第12話 果てしなき咆哮

文字数 3,018文字

「あんまり弄《いじ》るなよ。これは試作品なんだ。」
「なぁ、ちょっとならいいだろう?」
広いドーム型の研究室で、レイジは武器の研究と開発を行っていた。
「うわぁー、カッチョいいなー。」
「お子ちゃまは、そろそろ寝る時間だぞ。もう11時だぜ。」
「なぁー、まだいいだろう。」
カケルはクレイモア型の剣をブンブン振り回しながら、走り回った。ふと、離れたところに直径3メートル程の青色の巨な液体の水が球を形づくりその場でプカプカ浮いていたのだ。その球の周りには強烈な電磁波を帯びた鉄の棒が四方を取り囲んでいた。
「なんだ?この水の球は?何か不思議だなぁー。」
「あぁ、これは『オシリスの泉』だ。まだ開発したばかりで不安定なんだ。」
「あそこのエリアは?」
少し離れた辺りに強烈な電磁波を帯びたエリアがあった。そこにも鉄の棒が四方を囲っていた。
「これはお前ら子供を守る為のバリケードだ。」
「ふうん。」
 そのときだった。異様な重苦しい気配がしたのだ。敵の気配か?しかし、異様に近すぎる。自動人形《オートマドール》でも同胞でもない甘ったるい匂いが辺りを包み込んだ。
「カケル、その装置の中に逃げろ!!」
レイジはカケルを呼び止めるもカケルは恐怖で動けないでいた。お守りはコロコロ音を立て、向こう側の溝に転がっていった。
「あ、お守りが!!」
カケルは咄嗟にビー玉を取りに行こうと駆け込んだ。
「馬鹿!早くバリケードに入れ!」
レイジが止めに入るのも虚しく、数秒後カケルは悲鳴を上げたのだった。
「カケル!!!」
亀裂から触手が延びており、ソレはカケルの全身に巻き付いたのだった。そしてたちまち鋭い爆音がし、レイジはむせこんだ。
そこには化け物がいたのだ。全長5・5
メートル程の自動人形《オートマドール》は、上半身は成人女性 下半身は蜘蛛の様な姿をしていた。口は魚の様にパックリ広がっており、口の隙間からギザギザした歯が見え隠れしている。尖った耳に全身が白灰色のおぞましい魔女の様な姿をしていたのだった。
「あら、美味しそうな坊やね。」
鋭い眼孔の自動人形は流暢に物臭そうに話す。
「くそう、離せ・・・、化け物!!!」
カケルは両足をバタバタさせる。
「お前らは、オイル以外喰えないんじゃないのか?ぶっ壊れるぞ?」
レイジは電気砲《バズーカ》を構えると、蜘蛛女に照準を合わせた。
「それにお前らは、作った覚えないぞ。」
「あらぁ~、知らないの『アポロン計画を』」
「ア・・・、『アポロン計画』だと・・・?」
「要は人間とジェネシス抹殺の為に私達が造られたのだ。」
「お前、元はジェネシスだな?」
「フフフ…、でも今はソレを遥かに超越したのだ。」
「人である事を棄て、抜け殻になったってのがかい?」
レイジは、自動人形≪オートマドール≫の額に照準を合わせ、リボルバーを引いた。砲弾は蜘蛛女の額に当たり、彼女は動きを停止した。そして、強烈な電流が火花を散らしながら、彼女を包み込んだのだった。
ーが、しかし届かないー。
これ程の強大な電磁波でも、コイツには効かないと言うのだろうか?
「カケル、結界の中に逃げろ!!」
レイジは蜘蛛女が怯んだ隙に、落ちてきたカケルキャッチした。カケルは言われるがまま、バリケードの中へ逃げ込んだ。


カケルが息を殺している隙に、すぐ横に長い鍵爪が、棚を貫いた。

「カケル、もっと奥に引っ込んでろ!!」

カケルは恐怖で全身汗でびっしょりだった。カケルは頭を抱えながら奥に引っ込んだ。

すると、レイジの身体はみるみる岩のように硬くなり、鋭い眼光はグレーに光ったのだった。
「レイジ…、ソレは…?」
蜘蛛女の前肢がレイジの左足を目掛けて、前足を鞭の様に振るった。レイジは闘牛を押さえつけるかのような体勢で、蜘蛛女の前足を掴むと両足で踏ん張った。するとレイジの両腕の筋肉はらくだのコブの様に盛り上がりたちまち2倍ほどの太さになったのだった。両腕には血管が盛り上がっていた。しかし、その時蜘蛛女の前足がレイジの右脇腹を貫通していた。
「フン、お前等の弱点は既に知っているのだよ。」
「前に、俺の兄弟に会ったかのような口振りだな。だが・・・、ソレがどうしたって言うんだい?」
レイジは激痛に耐え、右脇腹に刺さっている前足を抜くと、深く深呼吸をした。
「だから、無駄無駄、無駄なのだよ!」
蜘蛛女は勝ち誇り、トドメの一撃を食らわす。レイジの巨腕は蜘蛛女の脚を掴み、そのまま力ずくで引きちぎった。
「何故だ!?その様なデータはなかった筈だぞ!?」
蜘蛛女は鬼のような形相で地団駄を踏んだ。
「どうした?これだけか?俺はまだ手札を持ってるぜ。」
「・・・。」
「強くなったとは言え、大したことは無いんだな。」
「ふざけるな!!!」
するとたちまち激しい火花が辺りを取り囲んだ。火花の中から再び幾度の耳を塞ぎたくなる様な爆音がした。まるで花火が打ち上げられているかのようだ。強烈な光線と爆音にカケルは両目を閉じ、耳を塞いだのだった。カケルが恐る恐る耳から手を話し、目を見開くと、鋭い咆哮の様な掛け声が聞こえてきたのだった。
 そして火花の中でレイジは蜘蛛女を軽々と持ち上げ、『オシリスの泉』に放り投げたのだった。
「ぎゃぁー。」
蜘蛛女は強烈な悲鳴を上げ、もがき苦しんだ。彼女の身体は徐々に溶け、すっかり胸部から上までしかなくなっていた。蜘蛛女は体勢を整え残りの力を振り絞った。レイジは蜘蛛女の方へ歩くと、彼女の頭を掴み、軽々と持ち上げた。

「・・・、どういう事だ?その様なデータはなかった筈だぞ。」
「もっと楽しめると思ってたのに残念だぜ。」
レイジは軽く溜め息をついた。
「ふざけるな…。お前らはまだ知らないのだ。この先の行く末を。偉大なる計画の先を…。」
蜘蛛女は蚊の泣くような声を絞り上げた。
 しかしレイジは、蜘蛛女の硬い頭部を、ビーチボールを扱うかのようにいとも簡単に握り潰したのだった。

 室内では、辺り一面で焦げ臭い煙が充満していた。煙が和らぐと、そこにはレイジの姿とぺしゃんこになった蜘蛛女の亡骸がそこにあった。
「レイジ、大丈夫か?」
カケルは乗り気では無い顔である。
「殺ったのか?」
「あぁ、殺ったさ。コイツは今まで沢山人を喰い殺してきた。だから始末したまでだ。」
「知ってるさ。そういう事。でもあんなの見ちゃうと…、俺、レイジが怖いよ。」
「すまんな。力の制御が効かないもんでね。」
レイジはタオルをお腹に当てるとその場でしゃがみこんだ。
「レ、レイジ…人呼ばないと…。血がダバダバ出てるよ…。」
「俺は化け物なんでね。ステーキ喰って良くなる。」
「肉ならあるよ。くすねてきたんだ。」
カケルは右ポケットから、ビーフジャーキーの入った袋を手渡した。
レイジは苦虫を噛み締めた顔つきで脇腹を押さえ、ビーフジャーキーを口に放り込んだ。するとレイジの傷は、魔法にかかったかのようにみるみる綺麗に完治したのだ。

 その日以来、カケルはレイジが遠くの世界の違う人種であるかの感じがして恐怖を覚えたのだった。これが、大鳥レイジの本来の力なのか…?いつか自分も殺られてしまうのではないだろうかと…。
 非力な少年の心の中で、憧れと恐怖と言う2つの矛盾した思いが入り交じっていたのだった。



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登場人物紹介

キース・バークマン


主人公。アイルランド系のアメリカ人であり、角刈りで長身瘦躯の男。ワイルドな性格をしており酒癖と女癖が悪い。しかし、幼少の頃からジェネシスとしての過酷な訓練を受けており、武器の扱いに長け身体能力がが同胞の中でも遥かに高い。また、最高時速600キロを誇る、世界一危険で過酷なレース『ギャラクシー・レース』のトッププレイヤーでもある。大鳥に対してはレースにおいて自身のファンを取られた事を好ましく思ってない反面、戦いの時はしばしば暴走する彼に突っ込みや助言をするなどしている。昔、自身の親友や恋人が無残な死に方をした経験から、組織に猜疑心を持っており復讐の機会を狙っている。




大鳥 カケル


もう一人の主人公。長身で中世的な顔立ちをしている美青年のジェネシス。子供の頃、エンジニアである大鳥レイジの影響からメカや自動人形《オートマドール》に精通しており、各個体の性質や能力に詳しく戦い方も心得ている。時折、無鉄砲で命知らずな行動に出ることもあるが、それは被害を最小限に抑えるという自身の配慮でもある。普段は他人に柔和で時折笑顔を振りまいているが、それは本来の性格ではない。本来は冷静沈着であり、女嫌いな一面を持つ。人間《ノーマル》である母親とジェネシスである父親のハーフというイレギュラーな存在である。ハーフで実の両親の記憶も無く、子供の頃は時折疎外感を感じていた。組織に仲間や養父を虐殺された経験から、彼もまた復讐の機会を狙っている。

日比谷 ミライ


本作の最重要人物。オッドアイで左利き。右目が淡い緑色をしているが、普段はカラーコンタクトをしている。左頬に星形の痣がある。物静かで穏やかな性格をしており、丁寧口調で話す。とある重大な事件による過度なストレスにより、記憶の殆どを失っているジェネシス。実は大鳥からマークされている最重要人物であり、戦闘能力も桁違いである。

細身だが、身体能力は並みの人間を凌駕しており古めのvxなら一人で楽々倒すスキルを有している。本来の性格は冷徹で同胞や人の命に関心がなく、場合によっては平気で切り捨てるらしい。

大鳥 レイジ


カケルの養父であるジェネシス。身長193センチの長身で右ほほに大きな十字型の傷がある。非常に優秀なエンジニアであり、カケルにロボット工学のノウハウを授けた。かつては組織におけるナンバー2のポジションであった。自動人形《オートマドール》の開発や管理をしていたが仲間の陰謀により失脚し、自身の制作したvxに殺害されてしまった。

青木博士


穏やかで中年太りの大男である発明家。カケルの義手のメンテナンスをしている。マッドサイエンティストであり、研究に爆発や異臭を伴いしばしばご近所トラブルを起こしている。また、カケルが心を許す数少ない友人である。かつては組織に属していたが離反し、現在命を狙われている立場にある。組織内の情報や自動人形《オートマドール》に詳しく、また秘密の経路でしばしばカケルに情報を流している協力者でもある。

リゲル・ロード


大鳥レイジとウリ二つの顔をした、謎の美青年。身体全体を液体の様に自由自在に変形する能力を有している。常に無表情で冷淡な性格をしている。何らかの理由で日比谷の命を狙っている。かつてはジェネシスであったが、とある事件で化け物《ビースト》化してしまった-。

   何故かカケルに執着している。

シリウス・ベクター


組織の幹部。長身の優男。幼少期のカケルとは顔見知りであり、彼の両親を知る唯一の人物。大鳥レイジの死の真相も熟知している。また、リゲルに日比谷を捕らえる様に指示した。何かを企んでおり、日比谷の記憶が戻るのを心待ちにしている。

戦闘能力は未知数。謎のスキルがあるらしく、彼に攻撃しようにも弾きかえされてしまい、倍以上のダメージを喰らってしまう。

カケルや彼の両親についての秘密をにぎっている。

    彼の正体は並行世界の住人で、元は孤独で不器用な好青年だった。しかし、そちら側の日々谷をマシンに殺されてから、歪んだ性格になってしまった。やがて世界を憎み破滅へ導くようになる。

ヒューゴ.ブル


イギリス風の男。女好きで軽快な性格をしている。自身でラッパーを名乗っており、レース時は大音量で鳴らして走っている。大鳥が台頭する迄は、常に3位をキープしていた。ロック派のキースとはウマが合わなく、しばしば喧嘩をしている。

また、ことごとくトラブルに見舞われる体質の持ち主である。真っ先に日比谷やシリウス、リゲル等に遭遇したり、最新のVXに追われれる等している。

トリスタン. ボロン


フランス風の男。クールで毒舌家。タレ目で癖毛が特徴的である。落ち着いた静かな曲を好み、キースやヒューゴを煙たがっている。眠たそうな顔をしており、暇さえあればいつも昼寝をしている。レースでは大鳥が台頭するまでは、キースに次いで常に二位をキープしていた。

    かつては組織に属していたエンジニアであり、情報通でもある。

   組織やマシンに対し、激しい憎悪があり、時にはもて遊ぶ残酷な一面も持ち合わせている。

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