着工
文字数 4,021文字
作業員たちが次々と浮遊魔法で岸に向かって飛んで行った。人魚号が接岸する港を作るのだ。
マホが海に飛び込んだ。自分の周囲に空気を確保していて、大きな泡の中に入っているように見える。マホが潜っていくと、海に大きな渦が巻き起こって茶色く濁っていった。魔法で海底の砂を取り払っているのだ。波が高くなっていき、船が揺れる。しばらくして海の中からマホが現れた。
作業員たちが海に飛び込み、錬成魔法で海底の岩の形を変えていった。時々大きな波が起きる。200メートル以上ある人魚号が入れるくぼみを作るのだから相当な大工事のはずだが、魔法を使っての工事はすごいスピードで進んでいるようだ。
翌日、人魚号が入ることができるほど海底の岩をくぼませることができた。船はそのくぼみの場所までゆっくりと移動し、そしてジャッキを起動した。人魚号にそびえる4本の柱が徐々に下がっていき、海底の岩に接地すると、今度は船体が徐々に持ち上がっていった。船に脚が生え、この場所に固定されたのだ。これでもう船の揺れに悩まされなくてすむ。
岸のほうでは、砂を錬成魔法で固めて四角いブロックを作る作業が行われている。これを海に沈めて港の岸壁にするのだ。100メートルほど離れた所がプロトキャッスルの建設地で、今は作業員が砂を運び出したり測量をしたりしている。
マホがそう言うと拍手が起こった。恥ずかしい! 拍手されるようなことはやっていない! でも、今起こったことを詳しく説明したら、この危機を食堂中に広めてしまう。私は黙って縮こまるしかなかった。
窓の外を見ると、遠くからバスがやって来るのが見えた。この近くは道路が無いので荒野を突っ切っている。ひどい乗り心地だろう。
モーリタニアだけでなくアフリカ各地からも集まった作業員たちだ。それぞれオンライン講習とかで魔法を習得済みだという。それとは別に、モーリタニア政府から派遣された公務員も2人いる。
着工から半月ほど経ち、八月になった。連日厳しい暑さが続く。私は船から外に出る気がしないけど、みんな外で働いている。
プロトキャッスル建設地では、9つのグランドシャフトの基礎部分が出来つつある。岩を錬成魔法で変形させて円柱状にしていっているので、岩盤と一体化した構造になっている。下水処理施設はまだ稼働していないものの、人魚号の汚水タンクから汚水を移すことができるまで工事が進んだ。
港の工事も急ピッチで進み、人魚号のほかにもう1
ピコパイプ製造装置は作業員たちが2時間交代で使っていて毎日フル稼働している。そのおかげでプロトキャッスル建設地の隣にピコパイプが山積みになっている。
ここから一番近い道路まで40キロくらいあるけど、そこまでの間に簡単な道が出来つつある。石や砂を取り除いて車が走りやすくしたものだ。
その道を通ってチアたち魔法講師が首都ヌアクショットに旅立っていった。そこで新たな作業員を雇って魔法を教えていくため、半年ほど滞在するという。
船内のあちこちに2次元バーコードが貼られている。いろんなものに「いいね」を押せるようにする実験が始まったのだ。うまくいくといいな。