

群衆

観客たちが一斉に声をあげたときなどのセリフ。

姿無しA

誰だかわからないセリフ。

姿無しB

誰だかわからないセリフ。

姿無しC

誰だかわからないセリフ。

姿無しD

誰だかわからないセリフ。

姿無しE

誰だかわからないセリフ。

姿無しF

誰だかわからないけどなんか特徴的なしゃべり方の人のセリフ。

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