第14話    デス・ホライズン②

文字数 3,420文字


トリスタンとヒューゴはひたすら隠し通路を歩いていた。
「広いやー。何なんだこの通路は」
広く無機質な通路には、50メートル間隔に造りかけの自動人形《オートマドール》と内線が設置されていたのだった。
「凄いぞ。何なんだコイツらはー。」
ヒューゴは子供のように目を輝かせ、自動人形《オートマドール》の間接を回転し取り外す等して弄《いじ》っていた。
すると、後方で、爆竹の鳴り響く様な激しい音が響いてきた。
「何が起きたんだよ!?
ヒューゴは、自動人形《オートマドール》の右腕を地面に落とした。うでは緊張感を走らせながら、静かに地面に落ちた。
「一人、覚醒した?」
トリスタンは眉をしかめた。
「なんだって!?
ヒューゴはヘッドホンの音量を下げた。
「知っているか?AランクからSランクになる方法ー。」
「有るのかー?奴らS級とは、格が違うぞ。」
「本物のマシンのようになるんだよ。身体も、心も。」

「え、でも突然人から機械になるのは不可能なんじゃ・・・。」
「お前、身体の一部が欠損してないか?」
「ああ・・・。ガキの頃ー、マシンに襲われて地元の仲間が皆殺られちゃってー、それで、俺は生き残ったんだが、そこから先の記憶は無いんだ・・・。」

「俺達は元は人間だったんだよ。」

「え・・・?どういう事ー?」

トリスタンは深く沈んだ様な眼をしており、ヒューゴは息をのんだ。トリスタンは厳粛な面持ちで淡々と話始めた。
「俺は機械兵に地元を奪われた人間の子供だったんだ。そこで、身体の一部を欠損してしまい瀕死の状態の所を、組織の人間に拾われたんだよ。」
「何だって!?旋律がずれていたと言うのか?」
ヒューゴはヘッドホンを外すと、ひたすら旋律旋律と呟いていた。
「世界組織《アルカナ》は、そういった子供達を拾い、欠損した身体の一部を機械で補なう事にしたんだ。」
「俺達は、ジェネシスより、むしろサイボーグだと言える」
「VXシリーズの大半はアストロンから来た個体だ。No.150以上の番号の9割方はそう見ていい。アイツ等の正体は、もうひとつのかなり文明の発達した地球からやって来た、アンドロイドなんだ。」
「意味がわからないんだけど。」
「彼等のいた地球はアストロンと、呼ばれている。」
「アストロン・・・?」
「俺達が存在している宇宙は複数あって、無限の並行世界が存在しているらしい。そこで、奴等の居る側の地球は既にメカに支配されているらしい。人類の数もこの世界の10分の1程度みたいだよ。」
「じ、じゃあ奴等は、この地球のエンジニアが造ったんじゃないのかー?どう説明がつくんだー?」
「奴等は初めにこちらに来た時、自身のウィルスをこちら側のアンドロイドに感染させたんだ。そして、エンジニアをも陰でうまく手玉に取っていたのさ。多分ー、パンドラも奴等に洗脳されていたかも知れないー。」
「旋律に・・・、狂いが生じていたのかよ・・・。」
「俺がその事実を知ったのは、大分昔の大量虐殺からだ。不思議に思い、色々洗いざらい調べたのさ。。」
「・・・。」
迷路に迷いこんだかの様に唖然としているヒューゴを気にもとめずに、トリスタンは淡々と話を進める。
「俺の推測だが、シリウスは元は奴等と同じ側ー、つまりアストロンからやって来た人間なんだ。彼の居る側の世界の日々谷ミライは戦いで殺されてしまい、シリウスは此方側の日々谷ミライに接触したんだ。しかし、こちら側の日々谷ミライはガイアの大量虐殺のショックにより記憶を殆ど無くし、シリウスは何らかの強制的な手段で日々谷の記憶を取り戻そうとしてるのさ。」
「じ、じゃあ・・・、此方側のシリウスは、どうなってるんだよ?並行世界だから、居るはずだよな・・・。」
「多分だが・・・、奴はこちら側のシリウスを殺害したんだ。邪魔な存在は直ちに確実に殺抹殺する・・・。それが奴のやり方だ。」
「向こう側の奴《シリウス》は数少ない人類の生き残りになるのかー?」
「そういう事になるだろうな。」
「・・・じ、じゃあ、向こう側には俺達は居なかった、産まれてなかった可能性は高いのかー?」
トリスタンは腕組をすると、心痛な顔で重い口を開く。
「居ない可能性がかなり高いだろうなー。居たとしても全く異なる環境に居るから、姿は似ていても人格やら能力やらが全く異なるだろうー。」
「これらの話を知る奴等は、あんたの他に何人位居るんだー?」
「詳しくは知らないが、大鳥カケルと青木博士は感づいている筈だー。青木博士はパンドラの上層部に属していたし、大鳥も何らかを感づいている。しかしー、俺達の同胞もジェネシス専門の組織《アルカナ》も、大半の者は知らないと思う。」
「お前は、何者なんだー?」

しばらくすると、2人の目の前に花火が舞うような爆音がした。
向こう側には、丸い球状の光に包まれた身長2メートルを優に越えるような強面の鎧武者が、2人を睨んでいたのだった。
「来たな・・・。VX252・・・。」
鎧武者の姿をしたVXは、頭をカチカチ音をたてて震わせながら、2人の眼前に立ち塞がっている。
「流石に奴等はここへは来れないか・・・。しかし」
トリスタンはぶつぶつ呟きながら、顎に指を添えた。
「馬鹿!お前何やってるんだ!?10オクターブおかしくなっちまう!」
しかし、トリスタンはヒューゴの制止を無視し、そのまま敵の近くまで歩み寄る。
「久しいな・・・。トリスタン。」
鎧武者は歯をカチカチ立て話しながら、背中の鞘から長さ2メートルもの大太刀を引き抜いた。
「お前、よくも仲間をやってくれたぜよ。借りはきっちり返してもらうぜ。」
「殺したー?どうなってんだ?あんたも実はアストロンからきたのか?」
ヒューゴは、ズボンの拳銃ホルダーから、バズーカを取り出そうとした。
「俺はこちら側の住人だよ。あと、バズーカはしまっとけ。ここじゃ、無意味だ。」
トリスタンはヒューゴを一瞥すると、苦笑いをした。
すると、トリスタンの眼光が冷徹に光った。端正な顔立ちは能面の様に不気味に見え、ヒューゴは後退りした。
「どうだ?組織が懐かしいか?我等が最新式の動力機構ぜよ。」
鎧武者は、両腕を軽く2振りした。
「お前ー、組織にいたのかー?だから、あれだけの情報をー。」
252は、トリスタンの首を狙って刀をふるい落す。ヒューゴは咄嗟《とっさ》にバズーカの引き金をひいた。しかし光線は放とうとする度に何故か一瞬で打ち消されてしまうのだった。キレのよい大太刀は、地面に深々と亀裂を入れた。地面はグラグラと揺れ、強烈な電流が迸《ほとばし》った。ヒューゴは咄嗟《とっさ》に近くの手すりにもたれ掛かった。トリスタンは身をかわし右足をバネの様にに跳ねあげ、252の頭部に刃物のような強烈な蹴りを食らわした。252は、ビリビリと光線を撒き散らして、よろめきあとずりした。そうしてトリスタンは、252の頭部を壁に叩きつけた。広い通路には大きく鈍い音が木霊していた。壁は隕石が落ちたような大きな亀裂で、今にも崩れ落ちそうである。252は感電したかの様に激しくブルブル震えている。
「成る程。図体だけはデカイが、頭能は大したことないんだな。ほら、ここはもう地獄になってるぞ。」
そこには何故か1面の強烈な電磁場が走っていたのだった。252の震えはますます強くなる。
トリスタンは、軽く微笑むと、右手で252の頭部を壁にグリグリ擦り付けた。
「ふん。戯け者めがー。貴殿側の世界は既に学習済みよー。」
52はカチカチ笑うと、右腕の間接を180度曲げた。そしてトリスタンの右腕を掴むと、砲丸投げの様にブンブン振り回した。トリスタンは50メートル後方へ吹き飛ばされた。しかし彼は空中で体勢を整えると、軽やかに着地した。
「しばらく経過を見させてもらったのだが、なんだ、これが近代科学と言うものかー。」
トリスタンは垂れ目を吊り上げ、小悪魔のようにいたずら気に微笑んだ。そして深呼吸をすると、眼を開いた。彼の瞳は銀色に変色した。すると、周囲には竜巻の様な風が覆いつくし強烈な爆音が轟いた。そして空間中の壁面が雪崩の様に崩れ落ちた。
ヒューゴは全身に凍りつく程の寒気を感じたのだった。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

キース・バークマン


主人公。アイルランド系のアメリカ人であり、角刈りで長身瘦躯の男。ワイルドな性格をしており酒癖と女癖が悪い。しかし、幼少の頃からジェネシスとしての過酷な訓練を受けており、武器の扱いに長け身体能力がが同胞の中でも遥かに高い。また、最高時速600キロを誇る、世界一危険で過酷なレース『ギャラクシー・レース』のトッププレイヤーでもある。大鳥に対してはレースにおいて自身のファンを取られた事を好ましく思ってない反面、戦いの時はしばしば暴走する彼に突っ込みや助言をするなどしている。昔、自身の親友や恋人が無残な死に方をした経験から、組織に猜疑心を持っており復讐の機会を狙っている。




大鳥 カケル


もう一人の主人公。長身で中世的な顔立ちをしている美青年のジェネシス。子供の頃、エンジニアである大鳥レイジの影響からメカや自動人形《オートマドール》に精通しており、各個体の性質や能力に詳しく戦い方も心得ている。時折、無鉄砲で命知らずな行動に出ることもあるが、それは被害を最小限に抑えるという自身の配慮でもある。普段は他人に柔和で時折笑顔を振りまいているが、それは本来の性格ではない。本来は冷静沈着であり、女嫌いな一面を持つ。人間《ノーマル》である母親とジェネシスである父親のハーフというイレギュラーな存在である。ハーフで実の両親の記憶も無く、子供の頃は時折疎外感を感じていた。組織に仲間や養父を虐殺された経験から、彼もまた復讐の機会を狙っている。

日比谷 ミライ


本作の最重要人物。オッドアイで左利き。右目が淡い緑色をしているが、普段はカラーコンタクトをしている。左頬に星形の痣がある。物静かで穏やかな性格をしており、丁寧口調で話す。とある重大な事件による過度なストレスにより、記憶の殆どを失っているジェネシス。実は大鳥からマークされている最重要人物であり、戦闘能力も桁違いである。

細身だが、身体能力は並みの人間を凌駕しており古めのvxなら一人で楽々倒すスキルを有している。本来の性格は冷徹で同胞や人の命に関心がなく、場合によっては平気で切り捨てるらしい。

大鳥 レイジ


カケルの養父であるジェネシス。身長193センチの長身で右ほほに大きな十字型の傷がある。非常に優秀なエンジニアであり、カケルにロボット工学のノウハウを授けた。かつては組織におけるナンバー2のポジションであった。自動人形《オートマドール》の開発や管理をしていたが仲間の陰謀により失脚し、自身の制作したvxに殺害されてしまった。

青木博士


穏やかで中年太りの大男である発明家。カケルの義手のメンテナンスをしている。マッドサイエンティストであり、研究に爆発や異臭を伴いしばしばご近所トラブルを起こしている。また、カケルが心を許す数少ない友人である。かつては組織に属していたが離反し、現在命を狙われている立場にある。組織内の情報や自動人形《オートマドール》に詳しく、また秘密の経路でしばしばカケルに情報を流している協力者でもある。

リゲル・ロード


大鳥レイジとウリ二つの顔をした、謎の美青年。身体全体を液体の様に自由自在に変形する能力を有している。常に無表情で冷淡な性格をしている。何らかの理由で日比谷の命を狙っている。かつてはジェネシスであったが、とある事件で化け物《ビースト》化してしまった-。

   何故かカケルに執着している。

シリウス・ベクター


組織の幹部。長身の優男。幼少期のカケルとは顔見知りであり、彼の両親を知る唯一の人物。大鳥レイジの死の真相も熟知している。また、リゲルに日比谷を捕らえる様に指示した。何かを企んでおり、日比谷の記憶が戻るのを心待ちにしている。

戦闘能力は未知数。謎のスキルがあるらしく、彼に攻撃しようにも弾きかえされてしまい、倍以上のダメージを喰らってしまう。

カケルや彼の両親についての秘密をにぎっている。

    彼の正体は並行世界の住人で、元は孤独で不器用な好青年だった。しかし、そちら側の日々谷をマシンに殺されてから、歪んだ性格になってしまった。やがて世界を憎み破滅へ導くようになる。

ヒューゴ.ブル


イギリス風の男。女好きで軽快な性格をしている。自身でラッパーを名乗っており、レース時は大音量で鳴らして走っている。大鳥が台頭する迄は、常に3位をキープしていた。ロック派のキースとはウマが合わなく、しばしば喧嘩をしている。

また、ことごとくトラブルに見舞われる体質の持ち主である。真っ先に日比谷やシリウス、リゲル等に遭遇したり、最新のVXに追われれる等している。

トリスタン. ボロン


フランス風の男。クールで毒舌家。タレ目で癖毛が特徴的である。落ち着いた静かな曲を好み、キースやヒューゴを煙たがっている。眠たそうな顔をしており、暇さえあればいつも昼寝をしている。レースでは大鳥が台頭するまでは、キースに次いで常に二位をキープしていた。

    かつては組織に属していたエンジニアであり、情報通でもある。

   組織やマシンに対し、激しい憎悪があり、時にはもて遊ぶ残酷な一面も持ち合わせている。

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み