第7話     ブラック’ジョーカー②

文字数 1,673文字

「念の為に例の13体の螺子は全て抜き取りました。ただ…一応、地下は完全に封鎖しときましょう。当分の間、24時間体制で監視するようにしてください。あと、ちょっとでも何か違和感がしたら、直ぐに僕を呼んでください。」
レイジに言われるまま、マネージャーはそそくさと携帯で管制室と取り合った。彼が話し終えた3秒後、鋼鉄のシャッターは鈍い音を立てながら、ゆっくり閉じた。

「この度はわざわざすみません…。ついでといってはなんですが…。来月、指定の口座に580万程、振り込んどきますので…」
「え!?流石にウチもこんなにバカデカい大金は頂けませんよ。今回も80万位で大丈夫です。」
レイジは眉間に深く皺を寄せ、想定外の大金に唖然としていた。
「義手の分500万程上乗せしときました。」
「…はぁ?」
「この子に右腕を造って頂けないでしょうか?
アレからこのように塞ぎこんじゃっているんですよ。」
「右腕・・・・・・ですか?僕は、人相手にそういう物は造った事はないですよ?しかも、義手にあの大金は高すぎますよ。」
「その分、生身と区別がつかないようなかなり精密な義手を造ってくれますか?私は組織の端くれですが、この子にこの様な事しかしてあげられないんです。私は非力な凡人ですので…。大鳥さんの様な魔術師に託すしかないので。」
マネージャーは切羽詰まったかのように矢継ぎ早に早口で喋った。
「その…、魔術師っていうのは、やめていだだきますかね…?僕、そう呼ばれるの苦手なんで。」
レイジは角刈りの頭をかきながら、軽く首を傾げた。

それから2週間後、レイジは完成させた義手を荷台に積め、再び組織に出向く事となった。場違いな建物の入り口には、例のマネージャーが額を拭いながら申し訳なさうにペコペコ頭を下げていた。
レイジは、旅行にでも行くかの様な場違いなサイズの荷物を担ぐと、案内されるまま少年の元へ向かった。

広い研究室には、最先端の模型やあたかも人間そっくりの自動人形≪オートマドール≫がずらりと並んでいた。コレを見る度にレイジは『不気味の谷』を連想させる。彼等が人間に似れば似る程、人間達は彼等等に嫌悪感を抱く事もあるらしいのである。
レイジは、リュックからから工具箱と完成させた右腕を取り出し、少年に近くの椅子に座るように促した。
「どうだ?動かせるか?」
レイジは少年に右腕を装着させ螺子をくるくる回し、彼の顔を覗きこんだ
「スゴいや…。本物みたいだ…。」
少年は右腕をヒラヒラ動かし、猫の様に眼を大きくしていた。
「そういえば、アンタ、名前は何て言うんだ?歳は幾つだい?」
「…俺はカケルだ。12だよ。」
力強い喋りだが、若干声が震えている。明らかに強がっている様だ。自分に警戒しているのだろうか?レイジは身長193センチの長身であり、筋骨隆々で堀の深い顔立ちをしている。おまけにぶっきらぼうで第一印象も悪い。子供が警戒するのも無理はない。

「…、本物みたいだね。」
少年は納得したかの様だった。
「おじさんって、ホントに『魔術師』なの?」
「俺は30なんだが…。しかも『魔術師』なんて言う呼ばれ方は嫌いなんでね。」
「ふぅん。そのうち俺にもスゴい奴、造ってよ。ボディガードっていうやつ。ターミネーターみたいに最強で、主人公を守ってくれるカッチョイイのがいいな。」
「あぁ…、アンタがジョンの様に有名人になったら考えてやってもいいがな。」
レイジは冗談交じりに苦笑いをし、カケルの頭を乱暴に撫でた。そして大災害でも起きたかの様な真剣な面持ちで、カケルと正面で向き合った。
「いいか、彼等自動人形≪オートマドール≫を侮ってはいけない。特にVXは特別なんだ。彼等は最強の味方にもなるが、最悪の強敵にもなり得る。命を落とすかも知れない。扱いを間違えると大火傷をしてしまうんだよ。」
「…つまり、ヒーローにでもモンスターにでもなるって事?」
「そういう事だぜ。アンタ、物分かりが良いな。」
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登場人物紹介

キース・バークマン


主人公。アイルランド系のアメリカ人であり、角刈りで長身瘦躯の男。ワイルドな性格をしており酒癖と女癖が悪い。しかし、幼少の頃からジェネシスとしての過酷な訓練を受けており、武器の扱いに長け身体能力がが同胞の中でも遥かに高い。また、最高時速600キロを誇る、世界一危険で過酷なレース『ギャラクシー・レース』のトッププレイヤーでもある。大鳥に対してはレースにおいて自身のファンを取られた事を好ましく思ってない反面、戦いの時はしばしば暴走する彼に突っ込みや助言をするなどしている。昔、自身の親友や恋人が無残な死に方をした経験から、組織に猜疑心を持っており復讐の機会を狙っている。




大鳥 カケル


もう一人の主人公。長身で中世的な顔立ちをしている美青年のジェネシス。子供の頃、エンジニアである大鳥レイジの影響からメカや自動人形《オートマドール》に精通しており、各個体の性質や能力に詳しく戦い方も心得ている。時折、無鉄砲で命知らずな行動に出ることもあるが、それは被害を最小限に抑えるという自身の配慮でもある。普段は他人に柔和で時折笑顔を振りまいているが、それは本来の性格ではない。本来は冷静沈着であり、女嫌いな一面を持つ。人間《ノーマル》である母親とジェネシスである父親のハーフというイレギュラーな存在である。ハーフで実の両親の記憶も無く、子供の頃は時折疎外感を感じていた。組織に仲間や養父を虐殺された経験から、彼もまた復讐の機会を狙っている。

日比谷 ミライ


本作の最重要人物。オッドアイで左利き。右目が淡い緑色をしているが、普段はカラーコンタクトをしている。左頬に星形の痣がある。物静かで穏やかな性格をしており、丁寧口調で話す。とある重大な事件による過度なストレスにより、記憶の殆どを失っているジェネシス。実は大鳥からマークされている最重要人物であり、戦闘能力も桁違いである。

細身だが、身体能力は並みの人間を凌駕しており古めのvxなら一人で楽々倒すスキルを有している。本来の性格は冷徹で同胞や人の命に関心がなく、場合によっては平気で切り捨てるらしい。

大鳥 レイジ


カケルの養父であるジェネシス。身長193センチの長身で右ほほに大きな十字型の傷がある。非常に優秀なエンジニアであり、カケルにロボット工学のノウハウを授けた。かつては組織におけるナンバー2のポジションであった。自動人形《オートマドール》の開発や管理をしていたが仲間の陰謀により失脚し、自身の制作したvxに殺害されてしまった。

青木博士


穏やかで中年太りの大男である発明家。カケルの義手のメンテナンスをしている。マッドサイエンティストであり、研究に爆発や異臭を伴いしばしばご近所トラブルを起こしている。また、カケルが心を許す数少ない友人である。かつては組織に属していたが離反し、現在命を狙われている立場にある。組織内の情報や自動人形《オートマドール》に詳しく、また秘密の経路でしばしばカケルに情報を流している協力者でもある。

リゲル・ロード


大鳥レイジとウリ二つの顔をした、謎の美青年。身体全体を液体の様に自由自在に変形する能力を有している。常に無表情で冷淡な性格をしている。何らかの理由で日比谷の命を狙っている。かつてはジェネシスであったが、とある事件で化け物《ビースト》化してしまった-。

   何故かカケルに執着している。

シリウス・ベクター


組織の幹部。長身の優男。幼少期のカケルとは顔見知りであり、彼の両親を知る唯一の人物。大鳥レイジの死の真相も熟知している。また、リゲルに日比谷を捕らえる様に指示した。何かを企んでおり、日比谷の記憶が戻るのを心待ちにしている。

戦闘能力は未知数。謎のスキルがあるらしく、彼に攻撃しようにも弾きかえされてしまい、倍以上のダメージを喰らってしまう。

カケルや彼の両親についての秘密をにぎっている。

    彼の正体は並行世界の住人で、元は孤独で不器用な好青年だった。しかし、そちら側の日々谷をマシンに殺されてから、歪んだ性格になってしまった。やがて世界を憎み破滅へ導くようになる。

ヒューゴ.ブル


イギリス風の男。女好きで軽快な性格をしている。自身でラッパーを名乗っており、レース時は大音量で鳴らして走っている。大鳥が台頭する迄は、常に3位をキープしていた。ロック派のキースとはウマが合わなく、しばしば喧嘩をしている。

また、ことごとくトラブルに見舞われる体質の持ち主である。真っ先に日比谷やシリウス、リゲル等に遭遇したり、最新のVXに追われれる等している。

トリスタン. ボロン


フランス風の男。クールで毒舌家。タレ目で癖毛が特徴的である。落ち着いた静かな曲を好み、キースやヒューゴを煙たがっている。眠たそうな顔をしており、暇さえあればいつも昼寝をしている。レースでは大鳥が台頭するまでは、キースに次いで常に二位をキープしていた。

    かつては組織に属していたエンジニアであり、情報通でもある。

   組織やマシンに対し、激しい憎悪があり、時にはもて遊ぶ残酷な一面も持ち合わせている。

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