船旅 2
文字数 3,317文字
2日後。船が外洋に出たため揺れが小さくなり、いくぶん眠りやすくなった。航海中はあまり仕事の無い人も結構いるので、いつ仕事をするかは完全に個人の自由。私は自分の部屋でのんびりした後、会議室に向かった。
会議室で、東京に残った人たちとのオンライン会議をした。船での暮らしの状況を聞かれて、私は食堂の注文システムについて触れておいた。
それはそうだ。あとでナノに話を持ち掛けてみよう。
しばらくして、さっきのシステムエンジニアが画面に現れた。
私は会議室を飛び出した。
まずナノの部屋に行ってみた。インターホンを鳴らしても返事がない。ドアには鍵がかかっていない。
ドアを開けてみた。私の部屋と同じ狭さだけどタンスや棚が多い。ベッドは無く、布団が無造作に転がっている。布団の中に大きな人形があるということは、人形を抱いて寝ているのだろう。ナノとお泊りするとリンが眠れない理由がわかった気がする。
明らかな手掛かりはなさそうなので、手当たり次第に探すことにした。
まずは12階。大浴場を
次に11階。体育館ではチアがバスケットボールをしていた。
本棚には漫画も結構あるから、私の漫画を置いても不自然ではなさそうだ。
宴会場に行くと、ここにも多くの人がいた。大きなテレビが4つあり、衛星放送を見ている人たちやゲームで盛り上がっている人たちがいる。お菓子の棚もあるので、お菓子を食べながら語り合っている人たちもいる。
座卓を子供が取り囲んでいる。この船には社員の家族として幼児が6人、小学生が6人乗っている。なので有志が交代で小学生に勉強を教えているのだ。ほほえましい空間がそこにだけ広がっている。今は低学年と高学年に分かれて国語の授業中のようだ。
ん? 子供たちの中に、なんか見たことのある顔が。
子供たちはあっけにとられた。講師の顔が青ざめた。
ナノを連れて会議室に戻ると、オンライン会議が続いていた。
つい調子に乗っていたずらするロボットって、よくできているんだか、いないんだか。
その後の話で、食堂の注文に限らずシステム全般について改善してほしい箇所をアンケートすることになった。
穏やかな日々が続いた。船は南下を続けていて、
私の仕事といえば、会議に出席したり、プロトキャッスルの設計やシステム関連の相談に応じたりといったものばかりで、自分で解決するような課題を抱えているわけではない。なのでたまに
作業場にはピコパイプ製造装置が何台も並んでいて、そこでは建設作業員たちが交代でピコパイプを作る練習をしている。そうはいっても一度に装置を使える人数は限られるため、多くの人は暇を持て余している。
甲板では釣りをする人たちがいる。外洋なので魚は少ないうえに船の速度が速いので、あまり釣れていなそうだ。
ラウンジの本棚は本で満杯になっている。私が置いた漫画も読まれた形跡がある。みんな自分の部屋に持ち帰って読んでいるのだろう。本棚の中身は漫画が多い。タイトルを眺めてみると、「転生」という言葉が含まれるのが多いのが目につく。「エロゲーのヒロインに転生してしまった俺」「転生した悪役令嬢だけでハーレム組んでみた」……なんだかいかがわしそうなタイトルが多いのは、この船に乗っているのが若い男性中心だからだろう。
異世界転生ものの話といえば、マホをこの世界に転生させた女神とは何か関係があるんだろうか。もしかしたらその女神が、この世界で異世界転生ものが流行していることを知って、自分も異世界転生をやってみようと思いついたのかもしれない。だとすると本当に、この世界からどこかの世界に転生した人たちが反則的な能力で活躍しているかもしれないな……。