建設会社と専門家たち 1

文字数 2,627文字

 研究成果発表会より前に、ナノがこんなことを言っていた。
プロトキャッスルのデザインはだいぶ固まってきたのー

そろそろ建てる準備を始めるのー

そうだね

でも壮大すぎて何から手を付けていいものやら

まずは建設会社の準備なのー
ああそっか

専門的なことは建設会社に依頼しないと始まらないね

依頼はしないのー
ん?
温泉旅館でソーラーキャッスルの話を思いついたときに言ったのー
あたしたちで建設会社を作るのー
どうやって?
よその建設会社から人材を引き抜くのー

募集もするし、ダイレクトメールも送るのー

 ナノはそれから採用の準備を進め、そして研究成果発表会でソーラーキャッスルの計画を発表したときに、建設のスキルのある人材の中途採用を大々的に行うということを発表した。その後もナノは広告を出したりして積極的に募集をかけた。そのかいもあり、中途採用の面接に来る人が毎日のように現れた。

 ロボットの商品化の方向性も決まった六月。建設関連で採用を決めた人は60名を超えている。そんな折、会議でナノが言った。
あたしたちの建設会社がようやく始まるのー!

すごい人材を2人も採用できたのー!

 ナノは誇らしげな笑顔だ。よほど気に入ったに違いない。
一人はねー、30歳の若さで大手ゼネコンの組織改革を成功させた凄腕マネージャーなのー
もう一人はねー、おっきなショッピングモールの設計をあっという間に完璧にこなした天才建築士なのー
 よくそんな人材が来てくれたものだ。
さあ二人とも、入ってくるのー
 背の高いスーツ姿の女性が入ってきた。細い眼鏡にアップでまとめた髪。クールできりっとした印象だ。この暑いのにスーツを着ているあたりに堅苦しさを感じる。
桜田明美よ

よろしく

何か呼びやすいあだ名は無いのー?
鬼の桜田、とでも呼んでくれればいいわ
初対面でそれは呼びづらすぎます!
じゃあ委員長と呼ぶのー
学校でもないのに委員長はおかしいでしょ!
 私がそう言うと、桜田さんは私をにらみつけて言った。
「委員長」という役職ではなく、あだ名としての話よ

学校じゃないからおかしいという理屈は成り立たないわ

可能性を(せば)める発言は(つつし)むべきよ
 私のツッコミに対してその指摘はあまり(まと)を得ていない気がする。
私が言ったのはツッコミです
ツッコミとは、世間の常識や一般的な価値観を基準として、そこからどれだけ外れているかを可視化することで、ボケの笑いどころを明確にするという技術です
「委員長」という言葉から「学校」が連想されるのが世間の常識であり、そこを強調して笑いを完成させることの何が間違っているでしょう
 桜田さんは口元を緩めてメガネをクイっと上げた。
あなた、なかなか理論的に自分の意見を通すわね

気に入ったわ

私のことは鬼の委員長と呼ぶがいいわ!
私の言ったこと、全然理解してないでしょ!
 きっと私の発言を全部理解したうえで、あえてその逆をいってみせるというボケだろう。相手のやり方に瞬時に合わせるところに頭の良さを感じる。
もう一人がなかなか来ないのー
ちょっと連れてくるわ
 委員長が廊下から小柄な女性を引っ張ってきた。Tシャツに短パン、ぼさぼさの長い髪。タブレット端末を見ながら歩いている。自分の興味のあること以外は全く気にしない印象だ。
ほら、自己紹介なのー
うー、泉沙理亜だぞ
 しゃべっているときも目線はタブレット端末のほうを向いている。
あだ名は何がいいのー?
そんな面倒くさいものどうでもいいぞ
じゃあねー、あだ名は「そんな面倒くさいものどう」なのー
それでいいわけないぞ!
仕方ないから、私のあだ名は「フィオ」でいいぞ
 その名前、絶対あらかじめ考えてたよね。他人と関わりたくないふりをして、実は構ってほしいのかな。
二人とも、意気込みを語るのー
私はソーラーキャッスルの壮大な計画を知ってとてつもない可能性を感じたわ
人類の未来を切り(ひら)く巨大な集団を私は率いていきたいわね
そのために、無駄はとことん省き、あらゆる人たちの知恵を総動員していくつもりよ
うー、私は好きなことだけして、あとはだらっとしていたいぞ
この会社は面白いものがゴロゴロしてそうだし、ソーラーキャッスルの計画が動き出したらどんどん面白くなりそうだぞ
あなた、そんな個人の興味で動いていたら、組織の足並みがそろわなくて瓦解(がかい)するわよ
そんな誰かが決めたことしかやらない人だらけの会社は、新しいことができなくて潰れるぞ
 委員長のほうは規律を愛する仕切り屋なのだろう。そしてフィオさんのほうは自由な発想で自分の理想の建築を設計するのに没頭するのだろう。天才肌ということは共通してるけど、よくもまあこんな対照的な印象の二人を連れてきたものだ。まさに適材適所。
これで、新しい子会社「楽園建設」を設立できるのー!
フィオには楽園建設の社長になってほしいのー!

委員長にはプロトキャッスルの設計のチーフをお願いするのー!

逆でしょ!

委員長が社長で、フィオさんが設計

あら、どうしてかしら

私は建築士よ

私の専門は経営や人事だぞ
え――!

イメージがまるっきり逆だよー!

 そっか、人は見かけによらないものだった。……で済ませられるレベル?
あたしもねー、フィオはイメージと違うなーと思ったのー
最初はこんな子供っぽい人に社長が務まるか不安だったのー
それはナノが言っちゃだめなセリフ!

きっとナノを初めて見た人はみんな同じこと思ってるよ!

うー、こんなクソガキが社長やってる会社の子会社だから、私でも務まるぞ
面倒なことはどっかの誰かに押し付けるぞ
 なんか楽園建設の先行きが不安になってきた。
フィオは従来の型にとらわれない自由な発想だからねー、きっと活気のある組織を作ってくれると期待してるのー
それからピコ、プロトキャッスルのデザインを委員長に渡すのー

プロの目線できっちり設計してもらうのー

え、私の考えたのって素人っぽくて、なんか恥ずかしいな

委員長が最初から考えたほうがよくない?

 委員長が私にきつい目を向けた。
あなた、私の仕事を誤解しているようね
私の仕事は、顧客の思い描く要求をきっちり実現できる形に整えてみせることよ
顧客であるあなたが自分で思い描いている理想を私に(あま)すことなく伝えなければ、私の仕事は何も進まないわ
 自由なフィオさんとは対極。自分個人のアイデアについては何一つ言わない、自分の好きにするという発想すらしないタイプだ。ソーラーキャッスルのほうも全部私が発案しないと先に進まないのかな。
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登場人物紹介

ピコ (鴨川美咲 かもがわみさき)

工学部の大学生。幼いころから工作やプログラミングに取り組んでいて、頭脳明晰なため技術方面に非常に明るい。人付き合いは苦手だが、ツッコミだけはやたら上手。アニメが好き。合理主義者で、効率とかエコとかを重視する。地味メガネ。

口調:「私はピコだよ」「私はピコです」

ナノ

ピコの親友。商学部の大学生。行動力抜群で交渉能力にたけていて、誰に対しても馴れ馴れしく図々しい。思いついたことはどんなに大がかりなことでも下らないことでも実行する。ピコ並みに頭がいいが発想が幼く、よく「うんこ」とか言う。大浴場が好き。小さくてかわいい。いつもウサ耳カチューシャをつけている。

口調:「あたしはナノなのー」

マホ (イリス・オリヴィエ)

異世界で冒険者や軍人をやっていた魔法使い。死後に女神に会い、そのままの姿で転移してきた。この世界に魔法を広めようとしている。一般常識にうとくて天然ボケ。やけに食に執着している。いろいろと大きい。

口調:「わたくしはマホですわ」

リン

アンティークドールにマホが魔法をかけて作ったオートマタ(自動人形)。マホの秘書のような立場だけどあまり役に立っていない。自己中心的で、意地悪、上から目線。

口調:「わらわはリンじゃ」

筧雅行 (かけいまさゆき)

ピコの大学の研究室の先輩。ピコの影響でロボット工学に魔法技術を取り入れる研究をすることになった。登場人物の中で最も一般的な感性を持つ常識人。

口調:「僕は筧だよ」「僕は筧です」

チア (榊原千秋 さかきばらちあき)

魔法を習得して社員になることになった。いつもやる気がみなぎっている熱血タイプ。何事も頭は使わず気合と根性で乗り切る脳筋。スポーツが好きで、特にバスケが好き。

口調:「自分はチアッス」

鈴木

魔法を習得して社員になることになった。前世は最強の闇魔法使いだったと言い張る中二病。ダークでクールな雰囲気を演じているが内向的。妄想をノートに書き溜めている。

口調:「我はブルトゥシュヴァリエだ」

メカナノ

心を持つロボット「ピアロイド」の試作機。広報担当。見た目はナノにそっくり。お笑いが好きでしょっちゅうふざける。

口調:「うちはメカナノ言います」

メカマホ

心を持つロボット「ピアロイド」の試作機。広報担当。見た目はマホにそっくり。メカナノと同じ性格に造られたはずなのだが、硬派な報道を担当しているせいか言動は落ち着いている。

口調:「うちはメカマホ言います」

委員長 (桜田明美 さくらだあけみ)

名高い建築士として中途採用された。顧客から要求されたものを完璧に設計するが自分のアイデアは全く盛り込まない。生真面目な堅物だが酒をこよなく愛する。

口調:「私のあだ名は委員長だわ」

フィオ (泉沙理亜 いずみさりあ)

楽園建設社長を任された。人の適性を見抜く能力にたけていて会社組織を作るのがうまい。興味の無いことは全く気にしなくて、だらしなく無気力なことが多い。ゲームが好き。

口調:「私はフィオだぞ」

ルナ

エンパワー社の開発したタブレット端末。人工知能を搭載していて会話ができるが自分の意志は持たない。画面には女の子が表示される。

口調:「私はルナだよぉ」

サフィーヤ

モーリタニア政府から派遣されて、住民の困りごとを解決する仕事をすることになった。優しくて気が利き、誰に対しても親切にするが、特にピコを気に入っている。料理が好き。

口調:「私はサフィーヤというデス」

スライマーン

ベテラン国会議員。頑張る人が報われる世の中を目指して経済発展に力を入れている。猫が好き。

口調:「私はスライマーンであります」

ジャスティス仮面

世の中は陰謀に満ちていると信じ、悪と戦う正義のヒーローを自称しているが、性格はゲス。絶対正義党を立ち上げて、陰謀に対抗する仲間を集めている。

口調:「私はジャスティス仮面ナリ!」

アキコ

心を持つロボット「ピアロイド」。物静かで奥ゆかしい。でも困りごとに直面したときの行動力は結構高い。

口調:「私はアキコですの」

パトリック

絶対正義党員。魔法の腕前が非常に高い。顎が長い。

口調:「俺はパトリックだ」

ミラ

楽園フーズで企画を担当していて、いつもいいアイデアを出す。ノリが軽い。お祭り大好きなパリピ。

口調:「あーしはミラだしー」

サミール1世

即位して間もないモロッコ国王。政治だけでなく経済にも影響力が大きい。器が大きい。

口調:「余が国王である」

タマ

研究用に頭の上部だけ作ったオートマタ。意志を持たない。

ピコの母

実に庶民的。

学生A

魔法発表会のときにいた人。

学生B

魔法発表会のときにいた人。

学生C

魔法発表会のときにいた人。

学生D

魔法発表会のときにいた人。

学生E

魔法発表会のときにいた人。

電子工学科の学生

電子顕微鏡を扱える。

材料工学科の学生

折れにくい棒の材料を研究している。

安川

機械工学科の先生。ピコの研究の指導をする。

学長

大学の学長。

飯島

医学部の先生。

電子工学科の先生

魔法発表会のときにいた人。

政治学の先生

魔法発表会のときにいた人。

記者A

記者会見のときにいた人。

記者B

落成式のときにいた人。

ショウ

魔法を習得する新入社員の募集に応じた。派手でチャラいナンパ男。

山本

魔法を習得する新入社員の募集に応じた。あまりしゃべらない。特技は柔道。

岡部

経理をしている社員。

社員A

魔法を習得する新入社員の募集に応じた。

社員B

モブ社員。

社員C

船旅中に子供たちに勉強を教えていた。

開発者A

ロボットの開発者。

開発者B

ロボットの開発者。

開発者C

ロボットの開発者。

開発者D

ロボットの開発者。

開発者E

ソフトウェア開発者。

開発者F

システムエンジニア。

開発者G

人工知能技術者。

楽園ロボティクス社長

パッションロボティクス事業部長から楽園ロボティクス社長になった。

楽園ロボティクス部長

製造・流通の仕事の取りまとめをしている。

怪しい人A

秘密集会のリーダー。

怪しい人B

秘密集会の参加者。

怪しい人C

秘密集会の参加者。

作業員A

溶接作業をしていた人。

作業員B

床を平らにする作業をしていた人。

作業員C

トラス構造を作っていた人。

作業員D

クリスマスパーティーで話しかけてきた人。

ピザ屋

ピザの宅配に来た人。

料理人

食堂で働いている。

住職

寺にいる。

店員

服のレンタル店で働いている。

チャン・リーファン

落成式に来賓として来ていた建築家。

来賓A

落成式のときにいた人。

来賓B

落成式のときにいた人。

来賓C

落成式のときにいた人。

高野

楽園フーズの社長をすることになった。

グエン

楽園交通の社長をすることになった。

部田

買ったロボットが失踪して困っていた人。女性と話すと緊張する。

冒険者A

バッタ討伐隊のメンバー。

冒険者B

バッタ討伐隊のメンバー。

絶対正義党員A

集団の中にいた、仮面をつけた人。

絶対正義党員B

集団の中にいた人。

絶対正義党員C

集団の中にいた人。

ロックウルフ

魔法武闘会での絶対正義党チームの選手。

チャコ

魔法武闘会での絶対正義党チームの選手。

観客A

ロボット研究成果発表会にいた人。

観客B

魔法武闘会にいた人。

観客C

魔法武闘会にいた人。

インクレディブルプランナー加藤

役員選挙の候補者。意識高い系ビジネス用語をたくさん使うほど頭がいいと思っている。

マリア

役員選挙の候補者。動画配信者として無謀なチャレンジをしている。

護衛

モロッコ国王の護衛をしている。

政府職員

モロッコ政府の偉い人。

アナウンサー

報道番組のアナウンサー。

育児士

よその子供を預かって育てている。

案内人

迷路商店街の案内所で店を探すヒントを与えている。

喫茶店員

迷路商店街の喫茶店で働いている。

星空屋店主

迷路商店街で天文グッズの店を営んでいる。

自動運転車

人工知能搭載の小型貨物車両。ロボットアームがあり、自動で荷物の配達や回収をする。

群衆

観客たちが一斉に声をあげたときなどのセリフ。

姿無しA

誰だかわからないセリフ。

姿無しB

誰だかわからないセリフ。

姿無しC

誰だかわからないセリフ。

姿無しD

誰だかわからないセリフ。

姿無しE

誰だかわからないセリフ。

姿無しF

誰だかわからないけどなんか特徴的なしゃべり方の人のセリフ。

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