第15話 デス ホライズン③

文字数 4,054文字



辺り一面、まるで打ち上げロケットにいるのように、突然地面の瓦礫が宙に浮き上がり、側面の瓦礫も魔法の力に引っ張られた。252はその瓦礫をボールのように一纏めにし、トリスタン目掛けて投げつけた。ヒューゴは再びバズーカの引き金をひいたが、魔法の力で彼は遥か後方へ吹き飛ばされた。
トリスタンは、252の投げた塊をサッカーボールを蹴りあげる勢いで、252に打ち付けた。しかし、塊は252の手前で鞠の様に跳ね返った。塊は再びトリスタン目掛けて飛んでくる。
しかし、塊はドライアイスの様に固まった。そして、巨大な岩が落下し鼓膜を破るような音を立て、地面に落下した。
「すまない。力の加減はもう不可能だ。」
トリスタンの全身から冷気を帯び、まるで彼の身体も全身白くドライアイスの様に変化したのだ。
「貴様・・・。 アルカナの人間かー。」
252は魔物を見たかのような唖然としてそのまま不思議な力で、動けないでいた。
「今更気づいたのかい?」
トリスタンは銀色の眼で252を睨んでいた。彼の表情は獣の様な冷たい怒りで一杯だった。それを見たヒューゴはゾッとした。
 するとトリスタンは全身に冷気の渦を纏うと、252目掛けて刀よりキレのよいパンチを浴びせたのだった。冷気の渦に包まれた252は、動きを停止させ、全身にひびが入り、そして塵と化した。

「トリスタン…お前、ホントにAランクなのか?」
ヒューゴは手すりにへばりつきながら、恐る恐る尋ねた。

調

しているだけさ。」
「え、力を押さえてると言うことかー?」
「ああ。

たくてね。」
「だったら、一発で仕留めようぜ?そういうリズムの悪い攻撃は嫌いなんだよ。」
ヒューゴはやつれ顔で頭をかくと、バズーカを右ポケットに収めた。
「実は『化け物』《ビースト》の正体はS級のジェネシスだ。」
トリスタンはヒューゴを無視すると、淡々と話し始めた。
「人とマシンだろ?しかも殆どS級の人に出会ったことなんかないぜ。そんなにヤバいのか?奴らはー」
「ヤバいと言う以上のレベルだよ。S級の者は中には善良な者もいるが、戦闘能力が俺達A級の1.5倍以上ある。彼等との間にトラブルがあったら、真っ先に逃げろ。命の保証は出来ない。中でも注意すべきなのがー。」

「注意すべきなのが?」

「リゲル.ロード、ポルックス.ビーン、B・B、サイモン. ベイカー、シリウス.ベクター、日比谷ミライだ。」

「ーで、これが各個人のシリアルナンバーだ。S級の者たちは、それぞれの身体にSから始まるシリアルナンバーを模したタトゥーを刻んでいる。因みに日比谷以外、全員アストロンから来た奴らだ。」
トリスタンは各個人のシリアルナンバーを控えた紙を手渡した。
ーどうもピンとこねぇんだよなぁ、ー
ヒューゴは、溜め息をつくと、そのまま胸ポケットにしまった。
「おい、大鳥達を助けに行かなくていいのかー?」
「俺は、空間にウィルスを仕込んできた。アストロンから来た者 は、ここで戦えば戦う程、疲労が蓄積して行くだけさ。今頃、シリウスは蛙の様にへばってるんじゃないのかな。後は、大鳥と博士次第だ。」
「見殺しかよ?」
「俺達は同胞であって、仲間ではない。各個人の信念や基本倫理も違うんだ。無駄に手を出すと火傷してしまう。まあ、彼等は今頃、大丈夫だろう。」
「要は信じろって事だろ…なあ、シリウスの目的は何なんだ。」
ヒューゴは釈然としない風に眉をしかめている。
「彼の真の目的は、こちらの日々谷ミライを使って、向こう側《アストロン》の日々谷ミライの意識を蘇えらせる事さ。」

「出きるのか・・・?そんな事ー。」



研究室では、カケルがゼェゼェ息絶え絶えに壁にもたれかかっていた。
どうもおかしいー。シリウスは明らかに手加減をしている。強烈な蹴りを入れたと思いきや、次に弱い蹴りを入れてくる。攻撃に強弱を入れている。インターバルをしていたのだった。しかも、カケルが攻撃をしかけると、予知していたかの様に見事にかわしてくる。しかも彼の弱点がつかめないどころかあらゆるバリエーションの攻撃を仕掛けてくるため、掴み所が無いのだ。

「どうした?殺すのか?殺さないのか?」

僕は君にそんなこと、一度も口にしてないけど…」
シリウス道化師のようにキョトンとし、首を傾げた。
シリウスはビクリと動きを止めると、突然、動きが鈍くなった。彼はゼェゼェ重苦しそうに
「しまった…」

「シリウス、どうした?さっきから変だぞ。」
カケルは床にへばりついたまま、シリウスを睨み付けている。
「してやられたよー。まさか、刺客が出てきたとは、僕も侮れないなぁ。」
シリウスは臆する事なく、わざとらしく感心していたのだった。
「今日はここでお開きにするよ。もっと遊んでいたかったんだけど、時間がなくてね。」
シリウスは右ポケットから懐中時計を確認すると、口元を緩めた。
「その時間とやらは何なんだ?お前の正体はもうとっくに知ってんだぞ。5年前に何があったー?向こうの日々谷はお前にとってかけがえのない存在だったかもしれないが、お前がいくら足掻いてもアイツはもう生き返らないぜ。ここにいる日々谷とは全くの他人なんだ。」
「カケル君、もしやー!?」
博士は顔から滝のように汗が吹き出ている。
「やめるんだ!彼の神経を逆撫でしては…ここでは危険だ!五次元の扉《ネオ・ホライズン》が打ち砕かれるぞ!」
博士は戦慄し、シリウスの方を向いた。しかし、シリウスは顔色ひとつ変えずに飄々としていた。
「いや~、面白いね!」
シリウスは済ました顔をしている。
「何処で入手した情報だか知らないが、まあ、概ねあたりだよ。でも、君が僕の事を知ってしまった所で何にも変わる事はないのさ。まあ、仲間になりたいなら、何時でも大歓迎だよ。その時は盛大に乾杯しようじゃないか。」
色白の美青年は、悪びれる事なく涼しげな表情を浮かべている。
すると、眼前に目映い光の塊が出現しカケルと博士は目を塞いだ。
「待っていたぞ。ポルックス。ミライ、来るんだ。」
光の中から男が姿を現した。ポルックスと呼ばれた男は右手を拡げると、光の塊が風呂敷の様に拡がりシリウスを呑み込んだ。日々谷は糸に操られているかの様にダッシュでシリウスの方へ向かった。カケルは再び日々谷を取り押さえようとするが、日々谷はそれを軽々とふりぼどき、光の中へ飛び込んだ。シリウスは日々谷を引き連れ2人に微笑みかけると、光の塊は小さくなり消えたのだった。
「乾杯だと?糞野郎が…」
カケルはかすれた声を振り絞り、拳を岩石の様に丸め床に叩きつけたのだった。


それはどこか遠い遠い星の話である。とある星のある国の廃墟で、1人の青年が倒れていた。梅雨時特有の一切の風を感じさせない豪雨は、一直線に彼の背中を打ち続けていた。しかも、彼の眼前には全長3メートル程の巨大なVXが立ち塞がっていたのだ。彼は地べたの上で磁石のように這いつくばっていた。VXはのそのそ歩きながら、青年に釜を振りかざした。しかし、青年の身体は鉛のように動かない。巨大な魔物の前に、青年は死を覚悟した。

ーーーーーー!?

 青年は10秒程、頭を抱えていた。しかし、いっこうに斧が触れる感触がない。恐る恐る頭上を見上げると、VXは、動きを停止しているのだ。

 ふと、遠くの方からスケボーが走る音が聞こえてきた。音は徐々に大きくなり、霧の向こう側から少女が姿を現したのだった。少女は傘を射しながら器用にスケボーを乗りこなしていた。雨は次第に弱まり、小雨になった。
 歳は10代半ば位だろうかー。チェリーレッドのショートボブに、穴空きのダブダブのジーンズをはいていた。上は緋色のパーカーを着ていた。全体的にボーイッシュな格好をしていた。
「今終わるから、歯を食い縛るんだよー。」
少女は、青年の方へ歩み寄ると傘を手渡しリュックを下ろした。そして青年の傷口に手を当てると、傷口は不思議とみるみる消失していったのだ。
「な、何だ?何なんだ?お前は?」
青年は訳もわからぬまま、ただ呆然としていた。
「あたしー?あんたと同じ、ジェネシスだよ。」
「あー、何て事だ…。この私が少女ごときに助けられるなんて…。父に何て弁明を…。」
青年は苦虫を噛んだような顔をすると、両腕で頭を抱えていた。

「あんた、〖ありがとう〗が言えない訳?」
少女はムッとした顔で立ち上がると、そのままVXの方へ向かったのだ。
「何でこの私がお前風情にに感謝しなきゃいけないのか? しかも庶民ではないのか?」
「そんなの関係ないよ。」
少女は呆れ顔で溜め息つくと、何か呪文を唱えるようにブツブツ独り言を言っている。
「あー、ここは違うね。」
少女は腕組みしながら何か模索している。
「違うとは、何の事だ?」
「 それは秘密だよ。」
少女は青年に、何事もないかのような爽やかな笑顔を向けた。少女の眼は緋色に光っていた。
「君、名前は?」
「あたしは、ミライ、日々谷ミライだよ。あんたの名前は?」
「私の名は、シリウス・ベクターだ。」
「ヨロシクね。シリウス。」
少女は無邪気に微笑み、めざし帽を深々とかけ直した。
「もうそこまで来てるかな?」
すると少女の背後に体長5,6メートル程の巨大な龍が出現した。辺り1面に地獄の業火とも言える龍は炎を吐きちらし全てを覆い尽くす。周辺の金属はたちまち泥のように溶解していったのだ。シリウスと名乗った青年は泡を吹かせた様な顔をし、後退りをしていた。
 巨大な龍はVXを包み込みVXは動きを停止させ、そしてとてつもない爆風を纏い爆発したのだった。




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登場人物紹介

キース・バークマン


主人公。アイルランド系のアメリカ人であり、角刈りで長身瘦躯の男。ワイルドな性格をしており酒癖と女癖が悪い。しかし、幼少の頃からジェネシスとしての過酷な訓練を受けており、武器の扱いに長け身体能力がが同胞の中でも遥かに高い。また、最高時速600キロを誇る、世界一危険で過酷なレース『ギャラクシー・レース』のトッププレイヤーでもある。大鳥に対してはレースにおいて自身のファンを取られた事を好ましく思ってない反面、戦いの時はしばしば暴走する彼に突っ込みや助言をするなどしている。昔、自身の親友や恋人が無残な死に方をした経験から、組織に猜疑心を持っており復讐の機会を狙っている。




大鳥 カケル


もう一人の主人公。長身で中世的な顔立ちをしている美青年のジェネシス。子供の頃、エンジニアである大鳥レイジの影響からメカや自動人形《オートマドール》に精通しており、各個体の性質や能力に詳しく戦い方も心得ている。時折、無鉄砲で命知らずな行動に出ることもあるが、それは被害を最小限に抑えるという自身の配慮でもある。普段は他人に柔和で時折笑顔を振りまいているが、それは本来の性格ではない。本来は冷静沈着であり、女嫌いな一面を持つ。人間《ノーマル》である母親とジェネシスである父親のハーフというイレギュラーな存在である。ハーフで実の両親の記憶も無く、子供の頃は時折疎外感を感じていた。組織に仲間や養父を虐殺された経験から、彼もまた復讐の機会を狙っている。

日比谷 ミライ


本作の最重要人物。オッドアイで左利き。右目が淡い緑色をしているが、普段はカラーコンタクトをしている。左頬に星形の痣がある。物静かで穏やかな性格をしており、丁寧口調で話す。とある重大な事件による過度なストレスにより、記憶の殆どを失っているジェネシス。実は大鳥からマークされている最重要人物であり、戦闘能力も桁違いである。

細身だが、身体能力は並みの人間を凌駕しており古めのvxなら一人で楽々倒すスキルを有している。本来の性格は冷徹で同胞や人の命に関心がなく、場合によっては平気で切り捨てるらしい。

大鳥 レイジ


カケルの養父であるジェネシス。身長193センチの長身で右ほほに大きな十字型の傷がある。非常に優秀なエンジニアであり、カケルにロボット工学のノウハウを授けた。かつては組織におけるナンバー2のポジションであった。自動人形《オートマドール》の開発や管理をしていたが仲間の陰謀により失脚し、自身の制作したvxに殺害されてしまった。

青木博士


穏やかで中年太りの大男である発明家。カケルの義手のメンテナンスをしている。マッドサイエンティストであり、研究に爆発や異臭を伴いしばしばご近所トラブルを起こしている。また、カケルが心を許す数少ない友人である。かつては組織に属していたが離反し、現在命を狙われている立場にある。組織内の情報や自動人形《オートマドール》に詳しく、また秘密の経路でしばしばカケルに情報を流している協力者でもある。

リゲル・ロード


大鳥レイジとウリ二つの顔をした、謎の美青年。身体全体を液体の様に自由自在に変形する能力を有している。常に無表情で冷淡な性格をしている。何らかの理由で日比谷の命を狙っている。かつてはジェネシスであったが、とある事件で化け物《ビースト》化してしまった-。

   何故かカケルに執着している。

シリウス・ベクター


組織の幹部。長身の優男。幼少期のカケルとは顔見知りであり、彼の両親を知る唯一の人物。大鳥レイジの死の真相も熟知している。また、リゲルに日比谷を捕らえる様に指示した。何かを企んでおり、日比谷の記憶が戻るのを心待ちにしている。

戦闘能力は未知数。謎のスキルがあるらしく、彼に攻撃しようにも弾きかえされてしまい、倍以上のダメージを喰らってしまう。

カケルや彼の両親についての秘密をにぎっている。

    彼の正体は並行世界の住人で、元は孤独で不器用な好青年だった。しかし、そちら側の日々谷をマシンに殺されてから、歪んだ性格になってしまった。やがて世界を憎み破滅へ導くようになる。

ヒューゴ.ブル


イギリス風の男。女好きで軽快な性格をしている。自身でラッパーを名乗っており、レース時は大音量で鳴らして走っている。大鳥が台頭する迄は、常に3位をキープしていた。ロック派のキースとはウマが合わなく、しばしば喧嘩をしている。

また、ことごとくトラブルに見舞われる体質の持ち主である。真っ先に日比谷やシリウス、リゲル等に遭遇したり、最新のVXに追われれる等している。

トリスタン. ボロン


フランス風の男。クールで毒舌家。タレ目で癖毛が特徴的である。落ち着いた静かな曲を好み、キースやヒューゴを煙たがっている。眠たそうな顔をしており、暇さえあればいつも昼寝をしている。レースでは大鳥が台頭するまでは、キースに次いで常に二位をキープしていた。

    かつては組織に属していたエンジニアであり、情報通でもある。

   組織やマシンに対し、激しい憎悪があり、時にはもて遊ぶ残酷な一面も持ち合わせている。

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