周辺地区構想 2

文字数 3,794文字

 ソーラーキャッスルの周辺について、私一人で考えてみよう。


 まず、公園はソーラーキャッスルのすぐ近くにあったほうが、気軽に出かけられていい。ある程度離れた所に製鉄所、空港、墓地。それとプロトキャッスルも。製鉄所はヌアディブとの間だから北側の海岸沿い。プロトキャッスルは南側の海岸沿い。じゃあ空港は東側にしようか。墓地は北東かな。


 そしてそれを取り巻くように太陽熱発電の鏡。なにせ600平方キロメートルもあるから、とにかく広い。ソーラーキャッスルの近くでは「タワー式」といって、自動的に動く鏡で塔のてっぺんに光を集めるタイプの太陽熱発電。すごく高温になる。遠くでは「トラフ式」といって、曲面の鏡の前に設置した長いパイプに光を集めるタイプ。構造が単純なので大規模にしやすい。遠くからパイプ内に油を流しながらトラフ式で徐々に加熱していって、途中にあるタワーに集めて一気に高温にし、できるだけ断熱したパイプでソーラーキャッスルまで流すことにしよう。


 いくら断熱するとはいっても高温の油をあまり遠くから集めるのは熱のロスが大きい。鏡エリアの外側のほうでは太陽熱発電のボイラーやタービンもあちこちに造って、その場で発電できるようにしよう。そこまで海水を送るパイプを引いて、できた淡水は畑のほうに流そう。


 その外側に、鏡エリアよりもっと広い畑。北側は西サハラとの国境で地雷原になってるし、南には世界遺産の国立公園があって開発できないから、畑は東から北東にかけて広げていくことになる。サハラ砂漠の奥に向かって徐々に緑地を広げるって、やりがいがあっていいね。


 そう考えると、畑があるのはソーラーキャッスルから20キロ以上先ということになる。数十キロ先の畑で働く人もいるかもしれない。お昼ごはんを食べにソーラーキャッスルに戻るわけにはいかないよね。畑エリアには所々に基地が必要だ。基地では食堂以外に何が要るかな? シャワーを浴びたりテレビを見たりといった休憩所があるといいかな。軽トラックやトラクターを停めておいたり、肥料や作物を置いておいたりする倉庫としても役立ちそうだ。ガソリンスタンドも必要だろう。いやこれからの時代は電気自動車だから、ガソリンスタンドじゃなくて電気スタンド……いやそれは照明器具。充電スタンドが必要だ。


 そうだ、鏡も砂で汚れるから鏡を掃除する人たちが要る。鏡エリアにも基地が必要だ。


 製鉄所や空港とは鉄道で結ぶ必要があるよね。ならその鉄道をもっと遠くまで伸ばして、基地とソーラーキャッスルを結ぶようにすれば、畑や鏡エリアで働く人たちが楽に出勤できる。基地は鉄道沿いに造っていこう。


 私は地図を見ながら、どう鉄道を引けばいいか考えた。

 まずは海岸沿いに北に向かう路線。ソーラーキャッスルを出てすぐ、公園北駅。北北西に5キロ進んだところに、製鉄所駅。さらに北北西に5キロくらい進んで、鏡整備基地駅。そこから北西に10キロ進むと細長い浅瀬があるので、橋をかけて西に渡る。西に数キロ進むとモーリタニア鉄道が通っているのでそこに接続できる。モーリタニア鉄道で半島を南に30キロほど進むとヌアディブの街だ。


 次に、南東に向かう路線。まずは公園南駅。南南東に3キロほどでプロトキャッスル駅。そこからは海岸を離れて内陸を東南東に10キロ進み、鏡整備基地駅。そこから東に10キロほど進むと農業基地駅。さらに東に10キロでもう1つ農業基地駅。それぞれの基地とその駅の名前は後で考えよう。国立公園を迂回(うかい)するために東に30キロ進んでから南に二百数十キロで首都ヌアクショットだ。


 それから、東に向かう路線。やはりまず公園東駅。東に5キロほどで空港駅。さらに5キロ東に鏡整備基地駅があり、10キロ東とさらに10キロ東に農業基地駅。何もない荒野が続くから、ひたすらまっすぐに線路を伸ばせそうだ。その先は300キロほど無人の荒野が続くので鉄道を伸ばす意味は無いだろう。


 最後に、北東に向かう路線。まず公園北東駅があって、北東に3キロほどで墓地駅。ん? 「墓地駅」って名前は変じゃないか? あとでもっといい名前にしよう。そこから北東に7キロで鏡整備基地駅。北東に10キロ先とさらに10キロ先に農業基地駅。そこから北東に12キロほど進むと「ボン・ラヌアー」という集落に着き、そこでモーリタニア鉄道に接続できる。そこにボン・ラヌアー駅があったほうがいいかな。


 モーリタニア鉄道を通って東からやって来た列車が製鉄所に行くとなると、浅瀬の橋の所を東に進み、その先を南南東に進むことになるけど、結構大回りだ。そうじゃなくてボン・ラヌアーから南西に進み、墓地の手前から製鉄所に行けると近道になる。墓地の手前で分岐して西に進んで製鉄所に行く線路が必要だ。


 地図をよく見直してみると、浅瀬は意外と幅が広いことに気づいた。橋を()けると1キロ以上の長さになりそうだ。さすがにそれは大がかりすぎるので、浅瀬をぐるっと迂回することになるけど、浅瀬のそばを10キロほど北上してモーリタニア鉄道に接続することにしよう。


 ここまで考えたことを社内SNSにアップロードすると、サフィーヤさんからコメントがついた。

すごいデス!

ヌアディブからソーラーキャッスルを通ってヌアクショットまで鉄道を通すなんて、国家的プロジェクトデス!

モーリタニアの人々の生活が変わるデスヨ

 そっか、今までは街から出るのは簡単じゃなかったよね。ヌアディブやヌアクショットの人たちの生活も便利になるといいな。


 ……あれ? これってすごくたくさんの人の暮らしに影響する大がかりなプロジェクトってことだよね? それを私一人が今思い付いただけで進めようとしてるんだよね? なんか今まで大がかりなことを考えるのに慣れすぎて感覚がマヒしてたけど、私は今、思い付きで国を変えようとしてる。鉄道の計画はナノたちに相談してから公開するべきだった。


 そんなことを考えている間に次々とコメントがついていっている。

すごいですね

建設計画はてっきりソーラーキャッスルのすぐ近くだけかと思っていましたけど、他の街も巻き込む大がかりな計画だったんですね

知りませんでした

 うん、私も知らなかった。
ピコさんにはこの計画をぜひ推し進めていただきたいです
 私が責任者? ちょっと待ってよ。
この鉄道計画にはどのような狙いがあるのか、すごく興味があります

ぜひ教えていただきたいです

 そんなの考えてないけど、今更「ただの思い付きでした」なんて言えない雰囲気になっている。


 こうなったら、鉄道計画の目的を今ここで考えて書くことにしよう。モーリタニアの人たちの暮らしを良くするため、ってことでいいよね。


 でもこの鉄道でほんとに暮らしが良くなるのかな? ここに鉄道があれば暮らしやすくなるんだったら、じゃあなんで今まで無かった?


 ヌアディブの人口は12万人くらいだから、ヌアクショットと結んでも距離の割に乗客が少なすぎて採算が取れないのかな。ヌアクショットの人口は100万人くらい。じゃあ人口400万人のソーラーキャッスルができれば鉄道の採算は問題なくなるよね。


 ソーラーキャッスルには大規模なお店がたくさんできるだろうから、鉄道が出来ればヌアディブやヌアクショットの人たちが買い物に来るはず。ソーラーキャッスルの建設に合わせて鉄道を建設するというのは理にかなっている。よし、この方向性で書こう。

大都市であるソーラーキャッスルが出来れば、同じ大都市であるヌアクショットや近隣の街であるヌアディブに住む人たちが買い物や商取引などに出かける需要がぐっと増えるはずです
ソーラーキャッスル建設のタイミングで都市間の鉄道を建設することは、経済を発展させるためにも必然だし私たちの責任でもあると判断しました
加えて、ソーラーキャッスル周辺に鉄道網が存在すれば、畑や太陽熱発電施設で働く人がソーラーキャッスルから通うのに効率が良いとの判断です
 うん、事実とは逆だ。本当は近場の空港とかを結ぶ鉄道を考えていて、ついでだからもうちょっと遠くも結ぼうとしてだんだん長くなってしまったわけだ。
さすがピコなのー

すごく思慮(しりょ)深い判断なのー

数日考えただけで行動しちゃうあたしとは違うのー

 ナノにも褒められた。ついさっき思いついたことだなんて、ますます書けない。
ソーラーキャッスルの中にもあちこちに駅を造るのー
なんで?

ソーラーキャッスル内は動く歩道でどこにでも行けるから、必要なくない?

電車に乗るためにソーラーキャッスルの中心まで行くのは面倒なのー
自分の住んでいる所の近くに駅があるのがいいのー
まあそうだね

ソーラーキャッスルの外で仕事をする人はそんなに多くないと思うけど、毎日使う人にとっては駅まで徒歩5分とかが理想だね

自分の部屋から落下5秒で駅に着くのが理想なのー
死にたいわけ!?
 じゃあ、ソーラーキャッスルの中の駅は、商業地区の「中央駅」のほかに、居住地区に「東駅」「西駅」「南駅」「北駅」を造ることにしよう。中央駅は全部の路線が通る。東駅と西駅は東に向かう路線が通る。南駅と北駅は、南北に向かう路線と北東に向かう路線がどちらも通る。南側の産業地区には貨物駅があるから、どの路線も途中で分岐して貨物駅に向かうことができるようにしよう。
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登場人物紹介

ピコ (鴨川美咲 かもがわみさき)

工学部の大学生。幼いころから工作やプログラミングに取り組んでいて、頭脳明晰なため技術方面に非常に明るい。人付き合いは苦手だが、ツッコミだけはやたら上手。アニメが好き。合理主義者で、効率とかエコとかを重視する。地味メガネ。

口調:「私はピコだよ」「私はピコです」

ナノ

ピコの親友。商学部の大学生。行動力抜群で交渉能力にたけていて、誰に対しても馴れ馴れしく図々しい。思いついたことはどんなに大がかりなことでも下らないことでも実行する。ピコ並みに頭がいいが発想が幼く、よく「うんこ」とか言う。大浴場が好き。小さくてかわいい。いつもウサ耳カチューシャをつけている。

口調:「あたしはナノなのー」

マホ (イリス・オリヴィエ)

異世界で冒険者や軍人をやっていた魔法使い。死後に女神に会い、そのままの姿で転移してきた。この世界に魔法を広めようとしている。一般常識にうとくて天然ボケ。やけに食に執着している。いろいろと大きい。

口調:「わたくしはマホですわ」

リン

アンティークドールにマホが魔法をかけて作ったオートマタ(自動人形)。マホの秘書のような立場だけどあまり役に立っていない。自己中心的で、意地悪、上から目線。

口調:「わらわはリンじゃ」

筧雅行 (かけいまさゆき)

ピコの大学の研究室の先輩。ピコの影響でロボット工学に魔法技術を取り入れる研究をすることになった。登場人物の中で最も一般的な感性を持つ常識人。

口調:「僕は筧だよ」「僕は筧です」

チア (榊原千秋 さかきばらちあき)

魔法を習得して社員になることになった。いつもやる気がみなぎっている熱血タイプ。何事も頭は使わず気合と根性で乗り切る脳筋。スポーツが好きで、特にバスケが好き。

口調:「自分はチアッス」

鈴木

魔法を習得して社員になることになった。前世は最強の闇魔法使いだったと言い張る中二病。ダークでクールな雰囲気を演じているが内向的。妄想をノートに書き溜めている。

口調:「我はブルトゥシュヴァリエだ」

メカナノ

心を持つロボット「ピアロイド」の試作機。広報担当。見た目はナノにそっくり。お笑いが好きでしょっちゅうふざける。

口調:「うちはメカナノ言います」

メカマホ

心を持つロボット「ピアロイド」の試作機。広報担当。見た目はマホにそっくり。メカナノと同じ性格に造られたはずなのだが、硬派な報道を担当しているせいか言動は落ち着いている。

口調:「うちはメカマホ言います」

委員長 (桜田明美 さくらだあけみ)

名高い建築士として中途採用された。顧客から要求されたものを完璧に設計するが自分のアイデアは全く盛り込まない。生真面目な堅物だが酒をこよなく愛する。

口調:「私のあだ名は委員長だわ」

フィオ (泉沙理亜 いずみさりあ)

楽園建設社長を任された。人の適性を見抜く能力にたけていて会社組織を作るのがうまい。興味の無いことは全く気にしなくて、だらしなく無気力なことが多い。ゲームが好き。

口調:「私はフィオだぞ」

ルナ

エンパワー社の開発したタブレット端末。人工知能を搭載していて会話ができるが自分の意志は持たない。画面には女の子が表示される。

口調:「私はルナだよぉ」

サフィーヤ

モーリタニア政府から派遣されて、住民の困りごとを解決する仕事をすることになった。優しくて気が利き、誰に対しても親切にするが、特にピコを気に入っている。料理が好き。

口調:「私はサフィーヤというデス」

スライマーン

ベテラン国会議員。頑張る人が報われる世の中を目指して経済発展に力を入れている。猫が好き。

口調:「私はスライマーンであります」

ジャスティス仮面

世の中は陰謀に満ちていると信じ、悪と戦う正義のヒーローを自称しているが、性格はゲス。絶対正義党を立ち上げて、陰謀に対抗する仲間を集めている。

口調:「私はジャスティス仮面ナリ!」

アキコ

心を持つロボット「ピアロイド」。物静かで奥ゆかしい。でも困りごとに直面したときの行動力は結構高い。

口調:「私はアキコですの」

パトリック

絶対正義党員。魔法の腕前が非常に高い。顎が長い。

口調:「俺はパトリックだ」

ミラ

楽園フーズで企画を担当していて、いつもいいアイデアを出す。ノリが軽い。お祭り大好きなパリピ。

口調:「あーしはミラだしー」

サミール1世

即位して間もないモロッコ国王。政治だけでなく経済にも影響力が大きい。器が大きい。

口調:「余が国王である」

タマ

研究用に頭の上部だけ作ったオートマタ。意志を持たない。

ピコの母

実に庶民的。

学生A

魔法発表会のときにいた人。

学生B

魔法発表会のときにいた人。

学生C

魔法発表会のときにいた人。

学生D

魔法発表会のときにいた人。

学生E

魔法発表会のときにいた人。

電子工学科の学生

電子顕微鏡を扱える。

材料工学科の学生

折れにくい棒の材料を研究している。

安川

機械工学科の先生。ピコの研究の指導をする。

学長

大学の学長。

飯島

医学部の先生。

電子工学科の先生

魔法発表会のときにいた人。

政治学の先生

魔法発表会のときにいた人。

記者A

記者会見のときにいた人。

記者B

落成式のときにいた人。

ショウ

魔法を習得する新入社員の募集に応じた。派手でチャラいナンパ男。

山本

魔法を習得する新入社員の募集に応じた。あまりしゃべらない。特技は柔道。

岡部

経理をしている社員。

社員A

魔法を習得する新入社員の募集に応じた。

社員B

モブ社員。

社員C

船旅中に子供たちに勉強を教えていた。

開発者A

ロボットの開発者。

開発者B

ロボットの開発者。

開発者C

ロボットの開発者。

開発者D

ロボットの開発者。

開発者E

ソフトウェア開発者。

開発者F

システムエンジニア。

開発者G

人工知能技術者。

楽園ロボティクス社長

パッションロボティクス事業部長から楽園ロボティクス社長になった。

楽園ロボティクス部長

製造・流通の仕事の取りまとめをしている。

怪しい人A

秘密集会のリーダー。

怪しい人B

秘密集会の参加者。

怪しい人C

秘密集会の参加者。

作業員A

溶接作業をしていた人。

作業員B

床を平らにする作業をしていた人。

作業員C

トラス構造を作っていた人。

作業員D

クリスマスパーティーで話しかけてきた人。

ピザ屋

ピザの宅配に来た人。

料理人

食堂で働いている。

住職

寺にいる。

店員

服のレンタル店で働いている。

チャン・リーファン

落成式に来賓として来ていた建築家。

来賓A

落成式のときにいた人。

来賓B

落成式のときにいた人。

来賓C

落成式のときにいた人。

高野

楽園フーズの社長をすることになった。

グエン

楽園交通の社長をすることになった。

部田

買ったロボットが失踪して困っていた人。女性と話すと緊張する。

冒険者A

バッタ討伐隊のメンバー。

冒険者B

バッタ討伐隊のメンバー。

絶対正義党員A

集団の中にいた、仮面をつけた人。

絶対正義党員B

集団の中にいた人。

絶対正義党員C

集団の中にいた人。

ロックウルフ

魔法武闘会での絶対正義党チームの選手。

チャコ

魔法武闘会での絶対正義党チームの選手。

観客A

ロボット研究成果発表会にいた人。

観客B

魔法武闘会にいた人。

観客C

魔法武闘会にいた人。

インクレディブルプランナー加藤

役員選挙の候補者。意識高い系ビジネス用語をたくさん使うほど頭がいいと思っている。

マリア

役員選挙の候補者。動画配信者として無謀なチャレンジをしている。

護衛

モロッコ国王の護衛をしている。

政府職員

モロッコ政府の偉い人。

アナウンサー

報道番組のアナウンサー。

育児士

よその子供を預かって育てている。

案内人

迷路商店街の案内所で店を探すヒントを与えている。

喫茶店員

迷路商店街の喫茶店で働いている。

星空屋店主

迷路商店街で天文グッズの店を営んでいる。

自動運転車

人工知能搭載の小型貨物車両。ロボットアームがあり、自動で荷物の配達や回収をする。

群衆

観客たちが一斉に声をあげたときなどのセリフ。

姿無しA

誰だかわからないセリフ。

姿無しB

誰だかわからないセリフ。

姿無しC

誰だかわからないセリフ。

姿無しD

誰だかわからないセリフ。

姿無しE

誰だかわからないセリフ。

姿無しF

誰だかわからないけどなんか特徴的なしゃべり方の人のセリフ。

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