第11話    邂逅のデスレース④

文字数 2,322文字

カケルはファルコンを止め、再度バックミラーを確認した。
『…カケル君、逃げるんだ!!!』
「もう少しなんだ…もう少しで、奴のシリアルナンバーが、つかめるー。」

すると、頭部だけになった彼の身体は、爆破解体ビルの逆再生を見ているかのようにたちまち元の形状に戻ったのだった。

「何故だー?やはりコイツは…。」

『ワシの仮説だが、コヤツの一番の特徴は完全再生能力なんだよ…。どんなに壊されても即再生してしまう。一番の手段は逃げることー。だから、このクレイモアも一時凌ぎにしかならないんだ。今の私の力だと、これで精一杯なんだよ…。どうしてもコヤツの仕留めかたが分からないんだ。あぁ、だから、お前に奴と会わせたくなかったんだ…。』

「博士は自分を責めなくていい。俺には他に目的があるんだ。」

カケルは再びファルコンを走らせた。バックミラーには、リゲルが磁石のようにピタリとついてきているのが、見えた。

『カケル君、もう後はないぞ。この剣は持って後10以内に砕けてしまうー。』
「分かってるさ、そんな事ー。俺には勝てないって事もね…。」
カケルは何処か遠い空を眺める目をし、軽く溜息をついた。
「何をブツブツ話してるんだ?」
リゲルがギラギラした眼でカケルを見ている。
カケルは再びクレイモアで、リゲルの頭部を狙った。
リゲルは間合いを詰めるとカケルを乗せたファルコンは派手に転倒した。カケルは痛みに耐え、ファルコンからバックミラーを抜き取ると後方を確認する。リゲルは背中から巨大な黒い鎖鎌を出してきたのだ。鎖鎌は雷電の如くカケル目掛けて突撃してくるー。カケルは博士が言っていたのを思い出した。リゲルは攻撃の時は眼の色は通常に戻るのだ。カケルは、後ろを向くとクレイモアで応酬したのだ。すると、クレイモアからとてつもなく重く鈍い衝撃が伝わってきた。重いブラックホールの様な黒い渦が容赦なくカケルを包み込んだ。カケルは歯を食いしばり右腕に全身全霊を込めた。鎌は猛獣であるかのように重く跳ね返り、カケルの急所を狙ってきたのだ。カケルは兎の様な身のこなしで高跳びし、鎌を避けると自身の右腕に鎖を絡ませた。そしてスキルを発動し、鎖に大量の電磁波を流し込んだのだ。鎖は獰猛な大蛇の様に激しくうねり、鎌は再びカケルを直撃してきた。カケルは左足に電磁波をかき集めると、巨人のような力で蹴り飛ばした。カケルは、右腕と左足にとてつもなく強い痛みを覚えた。猛獣に噛みつかれた様な麻痺しそうな感覚を覚えた。
「もしや仕掛けたな…」
リゲルはたちまちとてつもなく大量の電磁波に包まれ、その電磁波は半径10メートル程の渦を巻いたのだ。リゲルの動きは鈍くなってきている。カケルはその隙隙に高跳びし鎌に飛び乗った。そしてリゲルの頭部目掛けてダイブしたのだった。
「貴様、その右腕は…」
リゲルは瞳孔を大きく開くと、唖然とした。
カケルはリゲルの頭部にに飛び乗ると左足でルの頭を叩きつけた。そしてクレイモアで、リゲルのおでこを突き刺し、そこからシリアルカードを抜きとった。
「お前、始めからそのつもりだったのかー?」
リゲルのセリフは次第にスローモーションになっていき、動きが完全に停止したのだった。
「あと、もう4つ…」
カケルはゼェゼェ荒い息をしながら、リゲルの胸部を突き刺そうとした。

しかし、その時だった。再びとてつもなく強い電磁波が流れ込んだかと思うと、カケルは30メートル後方に吹き飛ばされたのだった。

「フゥ~、間に合ったか…」

「な…、何だ君は…?」
そこにはファルコンに乗ったキースがいたのだった。
「邪魔しないでくれ!あと、もう少しで…」
電流はリゲルを完全に遮断し、彼の姿は見えなくなった。
「お前、馬鹿か!?もう少しで泥になっていたんだぞ…」
「どういう事なんだ!?」
『 カケル君、すまない…。』
「博士、キースを呼んだのか!?」
カケルはファルコンに乗ると、キースと共に博士の待つ展望台迄向かった。
「奴の体内からチップを抜き取ったぞ。」
「やったのか…?」
「もうちょっとで、残り4つ取り出せたんだが…。」
「カケル君、もう分かったろう。奴は格が違うんだ。大鳥レイジと同じ遺伝情報を持ったクローンだ。もしあの時、キース君が割って来ないと、君はあの時、泥になるかサイボーグ化していただろう。」
「それは覚悟の上だ。」
「リゲル・ロードは、大鳥レイジと同じクローンなんだ。実は、彼とレイジも君の父親から遺伝子を抜き取ったんだよ。」
「なんだって!」
カケルは目を皿の様に円く開き博士に詰め寄ってきた。
「何で黙っていたんだ…」
「言ったところでなにも変わらないのだよ…」
「だから、何で黙っていたんだよ!?」
「大鳥、落ち着け。」
「もう一人、同じクローンがいてね…。奴は今はパンドラ側の立場にいるんだが、味方側につくかどうか…。コヤツもとっくの昔から、化け物《ビースト》化してしまってるんだよ。」
「…組織の奴の事は、どうでもいい。それより俺の父は、何者だったんだ?」
「ヒーローだったよ。化け物なんかじゃない。」
カケルは眼を驚いた猫のように丸く開いた。
「ただ…強大すぎたんだ。その強大な力
は五次元の扉《ネオ・ホライゾン》をも開けてしまうと言われていたんだ。だから、組織の驚異となったんだ。レイジもその理由で殺されたんだよ。」
博士は枯れ草の様に項垂れ、遠くを見つめていた。カケルはその焦操しきった姿から、博士は明らかに何かを隠しているのではないかと悟ったのだった。
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登場人物紹介

キース・バークマン


主人公。アイルランド系のアメリカ人であり、角刈りで長身瘦躯の男。ワイルドな性格をしており酒癖と女癖が悪い。しかし、幼少の頃からジェネシスとしての過酷な訓練を受けており、武器の扱いに長け身体能力がが同胞の中でも遥かに高い。また、最高時速600キロを誇る、世界一危険で過酷なレース『ギャラクシー・レース』のトッププレイヤーでもある。大鳥に対してはレースにおいて自身のファンを取られた事を好ましく思ってない反面、戦いの時はしばしば暴走する彼に突っ込みや助言をするなどしている。昔、自身の親友や恋人が無残な死に方をした経験から、組織に猜疑心を持っており復讐の機会を狙っている。




大鳥 カケル


もう一人の主人公。長身で中世的な顔立ちをしている美青年のジェネシス。子供の頃、エンジニアである大鳥レイジの影響からメカや自動人形《オートマドール》に精通しており、各個体の性質や能力に詳しく戦い方も心得ている。時折、無鉄砲で命知らずな行動に出ることもあるが、それは被害を最小限に抑えるという自身の配慮でもある。普段は他人に柔和で時折笑顔を振りまいているが、それは本来の性格ではない。本来は冷静沈着であり、女嫌いな一面を持つ。人間《ノーマル》である母親とジェネシスである父親のハーフというイレギュラーな存在である。ハーフで実の両親の記憶も無く、子供の頃は時折疎外感を感じていた。組織に仲間や養父を虐殺された経験から、彼もまた復讐の機会を狙っている。

日比谷 ミライ


本作の最重要人物。オッドアイで左利き。右目が淡い緑色をしているが、普段はカラーコンタクトをしている。左頬に星形の痣がある。物静かで穏やかな性格をしており、丁寧口調で話す。とある重大な事件による過度なストレスにより、記憶の殆どを失っているジェネシス。実は大鳥からマークされている最重要人物であり、戦闘能力も桁違いである。

細身だが、身体能力は並みの人間を凌駕しており古めのvxなら一人で楽々倒すスキルを有している。本来の性格は冷徹で同胞や人の命に関心がなく、場合によっては平気で切り捨てるらしい。

大鳥 レイジ


カケルの養父であるジェネシス。身長193センチの長身で右ほほに大きな十字型の傷がある。非常に優秀なエンジニアであり、カケルにロボット工学のノウハウを授けた。かつては組織におけるナンバー2のポジションであった。自動人形《オートマドール》の開発や管理をしていたが仲間の陰謀により失脚し、自身の制作したvxに殺害されてしまった。

青木博士


穏やかで中年太りの大男である発明家。カケルの義手のメンテナンスをしている。マッドサイエンティストであり、研究に爆発や異臭を伴いしばしばご近所トラブルを起こしている。また、カケルが心を許す数少ない友人である。かつては組織に属していたが離反し、現在命を狙われている立場にある。組織内の情報や自動人形《オートマドール》に詳しく、また秘密の経路でしばしばカケルに情報を流している協力者でもある。

リゲル・ロード


大鳥レイジとウリ二つの顔をした、謎の美青年。身体全体を液体の様に自由自在に変形する能力を有している。常に無表情で冷淡な性格をしている。何らかの理由で日比谷の命を狙っている。かつてはジェネシスであったが、とある事件で化け物《ビースト》化してしまった-。

   何故かカケルに執着している。

シリウス・ベクター


組織の幹部。長身の優男。幼少期のカケルとは顔見知りであり、彼の両親を知る唯一の人物。大鳥レイジの死の真相も熟知している。また、リゲルに日比谷を捕らえる様に指示した。何かを企んでおり、日比谷の記憶が戻るのを心待ちにしている。

戦闘能力は未知数。謎のスキルがあるらしく、彼に攻撃しようにも弾きかえされてしまい、倍以上のダメージを喰らってしまう。

カケルや彼の両親についての秘密をにぎっている。

    彼の正体は並行世界の住人で、元は孤独で不器用な好青年だった。しかし、そちら側の日々谷をマシンに殺されてから、歪んだ性格になってしまった。やがて世界を憎み破滅へ導くようになる。

ヒューゴ.ブル


イギリス風の男。女好きで軽快な性格をしている。自身でラッパーを名乗っており、レース時は大音量で鳴らして走っている。大鳥が台頭する迄は、常に3位をキープしていた。ロック派のキースとはウマが合わなく、しばしば喧嘩をしている。

また、ことごとくトラブルに見舞われる体質の持ち主である。真っ先に日比谷やシリウス、リゲル等に遭遇したり、最新のVXに追われれる等している。

トリスタン. ボロン


フランス風の男。クールで毒舌家。タレ目で癖毛が特徴的である。落ち着いた静かな曲を好み、キースやヒューゴを煙たがっている。眠たそうな顔をしており、暇さえあればいつも昼寝をしている。レースでは大鳥が台頭するまでは、キースに次いで常に二位をキープしていた。

    かつては組織に属していたエンジニアであり、情報通でもある。

   組織やマシンに対し、激しい憎悪があり、時にはもて遊ぶ残酷な一面も持ち合わせている。

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