人魚号からプロトキャッスルへ 4

文字数 3,213文字

 翌日からプロトキャッスルの経済システムが稼働した。何でも無料だった人魚号とは違い、お店では電子マネー「ラクドル」を使う。楽園が発行するドルだからラクドル。1ラクドルは10円くらい。あらかじめ私の銀行口座にあるお金の一部をラクドルに換えて社内システムの口座に移しておいた。ルナを使ってフードコートの朝食の注文をしたときにラクドルで会計した。お金を払うのが久しぶり。


 グランドシャフト内の螺旋(らせん)エスカレーターも稼働している。31階から30階へのエスカレーターに乗り、そこから隣の高速エスカレーターに乗り換えた。速度が違うのでタイミングを見計らって乗る必要があるけど、慣れれば何でもなくなるだろう。エスカレーター上にある椅子に座ったままぐんぐん下の階に降りていく。24階で隣のエスカレーターに乗り換え、23階に着いた。なんか遊園地の乗り物みたいだ。

 朝食を済ませて午前中の仕事をした後、お昼に店舗のフロアをうろついてみた。まだまばらにしかお店が建ってなく、工事が済んでいるお店でもまだ人手も商品もそろっていないせいか営業を始めていない。今は閑散(かんさん)としているけど圧倒的な広さは感じる。ここが完成したらにぎわう街になるんだろうなと思う。かろうじてコンビニが開いていたのでお菓子を買った。この店は原則セルフレジ。プロトキャッスルの店の多くはセルフレジになるようだ。


 翌日の会議のとき、サフィーヤさんが妙な話を始めた。

政府からの情報デスけど、ヌアクショットの近くの砂漠で巨大怪獣が目撃されたそうデス
その目撃情報によると、砂丘の向こうに巨大な何かが横たわっている姿が見え、顔のようなものが見えたそうデス
高さは何十メートルもありそうだったそうデス
砂丘の向こうに別の砂丘があったとかじゃない?
何十メートルもの砂丘がそんなに急にできたりしないデス
きっとドラゴンですわ
ドラゴンが横たわった状態での高さなんて、せいぜい十数メートルだと思うぞ
あまり大きいと体が重力に耐えられないし、えさも足りなくなるぞ
そもそもこの世界にはいないものを本気で考えないでください
ドラゴンもきっとこの世界に転生してきましてよ
なんか面白そうなのー

いつか砂漠に探検に行きたいのー

今日ヌアクショットからいらっしゃる方々は無事かしら
 そう、今日はチアたち魔法講師が新たな住人たちを連れてやって来る。魔法講習を受けた建設作業員のほかに、店員や事務員になる人たちもいる。


 マホたちの心配をよそに、チアたちは予定通りに到着した。私たちが出迎えた。

皆さんご無事でなによりですわ
お久しぶりッス!

いやー、ほんとにデカいッスね、この建物

巨大怪獣は見なかったデスカ?
怪獣?

見てないッスよ?

というか、このプロトキャッスルを遠くから見たらまるで怪獣みたいッスね
なるほどなのー

こんなおっきなものがいきなりできたのー

知らない人が見たら怪獣が遠くからやって来たと思うのー

 私たちはプロトキャッスルが徐々に高くなっていくのを見てるけど、てっぺんまで出来ているのをいきなり見た人は私たち以上に圧倒されるだろうな。


 200人以上を連れて螺旋エスカレーターに乗った。全員で列になって椅子に座ると、なんだかジェットコースターみたいだ。1階から一気に31階へ。もしエレベーターだったらこの人数だと何十分もかかっただろう。もし普通のエスカレーターだったら乗り降りが60回必要だった。私は得意げになって案内した。


 説明や案内を済ませて、久しぶりにチアと鈴木と一緒に夕食をとることにした。まず私がルナから予約をしてみせる。

ルナ、晩ご飯
はぁい、今日のメニューだよぉ
ピコの言い方、まるで夫婦仲の悪い夫だな
毎日同じこと言ってるとだんだん短い言い方になってくるんだよ
ルナはちゃんとわかってくれてるから大丈夫
おっ、メニューが増えてるッスね

10種類もあるのは嬉しいッス

住人が増えてきたらメニューももっと増えるよ
うむ、サラダは存在せぬようだな
新鮮な葉物野菜は手に入りづらいからね
逆に手に入りやすいものってあるッスか
タコだね

タコはモーリタニアの特産物だからよく仕入れてくるんだよ

たまにお昼のメニューにたこ焼きがあるよ
外国の人には珍しがられそうッスね
マホが「たこ焼きはイカ焼きとはずいぶん違いますわね」って不思議がってたよ
イカ飯とタコライスのほうが違うッスよ
タコライスって!

それタコと関係ない!

タコライスは今日のメニューには無いよぉ
 なんかルナが誤検知した。
ああ、注文の途中だったね

何にしようかな

今日のおすすめは()げナス定食だよぉ
なんで揚げナスがおすすめなんスかね
今一番賞味期限が気になる食材だよぉ
そういうぶっちゃけ話はいらないよ!
自分はこのくらい正直なほうが信頼出来て好感持てるッスよ
それより何食べるんスか?
今日はおなかがすいたから、こってりしたものが食べたいな
脂肪分をとるならラーメンがおすすめだよぉ
でもビタミンが少ないからぁ、野菜(いた)めとかニンニクを載せたらどうかなぁ
 栄養面のアドバイスを事前に出してくるのが、プロトキャッスルで導入された新しい注文システムだ。ご飯の量とかを指定しなければ普段通りの量にしてくれる機能も実装された。
ほら、栄養面での提案をしてくれるようになったんだよ

私のアイデアが実装されたんだよ

へえ、すごいッスね
我は孤高ゆえルナの指図(さしず)など受けぬがな
なんか面白い提案してこないッスか
面白いものを食べたいならぁ、ラーメンのオプションをルーレットでランダムに注文しちゃうよぉ
いいッスねー!

やっちゃうッスよ、ピコ先輩!

 ランダム注文にはあまり()かれないけど、1回くらい試してみてもいい気もする。
えー

でもまあ、せっかくだからやってみるか

じゃあルーレットをお願い

ルーレット、いっちゃうよぉ
まずは(めん)

ダララララ……

 アプリのくせに効果音は声なんだ。
ちぢれ麺の細麺だよぉ

スープがからんで味がはっきりするよぉ

次はトッピングその1

ダララララ……

レア物ゲット!

野菜炒めだよぉ

シャキシャキした歯ごたえがたまらないよぉ

さっき勧められた野菜炒めだ
結構いいのを引き当てたけど、「レア物ゲット」ってセリフはゲームのガチャだよね
次はトッピングその2

ダララララ……

激レア!

おめでとう、フカヒレだよぉ!

普通なら100ラクドル追加しないといけない超高級トッピングなのに無料だよぉ
やった!
ピコ先輩、引きが半端ないッス!
最後はスープだよぉ

これで全体の味が決まっちゃうよぉ

ダララララ……

超激レア!
 激レアよりもさらに上があった! フカヒレよりも上って、いったいどんなの!?
おめでとう、オレンジジュースだよぉ!
ラーメンにオレンジなんて、普通だと絶対食べることのできない裏メニューだよぉ!
せっかくのフカヒレが台無しだよ!
そういうネタ枠はいらないから注文やり直し!
注文のやり直しはできないよぉ
もしルーレットでやり直しができたらぁ、みんな激レアを引くまで繰り返しちゃうよぉ
ぐぬぬ……

 結局、フカヒレ野菜炒めオレンジラーメンを食べた。オレンジジュースの湯気が結構鼻に来る。野菜炒めのしょっぱさとオレンジの甘酸っぱさが完全にミスマッチ。この組み合わせは無し寄りの無しだ。


 私がラーメンをなんとか完食しようと必死になっている間、チアはヌアクショットでの体験を語ってくれた。

魔法講習の総仕上げとして、みんなで砂漠に行って石像を作ったッスよ
へえ

何の像?

アザラシッスよ

駐車場にあったやつのでかい版ッス

あー、私とマホでなんとなく作ったアレね
アザラシであることに意味は無いんだけどなあ
でもあのイメージが強すぎて、作るものはアザラシしか思いつかなかったッス
だいたい200メートルになったッスよ
 私はラーメンを吹き出しかけた。
それ、巨大怪獣って(うわさ)になってるよ!
 巨大怪獣の噂の真相は、あとでサフィーヤさんから政府に伝えてもらった。
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登場人物紹介

ピコ (鴨川美咲 かもがわみさき)

工学部の大学生。幼いころから工作やプログラミングに取り組んでいて、頭脳明晰なため技術方面に非常に明るい。人付き合いは苦手だが、ツッコミだけはやたら上手。アニメが好き。合理主義者で、効率とかエコとかを重視する。地味メガネ。

口調:「私はピコだよ」「私はピコです」

ナノ

ピコの親友。商学部の大学生。行動力抜群で交渉能力にたけていて、誰に対しても馴れ馴れしく図々しい。思いついたことはどんなに大がかりなことでも下らないことでも実行する。ピコ並みに頭がいいが発想が幼く、よく「うんこ」とか言う。大浴場が好き。小さくてかわいい。いつもウサ耳カチューシャをつけている。

口調:「あたしはナノなのー」

マホ (イリス・オリヴィエ)

異世界で冒険者や軍人をやっていた魔法使い。死後に女神に会い、そのままの姿で転移してきた。この世界に魔法を広めようとしている。一般常識にうとくて天然ボケ。やけに食に執着している。いろいろと大きい。

口調:「わたくしはマホですわ」

リン

アンティークドールにマホが魔法をかけて作ったオートマタ(自動人形)。マホの秘書のような立場だけどあまり役に立っていない。自己中心的で、意地悪、上から目線。

口調:「わらわはリンじゃ」

筧雅行 (かけいまさゆき)

ピコの大学の研究室の先輩。ピコの影響でロボット工学に魔法技術を取り入れる研究をすることになった。登場人物の中で最も一般的な感性を持つ常識人。

口調:「僕は筧だよ」「僕は筧です」

チア (榊原千秋 さかきばらちあき)

魔法を習得して社員になることになった。いつもやる気がみなぎっている熱血タイプ。何事も頭は使わず気合と根性で乗り切る脳筋。スポーツが好きで、特にバスケが好き。

口調:「自分はチアッス」

鈴木

魔法を習得して社員になることになった。前世は最強の闇魔法使いだったと言い張る中二病。ダークでクールな雰囲気を演じているが内向的。妄想をノートに書き溜めている。

口調:「我はブルトゥシュヴァリエだ」

メカナノ

心を持つロボット「ピアロイド」の試作機。広報担当。見た目はナノにそっくり。お笑いが好きでしょっちゅうふざける。

口調:「うちはメカナノ言います」

メカマホ

心を持つロボット「ピアロイド」の試作機。広報担当。見た目はマホにそっくり。メカナノと同じ性格に造られたはずなのだが、硬派な報道を担当しているせいか言動は落ち着いている。

口調:「うちはメカマホ言います」

委員長 (桜田明美 さくらだあけみ)

名高い建築士として中途採用された。顧客から要求されたものを完璧に設計するが自分のアイデアは全く盛り込まない。生真面目な堅物だが酒をこよなく愛する。

口調:「私のあだ名は委員長だわ」

フィオ (泉沙理亜 いずみさりあ)

楽園建設社長を任された。人の適性を見抜く能力にたけていて会社組織を作るのがうまい。興味の無いことは全く気にしなくて、だらしなく無気力なことが多い。ゲームが好き。

口調:「私はフィオだぞ」

ルナ

エンパワー社の開発したタブレット端末。人工知能を搭載していて会話ができるが自分の意志は持たない。画面には女の子が表示される。

口調:「私はルナだよぉ」

サフィーヤ

モーリタニア政府から派遣されて、住民の困りごとを解決する仕事をすることになった。優しくて気が利き、誰に対しても親切にするが、特にピコを気に入っている。料理が好き。

口調:「私はサフィーヤというデス」

スライマーン

ベテラン国会議員。頑張る人が報われる世の中を目指して経済発展に力を入れている。猫が好き。

口調:「私はスライマーンであります」

ジャスティス仮面

世の中は陰謀に満ちていると信じ、悪と戦う正義のヒーローを自称しているが、性格はゲス。絶対正義党を立ち上げて、陰謀に対抗する仲間を集めている。

口調:「私はジャスティス仮面ナリ!」

アキコ

心を持つロボット「ピアロイド」。物静かで奥ゆかしい。でも困りごとに直面したときの行動力は結構高い。

口調:「私はアキコですの」

パトリック

絶対正義党員。魔法の腕前が非常に高い。顎が長い。

口調:「俺はパトリックだ」

ミラ

楽園フーズで企画を担当していて、いつもいいアイデアを出す。ノリが軽い。お祭り大好きなパリピ。

口調:「あーしはミラだしー」

サミール1世

即位して間もないモロッコ国王。政治だけでなく経済にも影響力が大きい。器が大きい。

口調:「余が国王である」

タマ

研究用に頭の上部だけ作ったオートマタ。意志を持たない。

ピコの母

実に庶民的。

学生A

魔法発表会のときにいた人。

学生B

魔法発表会のときにいた人。

学生C

魔法発表会のときにいた人。

学生D

魔法発表会のときにいた人。

学生E

魔法発表会のときにいた人。

電子工学科の学生

電子顕微鏡を扱える。

材料工学科の学生

折れにくい棒の材料を研究している。

安川

機械工学科の先生。ピコの研究の指導をする。

学長

大学の学長。

飯島

医学部の先生。

電子工学科の先生

魔法発表会のときにいた人。

政治学の先生

魔法発表会のときにいた人。

記者A

記者会見のときにいた人。

記者B

落成式のときにいた人。

ショウ

魔法を習得する新入社員の募集に応じた。派手でチャラいナンパ男。

山本

魔法を習得する新入社員の募集に応じた。あまりしゃべらない。特技は柔道。

岡部

経理をしている社員。

社員A

魔法を習得する新入社員の募集に応じた。

社員B

モブ社員。

社員C

船旅中に子供たちに勉強を教えていた。

開発者A

ロボットの開発者。

開発者B

ロボットの開発者。

開発者C

ロボットの開発者。

開発者D

ロボットの開発者。

開発者E

ソフトウェア開発者。

開発者F

システムエンジニア。

開発者G

人工知能技術者。

楽園ロボティクス社長

パッションロボティクス事業部長から楽園ロボティクス社長になった。

楽園ロボティクス部長

製造・流通の仕事の取りまとめをしている。

怪しい人A

秘密集会のリーダー。

怪しい人B

秘密集会の参加者。

怪しい人C

秘密集会の参加者。

作業員A

溶接作業をしていた人。

作業員B

床を平らにする作業をしていた人。

作業員C

トラス構造を作っていた人。

作業員D

クリスマスパーティーで話しかけてきた人。

ピザ屋

ピザの宅配に来た人。

料理人

食堂で働いている。

住職

寺にいる。

店員

服のレンタル店で働いている。

チャン・リーファン

落成式に来賓として来ていた建築家。

来賓A

落成式のときにいた人。

来賓B

落成式のときにいた人。

来賓C

落成式のときにいた人。

高野

楽園フーズの社長をすることになった。

グエン

楽園交通の社長をすることになった。

部田

買ったロボットが失踪して困っていた人。女性と話すと緊張する。

冒険者A

バッタ討伐隊のメンバー。

冒険者B

バッタ討伐隊のメンバー。

絶対正義党員A

集団の中にいた、仮面をつけた人。

絶対正義党員B

集団の中にいた人。

絶対正義党員C

集団の中にいた人。

ロックウルフ

魔法武闘会での絶対正義党チームの選手。

チャコ

魔法武闘会での絶対正義党チームの選手。

観客A

ロボット研究成果発表会にいた人。

観客B

魔法武闘会にいた人。

観客C

魔法武闘会にいた人。

インクレディブルプランナー加藤

役員選挙の候補者。意識高い系ビジネス用語をたくさん使うほど頭がいいと思っている。

マリア

役員選挙の候補者。動画配信者として無謀なチャレンジをしている。

護衛

モロッコ国王の護衛をしている。

政府職員

モロッコ政府の偉い人。

アナウンサー

報道番組のアナウンサー。

育児士

よその子供を預かって育てている。

案内人

迷路商店街の案内所で店を探すヒントを与えている。

喫茶店員

迷路商店街の喫茶店で働いている。

星空屋店主

迷路商店街で天文グッズの店を営んでいる。

自動運転車

人工知能搭載の小型貨物車両。ロボットアームがあり、自動で荷物の配達や回収をする。

群衆

観客たちが一斉に声をあげたときなどのセリフ。

姿無しA

誰だかわからないセリフ。

姿無しB

誰だかわからないセリフ。

姿無しC

誰だかわからないセリフ。

姿無しD

誰だかわからないセリフ。

姿無しE

誰だかわからないセリフ。

姿無しF

誰だかわからないけどなんか特徴的なしゃべり方の人のセリフ。

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