それぞれの仕事 1

文字数 2,978文字

 十一月になった。


 私はプロトキャッスルの構想をもっと具体的にするために各階のレイアウトを図に描く作業を進めた。例えば17階から20階が店舗となっているけど、どんなお店をどこに配置するかを考えておくわけだ。実際にそのお店ができるとは限らないけど、仮に配置しておくことで今後必要になるものがわかってくる。大学の授業もあるのでオートマタやロボットに関わる時間は無くなっていった。


 マホは相変わらず週3日は大学でいろんな魔法の研究に関わっている。魔法の原理の科学的解明も結構進んでいて、どうやらナノマシンが関わっているそうだ。そして週2日会社にいて魔導石の作り方を教えたりしている。おかげで魔導石を作る人も増えてきて、そのうち毎月250個販売できるようになりそうだ。


 会社のみんなは魔導石を買ってくれたお客さんへの講習をしたり知識データを集めたりするほかに、新入社員への魔法講習もしている。九月からは社員募集を常時行っていて、社員数はだんだん増えていっている。社員が増えてもすぐには仕事が楽にならず、余計に仕事が増えるから大変だ。ただ、最近は営業とか総務とかシステム管理とかの仕事を担う社員も雇っていて、それぞれが自分の仕事に専念できる環境になってきている。オンライン講習が始まり、一度にたくさんの人に教えることもできるようになった。


 そんなある日、ニューロコンピューターの試作品がエンパワーから届いた。入出力のための部品が無くて演算装置だけなんだけど、それでもでかくて重い。10キロ以上ありそうだ。エンパワーのほうでもっと小型化していくそうだ。


 私がタマを使って整理した知識データをもとに、楽園ロボティクスのほうでオートマタ用の基本ソフトが作られていた。それをニューロコンピューターにコピーすると、オートマタと同じように動作した。社員たちが集めた知識データもこれからニューロコンピューター用のソフトにしてもらわなきゃ。


 楽園ロボティクスでは、ニューロコンピューターにカメラなどのセンサーを付けたり、ロボットの腕や脚を取り付けて動かせるようにしたりする研究が始まった。ロボットの開発もだんだん先が見通せるようになってきて、私が口出ししなくても順調に進みそうだ。

 プロトキャッスルのレイアウトを考えていて、ふと気になった。トラス床には大量のピコパイプが必要になるけど、はたして調達可能なのだろうか?


 1メートルのピコパイプがいったい何本必要になるか計算してみよう。床のだいたい1平方メートルあたりに必要なパイプは8本。プロトキャッスルの床は縦横それぞれ300メートルの正方形だから9万平方メートル。1階あたり72万本が必要。44階建てだけど下のほうの階は鉄骨で丈夫な床にするだろうから、トラス床は10階から上の35階ぶんということで、2520万本。


 ピコパイプはマホが魔法で作ってたんだよね。2500万本作るためには、何人の魔法使いがどれだけの期間をかける必要があるだろう? そのためには1本あたりどれだけ時間がかかるか調べなきゃ。


 私は会社でマホに尋ねてみた。

ねえ、1メートルのピコパイプを作るのって、1本あたりどのくらい時間がかかるの?
3分くらいかしら
100本まとめて作るとしたら?
そうですわね……1時間くらいかかるかしら
そっか、まとめて作っても効率は5倍くらいか
 1時間で100本なら8時間で800本。年間200日働いたとして16万本。もしプロトキャッスルに必要なピコパイプを1年で用意するとしたら、156人の魔法使いが必要になる。多すぎるね。
もっと効率よく作る工夫が必要になるね
そうおっしゃられても、改善する余地などありますかしら
作り方をこれからご覧になりまして?
うん

4本まとめて作ってみてくれる?

かしこまりましてよ
 マホは材料を持ってきた。石に錬成魔法をかけると、長く伸びてパイプの形になり、回転しながら徐々に太さを増していった。マホはパイプを端から順によく見ながら太さと厚さを部分的に調整していき、納得のいったところで魔法を止めた。そして4本のパイプに切り分けた。次に、カーボンファイバーの布に念動魔法をかけて浮かび上がらせ、次々と石のパイプに巻き付けていった。そしてプラスチックに錬成魔法をかけてドロドロにし、布の周りを覆っていった。端から順に手をかざしていくと、その部分の材料が混ざり合い、ツルツルの円筒形に整っていった。
できましたわ
 だいたい7分くらい。慣れればもっと早くなるだろう。
なるほど、ありがと

端から順によく見ながら魔法を使っていたのはどうして?

丁寧にしないと形がデコボコになってしまいましてよ
うん、デコボコになったらうまく組み立てられないし、強度も落ちてしまうね
でもこのままだと大量生産できないから、手間をかけずに形を均一にする方法を考えなきゃ
それでさ、金型を使ったらどうかな
どういうことでして?
金属にパイプの形の穴をあけて、そこに錬成魔法で石を流し込んだら、最初からきれいな形にならないかな
大判焼きのようなものかしら
大判焼き?
小麦粉の生地にあんこを入れて、上下から鉄板で挟んで焼いたお菓子ですわ
ああ、今川焼きね
そう、それですわ

地方によって「回転焼き」とか「おやき」とか「御座候(ござそうろう)」とか、他にも呼び名が変わりますわ

なんでマホがそんな事に詳しいの!
ネットで見つけた雑学でしてよ
 世間知らずなマホから私も知らない日本の知識が出てきたのにびっくりしたけど、マホもだんだん日本の生活になじんできているということだね。
まあ確かに今川焼きに近いかもね
 私はホワイトボードに金型の絵を描いた。かまぼこ型の穴をあけた塊2つで円柱状の塊を挟み、その隙間がパイプの形になるというものだ。
試してみますわ
 マホは鉄の塊を持ってきて錬成魔法で型を作った。そして石を長く伸ばしてその隙間に入れてみた。
狭い隙間に錬成魔法で入れようとしても、うまく入りませんわ
 型を外してみると、パイプは穴だらけのボロボロの状態だった。
石は最初から型の中に入れておきたいね
そうだ、型に砂を注いで練成魔法で固めてみようか
 試してみると今度はきれいなパイプの形の石になった。ただし砂粒の間の隙間のぶんだけ縮んでだいぶ短くなっている。
成功ですわ!

なるほど、工夫すれば簡単にきれいな形になるのですわね

プラスチックで覆うときも型にはめれば均一な厚さになりそうだね
ええ
ところで、この鉄の塊はどこから持ってきたの?
駐車場ですわ
 駐車場を見てみると、鉄骨コンクリートのアザラシ像のしっぽが無くなっていた。
あとで元に戻しといてね

 ちゃんとした金型作りについては専門の業者に発注したい。そのための研究は社内の誰かに任せようか……ああそうだ、材料工学科の学生がピコパイプについて研究しているんだった。その研究成果も活かしたい。


 この話を楽園ロボティクスの技術者たちにすると、自動化できる部分は自動化したいと言われた。そっか、機械を使った生産ラインを作って、魔法が必要なところだけ人が魔法をかける。これなら人手をかけずに均質な製品を大量生産できるはず。そこで、楽園ロボティクス内でピコパイプ製造装置の開発に取り組むことになった。トラス構造の上に載せる床板の製造装置も一緒に開発することになった。

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登場人物紹介

ピコ (鴨川美咲 かもがわみさき)

工学部の大学生。幼いころから工作やプログラミングに取り組んでいて、頭脳明晰なため技術方面に非常に明るい。人付き合いは苦手だが、ツッコミだけはやたら上手。アニメが好き。合理主義者で、効率とかエコとかを重視する。地味メガネ。

口調:「私はピコだよ」「私はピコです」

ナノ

ピコの親友。商学部の大学生。行動力抜群で交渉能力にたけていて、誰に対しても馴れ馴れしく図々しい。思いついたことはどんなに大がかりなことでも下らないことでも実行する。ピコ並みに頭がいいが発想が幼く、よく「うんこ」とか言う。大浴場が好き。小さくてかわいい。いつもウサ耳カチューシャをつけている。

口調:「あたしはナノなのー」

マホ (イリス・オリヴィエ)

異世界で冒険者や軍人をやっていた魔法使い。死後に女神に会い、そのままの姿で転移してきた。この世界に魔法を広めようとしている。一般常識にうとくて天然ボケ。やけに食に執着している。いろいろと大きい。

口調:「わたくしはマホですわ」

リン

アンティークドールにマホが魔法をかけて作ったオートマタ(自動人形)。マホの秘書のような立場だけどあまり役に立っていない。自己中心的で、意地悪、上から目線。

口調:「わらわはリンじゃ」

筧雅行 (かけいまさゆき)

ピコの大学の研究室の先輩。ピコの影響でロボット工学に魔法技術を取り入れる研究をすることになった。登場人物の中で最も一般的な感性を持つ常識人。

口調:「僕は筧だよ」「僕は筧です」

チア (榊原千秋 さかきばらちあき)

魔法を習得して社員になることになった。いつもやる気がみなぎっている熱血タイプ。何事も頭は使わず気合と根性で乗り切る脳筋。スポーツが好きで、特にバスケが好き。

口調:「自分はチアッス」

鈴木

魔法を習得して社員になることになった。前世は最強の闇魔法使いだったと言い張る中二病。ダークでクールな雰囲気を演じているが内向的。妄想をノートに書き溜めている。

口調:「我はブルトゥシュヴァリエだ」

メカナノ

心を持つロボット「ピアロイド」の試作機。広報担当。見た目はナノにそっくり。お笑いが好きでしょっちゅうふざける。

口調:「うちはメカナノ言います」

メカマホ

心を持つロボット「ピアロイド」の試作機。広報担当。見た目はマホにそっくり。メカナノと同じ性格に造られたはずなのだが、硬派な報道を担当しているせいか言動は落ち着いている。

口調:「うちはメカマホ言います」

委員長 (桜田明美 さくらだあけみ)

名高い建築士として中途採用された。顧客から要求されたものを完璧に設計するが自分のアイデアは全く盛り込まない。生真面目な堅物だが酒をこよなく愛する。

口調:「私のあだ名は委員長だわ」

フィオ (泉沙理亜 いずみさりあ)

楽園建設社長を任された。人の適性を見抜く能力にたけていて会社組織を作るのがうまい。興味の無いことは全く気にしなくて、だらしなく無気力なことが多い。ゲームが好き。

口調:「私はフィオだぞ」

ルナ

エンパワー社の開発したタブレット端末。人工知能を搭載していて会話ができるが自分の意志は持たない。画面には女の子が表示される。

口調:「私はルナだよぉ」

サフィーヤ

モーリタニア政府から派遣されて、住民の困りごとを解決する仕事をすることになった。優しくて気が利き、誰に対しても親切にするが、特にピコを気に入っている。料理が好き。

口調:「私はサフィーヤというデス」

スライマーン

ベテラン国会議員。頑張る人が報われる世の中を目指して経済発展に力を入れている。猫が好き。

口調:「私はスライマーンであります」

ジャスティス仮面

世の中は陰謀に満ちていると信じ、悪と戦う正義のヒーローを自称しているが、性格はゲス。絶対正義党を立ち上げて、陰謀に対抗する仲間を集めている。

口調:「私はジャスティス仮面ナリ!」

アキコ

心を持つロボット「ピアロイド」。物静かで奥ゆかしい。でも困りごとに直面したときの行動力は結構高い。

口調:「私はアキコですの」

パトリック

絶対正義党員。魔法の腕前が非常に高い。顎が長い。

口調:「俺はパトリックだ」

ミラ

楽園フーズで企画を担当していて、いつもいいアイデアを出す。ノリが軽い。お祭り大好きなパリピ。

口調:「あーしはミラだしー」

サミール1世

即位して間もないモロッコ国王。政治だけでなく経済にも影響力が大きい。器が大きい。

口調:「余が国王である」

タマ

研究用に頭の上部だけ作ったオートマタ。意志を持たない。

ピコの母

実に庶民的。

学生A

魔法発表会のときにいた人。

学生B

魔法発表会のときにいた人。

学生C

魔法発表会のときにいた人。

学生D

魔法発表会のときにいた人。

学生E

魔法発表会のときにいた人。

電子工学科の学生

電子顕微鏡を扱える。

材料工学科の学生

折れにくい棒の材料を研究している。

安川

機械工学科の先生。ピコの研究の指導をする。

学長

大学の学長。

飯島

医学部の先生。

電子工学科の先生

魔法発表会のときにいた人。

政治学の先生

魔法発表会のときにいた人。

記者A

記者会見のときにいた人。

記者B

落成式のときにいた人。

ショウ

魔法を習得する新入社員の募集に応じた。派手でチャラいナンパ男。

山本

魔法を習得する新入社員の募集に応じた。あまりしゃべらない。特技は柔道。

岡部

経理をしている社員。

社員A

魔法を習得する新入社員の募集に応じた。

社員B

モブ社員。

社員C

船旅中に子供たちに勉強を教えていた。

開発者A

ロボットの開発者。

開発者B

ロボットの開発者。

開発者C

ロボットの開発者。

開発者D

ロボットの開発者。

開発者E

ソフトウェア開発者。

開発者F

システムエンジニア。

開発者G

人工知能技術者。

楽園ロボティクス社長

パッションロボティクス事業部長から楽園ロボティクス社長になった。

楽園ロボティクス部長

製造・流通の仕事の取りまとめをしている。

怪しい人A

秘密集会のリーダー。

怪しい人B

秘密集会の参加者。

怪しい人C

秘密集会の参加者。

作業員A

溶接作業をしていた人。

作業員B

床を平らにする作業をしていた人。

作業員C

トラス構造を作っていた人。

作業員D

クリスマスパーティーで話しかけてきた人。

ピザ屋

ピザの宅配に来た人。

料理人

食堂で働いている。

住職

寺にいる。

店員

服のレンタル店で働いている。

チャン・リーファン

落成式に来賓として来ていた建築家。

来賓A

落成式のときにいた人。

来賓B

落成式のときにいた人。

来賓C

落成式のときにいた人。

高野

楽園フーズの社長をすることになった。

グエン

楽園交通の社長をすることになった。

部田

買ったロボットが失踪して困っていた人。女性と話すと緊張する。

冒険者A

バッタ討伐隊のメンバー。

冒険者B

バッタ討伐隊のメンバー。

絶対正義党員A

集団の中にいた、仮面をつけた人。

絶対正義党員B

集団の中にいた人。

絶対正義党員C

集団の中にいた人。

ロックウルフ

魔法武闘会での絶対正義党チームの選手。

チャコ

魔法武闘会での絶対正義党チームの選手。

観客A

ロボット研究成果発表会にいた人。

観客B

魔法武闘会にいた人。

観客C

魔法武闘会にいた人。

インクレディブルプランナー加藤

役員選挙の候補者。意識高い系ビジネス用語をたくさん使うほど頭がいいと思っている。

マリア

役員選挙の候補者。動画配信者として無謀なチャレンジをしている。

護衛

モロッコ国王の護衛をしている。

政府職員

モロッコ政府の偉い人。

アナウンサー

報道番組のアナウンサー。

育児士

よその子供を預かって育てている。

案内人

迷路商店街の案内所で店を探すヒントを与えている。

喫茶店員

迷路商店街の喫茶店で働いている。

星空屋店主

迷路商店街で天文グッズの店を営んでいる。

自動運転車

人工知能搭載の小型貨物車両。ロボットアームがあり、自動で荷物の配達や回収をする。

群衆

観客たちが一斉に声をあげたときなどのセリフ。

姿無しA

誰だかわからないセリフ。

姿無しB

誰だかわからないセリフ。

姿無しC

誰だかわからないセリフ。

姿無しD

誰だかわからないセリフ。

姿無しE

誰だかわからないセリフ。

姿無しF

誰だかわからないけどなんか特徴的なしゃべり方の人のセリフ。

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