第19話    SKY  PANTHER   ②

文字数 3,772文字

あれから2週間が経ち、カケルの怪我は順調に回復しつつあった。
「お前…大丈夫なのか?復讐心を向けるのはいい…。しかしそれでお前自身が強い怒りの感情で壊れて破滅に向かわないか…儂は毎日ハラハラなんだよ。」
「俺の事は心配しなくて、いい。いつも加減は分かってるつもりさ。」
カケルは毅然とした面持ちで、ファルコンを走らせた。しかし、冷静さの中に強い怒りの感情があるのを、博士は見抜いていた。

カケルはファルコンに乗って、自動人形《オートマドール》の回収に向かった。今日は久しぶりの仕事である。街はすっかり廃墟の様になっており、人の姿は何処にもなかった。カケルは右腕からワイヤーを引き出すと、蜘蛛の様にポールにジグザグに引っ掛けながら走った。
しばらく走ると、前方に6体の自動人形《オートマドール》が、姿を現した。自動人形《オートマドール》はファルコンに乗って、時速180キロで前方を走っていた。カケルは電気砲《バズーカ》を構え撃とうとしたが、彼等はスピードをあげて忍者の様なすばしっこさで砲弾を避けている。
ーコイツらはVXだろうか?ー
並みのマシンの様な造りをしているが、動きが機敏である。それとも、ボスの様な者が後ろで操っているのだろうかー?彼等に近づく時、一瞬重苦しさを感じた。まるで巨大な星に飲み込まれる様な、あるいはブラックホールに吸い込まれる様な感覚がした。カケルはこれに既視感の様なものを覚えた。その感覚に、懐かしいが思い出してはいけない魔物を連想したのだ。
ーそうだ。この感じはショウやレオ達が殺られた時と同じだー。そして、レイジの時もー。
カケルはスピードを速め、自動人形《オートマドール》を追い越した。そして右腕にワイヤーを巻き付けると、左手でキツく握った。その握る手は汗でぐっしょりになってカタカタ振動していた。カケルは駒の様にドリフトで旋回させせた。ファルコンは地面スレスレまで倒れた。一体の自動人形《オートマドール》は、ワイヤーを掴むとそのままカケルを自身の方へ引き寄せようとした。しかしカケルは人形遣いの様に華麗な手さばきでワイヤーを強く引き、自動人形《オートマドール》に絡ませた。自動人形《オートマドール》は操り人形の様に次々とドミノ倒しになった。カケルは右腕から電磁波を放出させ、ワイヤーに伝わした。電磁波はビリビリショートした勢いで、自動人形《オートマドール》を包み込み、彼らは動きを停止させた。

カケルはファルコンを止め、通信機を取り出した。
ーと、背後に大きな黒い影が覆いつくした。
カケルはびっくりし振り替えると、VXが襲いかかってきた。カケルが咄嗟にワイヤーを構えようとした所、VXはパタリと動きを停止させた。
「おい、久しぶりじゃねーか?カケル。」
後方から電気砲《バズーカ》を構えたキースが、煙草をくわえて手を振っていた。
「ふん、ジェネシスごときにやられるなんて、俺も救われないよなぁ…」
奇術師の様な格好をしたVXは、再び動きだし、間接から火花を放ち首をクルクル回転させている。
「お前、また博士の差し金か何かか?俺を邪魔しに来たんだな?」
カケルは橋の上から見下ろすキースを睨み付けた。
「は?俺は仕事で、たまたま通りかかっただけだよ。お前、『ありがとう』が言えないのかよ?てか、コイツ何なんだよ…?」
「コイツは多分、上級のVXだ。さあ、主を言ってもらおうか?コイツらはお前が操っていたんだろ。お前らのせいで街はグジャグジャなんだ。」
カケルはワイヤーで、VXの全身を縛り上げた。vXはカタカタ揺れ、身動きが取れなくなっていた。
「ふん、俺の主人を知りたいだと…?」
「さあ、言えよ。見せるんだ。」
マシンはめんどくさそうに眼をチカチカ点滅させた。そして自身の眼を光らせ、映写機の様に映像を壁に映し出した。
そこに、下半身がクラーケンの姿をした姿のマシンがくっきり映っていたのだ。
「はい、俺の主人です。」
VXは物臭に話した。
カケルの瞳孔が開いた。
ーこ、コイツ…、野郎だ…。ー
地獄の番人の様なソイツは周りには幾多のマシンの残骸やジェネシス、人間の遺体が山積みになっていたのだった。コイツが仲間をやったのだ。
「どうだ?あの、シリウスとは次元が違うんだ。」
「シリウスと奴は繋がってないのか?じゃあ、レイジも奴1人でやったんだな?」
「ああ、シリウスに大鳥レイジを殺す動機はない。殺す意味なんて無いんだよ…。奴は、亡くなった方の日々谷を蘇らせ、何か企んでいる様だ…。今宵、マシンがファルコンに乗って、貴様らのガイアを制圧するだろう。そしたら、貴様も仲間も終わりだ。」
カケルはVXの首根っこを掴んだ。
「でも…奴に勝つ唯一の方法がある。」
マシンはわなわな震え、矢継ぎ早に話した。
「だから、何だ?グリーンキャピタルもオデッセウスもお前ら『ラグナロク』や『アルカナ』の連中には渡さないぞ。」
カケルの顔は化け物の様に強張った。まるで、全ての怒りが凝縮した様である。
「…果たしてお前は、伝説のマシンに乗りこなす事が出来るかな?しかし、コイツはお前程度に乗りこなせるマシンじゃない。」
「なめてもらっては困るんだが…俺は、大体のマシンの構造から操作まで全て知ってるつもりだぜ?」
カケルの縛る手は益々強くなる。
「いいや。あんただって無理だね。コイツは元殺戮用マシンさ。戦闘型の乗り物だ。見た目はただのバイクだが、非常に気が荒いんだ。膨大なエネルギーを消費しちまうんだ。だから、今までコイツに乗って生きて帰った奴は居ない。要は相性が悪けりゃ、死ぬだけって事さ。」
「ソイツを扱っている組織の名前を言え。」
カケルはVXの首を掴み持ち上げると、電圧を1・5倍程あげた。
「『ブルー・スカイ・ウォーカー』だ…おい、苦しいから、そろそろ離してくれないか?」
マシンはギシギシ首を震わせていた。カケルの身体は熱を帯び、火傷しそうな位である。
「何故、そこまでペラペラ喋れる?自分達に不利益な事を…」
「ふん。あんたらがどう足掻いても無駄な事だ。」
「おい、カケル…。」
「大丈夫だ。モジュールを組み変えれば出来るさ。俺の得意分野だ。」
「…いや、そうじゃなくて…」
キースは戸惑いながら、煙草をシガレットケースにしまった。
「お前は、所詮、誰も救えないんだ。笑わせるわ…半分、人間の血が流れてるもんな。」
VXは得意気に言い放った。
カケルは無言でワイヤーの電流を上げることにした。右腕からビリビリと花火のように火花が、歩飛ばした。マシンの身体は小刻みに揺れ、そして宙に浮いた。
「黙れ。」
カケルは、マシンをぶっ飛ばした。
「ひっ…」
「今、この腕1本で、お前のモジュールを全ておじゃんにする事だって出来るんだ。」
「そんなに俺たちの星を恨んでも無駄さ。アストロンもガイアも昔は1つの星だったのさ。しかも、お前の母親はアストロン出身者だったんだぜ?笑わせるわ。」
カケルの動きがピタリと止まる。

ーアストロン…?ー

「お前…何を言ってるんだ?」
「知らなかったのか…?あんたは、アストロンの血が流れてるのさ。あんたの母親は軍に属していて、そこであんたの父親に会ったのさ。」
「…どんな軍だ?」
「極秘組織『アポロン』さ。そこは警察庁のトップが運営している所さ。マシンや彼等の主が違法な事をしてないかチェックしてるんだ。そこは主にS級のジェネシスが活動しているが、裏方で人間がサポートしている訳なんだよ。」
「何で、お前がそれを知ってるんだ?」
カケルは更に強くワイヤーを縛り上げた。
「昔、シリウスの元で働いていたことがあるからね。あんたらの事は何でも知ってるぜ。」
「だから何なんだ?お前はいまここで死ぬ運命なんだぞ。」
カケルは般若の様な形相になり、ワイヤーを強く引っ張った。VXの首にワイヤーがめり込んだ。VXはギシギシ音を立て、カチカチ音を鳴らした。そして眼をぎらつかせ、カケルの左腕に噛みついた。カケルは左腕に強烈な痛みを感じた。右腕の義手は熱を帯び、火花は3倍以上に強くなった。カケルは痛みを堪え、ワイヤーを更に強く引っ張った。
するとVXの身体から、強烈な電磁波が流れ出た。電磁波は徐々に拡散していき、電磁波は溶ける様に小さくなっていき、静かになっていった。そして彼の身体は無惨にも粉々に破壊されたのだった。

「お前…カケルだよな?」
キースは、わなわな震え眉を寄せた。
「…」
カケルの周りに青白い炎が覆いつくした。
「うわっ…。」
キースは尻餅をついた。カケルの身体はから炎が迸る。
彼の右腕は溶け出しており、熱を帯びていた。
カケルは低く冷めた声を、絞り出した。
「なあ、俺達チームを組まないか?」
「は?」
「あんたも敵がいるんだろ?」
「まあ…そうだが…唐突すぎないか?…」
キースは戸惑い、新しい煙草を取り出しライターをつけた。
「チーム名は…うん、そうだな。『スカイ・パンサー』ってのはどうだ?これから同士を集め、アストロンに向かおうと思う。」
カケルはただひたすら、青空を睨み付けているのだった。
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登場人物紹介

キース・バークマン


主人公。アイルランド系のアメリカ人であり、角刈りで長身瘦躯の男。ワイルドな性格をしており酒癖と女癖が悪い。しかし、幼少の頃からジェネシスとしての過酷な訓練を受けており、武器の扱いに長け身体能力がが同胞の中でも遥かに高い。また、最高時速600キロを誇る、世界一危険で過酷なレース『ギャラクシー・レース』のトッププレイヤーでもある。大鳥に対してはレースにおいて自身のファンを取られた事を好ましく思ってない反面、戦いの時はしばしば暴走する彼に突っ込みや助言をするなどしている。昔、自身の親友や恋人が無残な死に方をした経験から、組織に猜疑心を持っており復讐の機会を狙っている。




大鳥 カケル


もう一人の主人公。長身で中世的な顔立ちをしている美青年のジェネシス。子供の頃、エンジニアである大鳥レイジの影響からメカや自動人形《オートマドール》に精通しており、各個体の性質や能力に詳しく戦い方も心得ている。時折、無鉄砲で命知らずな行動に出ることもあるが、それは被害を最小限に抑えるという自身の配慮でもある。普段は他人に柔和で時折笑顔を振りまいているが、それは本来の性格ではない。本来は冷静沈着であり、女嫌いな一面を持つ。人間《ノーマル》である母親とジェネシスである父親のハーフというイレギュラーな存在である。ハーフで実の両親の記憶も無く、子供の頃は時折疎外感を感じていた。組織に仲間や養父を虐殺された経験から、彼もまた復讐の機会を狙っている。

日比谷 ミライ


本作の最重要人物。オッドアイで左利き。右目が淡い緑色をしているが、普段はカラーコンタクトをしている。左頬に星形の痣がある。物静かで穏やかな性格をしており、丁寧口調で話す。とある重大な事件による過度なストレスにより、記憶の殆どを失っているジェネシス。実は大鳥からマークされている最重要人物であり、戦闘能力も桁違いである。

細身だが、身体能力は並みの人間を凌駕しており古めのvxなら一人で楽々倒すスキルを有している。本来の性格は冷徹で同胞や人の命に関心がなく、場合によっては平気で切り捨てるらしい。

大鳥 レイジ


カケルの養父であるジェネシス。身長193センチの長身で右ほほに大きな十字型の傷がある。非常に優秀なエンジニアであり、カケルにロボット工学のノウハウを授けた。かつては組織におけるナンバー2のポジションであった。自動人形《オートマドール》の開発や管理をしていたが仲間の陰謀により失脚し、自身の制作したvxに殺害されてしまった。

青木博士


穏やかで中年太りの大男である発明家。カケルの義手のメンテナンスをしている。マッドサイエンティストであり、研究に爆発や異臭を伴いしばしばご近所トラブルを起こしている。また、カケルが心を許す数少ない友人である。かつては組織に属していたが離反し、現在命を狙われている立場にある。組織内の情報や自動人形《オートマドール》に詳しく、また秘密の経路でしばしばカケルに情報を流している協力者でもある。

リゲル・ロード


大鳥レイジとウリ二つの顔をした、謎の美青年。身体全体を液体の様に自由自在に変形する能力を有している。常に無表情で冷淡な性格をしている。何らかの理由で日比谷の命を狙っている。かつてはジェネシスであったが、とある事件で化け物《ビースト》化してしまった-。

   何故かカケルに執着している。

シリウス・ベクター


組織の幹部。長身の優男。幼少期のカケルとは顔見知りであり、彼の両親を知る唯一の人物。大鳥レイジの死の真相も熟知している。また、リゲルに日比谷を捕らえる様に指示した。何かを企んでおり、日比谷の記憶が戻るのを心待ちにしている。

戦闘能力は未知数。謎のスキルがあるらしく、彼に攻撃しようにも弾きかえされてしまい、倍以上のダメージを喰らってしまう。

カケルや彼の両親についての秘密をにぎっている。

    彼の正体は並行世界の住人で、元は孤独で不器用な好青年だった。しかし、そちら側の日々谷をマシンに殺されてから、歪んだ性格になってしまった。やがて世界を憎み破滅へ導くようになる。

ヒューゴ.ブル


イギリス風の男。女好きで軽快な性格をしている。自身でラッパーを名乗っており、レース時は大音量で鳴らして走っている。大鳥が台頭する迄は、常に3位をキープしていた。ロック派のキースとはウマが合わなく、しばしば喧嘩をしている。

また、ことごとくトラブルに見舞われる体質の持ち主である。真っ先に日比谷やシリウス、リゲル等に遭遇したり、最新のVXに追われれる等している。

トリスタン. ボロン


フランス風の男。クールで毒舌家。タレ目で癖毛が特徴的である。落ち着いた静かな曲を好み、キースやヒューゴを煙たがっている。眠たそうな顔をしており、暇さえあればいつも昼寝をしている。レースでは大鳥が台頭するまでは、キースに次いで常に二位をキープしていた。

    かつては組織に属していたエンジニアであり、情報通でもある。

   組織やマシンに対し、激しい憎悪があり、時にはもて遊ぶ残酷な一面も持ち合わせている。

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