第18話 SKY PANTHER ①
文字数 2,798文字
彼女はとても強く凛々しかった。彼女は全長2メートル程の鉈様な武器とバズーカを携え、分厚い鋼鉄のマシンの巨体を容易に粉砕していったのだった、彼女は熱を自在に操る念力の様な技も使っていた。
それから3年後ー。彼女は何かを言い放ち、カケルの額に手を当てた。火傷するくらい熱い手であった。
すると、カケルは彼女の顔や名前、大切な思い出も幻であったかのように跡形もなく忘れてしまっていたー。
広い研究室のロビーで博士はパソコンのモニターを眺めて検証していた。
「月宮は、日々谷未来を殺さない筈だよな?」
カケルは全身かなり重症であった。所どころに打撲痕が目立っており、彼はギブスを嵌め松葉杖をついていた。
「ああー。今の段階では大丈夫だ。彼女は彼にとっての器だからな…。充分に時間はあるだろうー。」
「日々谷未来の記憶が蘇ったら、かなりまずいのか?」
「ああ…多分そうだろうな…。今から8年ほど前にもう1人の日々谷未来は、亡くなったー。と、同時にこちらの日々谷未来は記憶を亡くしてしまったー。今の彼女は本来の6割程度の戦闘能力しか有してない。月宮の狙いは彼女の記憶を蘇らせ、そのタイミングで亡くなったもう1人の日比谷未来の意識を転移させる事だー。」
博士は忙しそうにしきりにモニターを眺め汗だくになりながら、マウスをカチカチ鳴らしている。
「亡くなったもう1人の日々谷の意識は何処にあるんだー?」
「詳しい場所は定かではないー。多分、月宮は特殊な装置なんかで、彼女の意識を眠らせてるんだろうな。」
「それじゃあ、他人の身体を使わなくても、いつでも蘇らせるはずだぞ。」
「それが、膨大なエネルギーを要するんだー。しかも、生前強かった者ほどなー。それにアレは開発中の装置で、使い方を誤るとまずい事になるんだよー。それに月宮にとって、こちらの日々谷は今の弱いままだとリスクがデカい。彼女の身体が耐えきれなくて爆発してしまうだろう。だから、記憶を蘇らせ亡くなったもう1人の日々谷と同じ能力値に戻す必要があるんだ。」
博士は席を外し象の様に重たい足取りでノソノソキッチンに向かい、お湯をティーポットについだ。そしてカケルの向かい側に座ると紅茶をティーカップについだ。
「博士、何か隠してないかー?」
カケルは彼の顔を覗き込んだ。
「いいや。何にも。」
博士はハンドタオルを首にかけ、時折額を拭っている。
「まあ、いいさ。しかし、それで辻褄が合うぞ。元々、亡くなった日々谷のオーラが彼より強かったらしいな。だから彼女の意識が戻った時、自身に対するエネルギーの被害を最小限に押さえる為に彼は自らマシンになる道を選んだのかー。」
カケルは紅茶を啜ると、身を乗り出し頬杖をついた。
「それもあるが、もう1つ野望があるんだよー。」
「それは、大量のVXを使ってガイアを制服する事だろ…?」
「いいや…、それより最も深い理由さー。世界を改変させる位のなー。」
何か怪しいー。明らかに博士は何かを隠しているー。博士は地獄の底でも見るかの様な険しい顔つきになっていたー。
そんな
「ご主人様…私共は、もう持ちません。身体が、もたな…い…」
四体のマシンはグラグラカタカタ揺れている。
「ふん。情けない。」
「…ご、ご主人様、それはー!?」
クラーケンはザリガニの様な手を軽く突き出すと、辺りにグラグラと地響きが起こった。4体は何か岩の下敷きになった風に重苦しそうに地面に這いつくばった。すると彼等は缶詰の缶の様にいとも簡単に凹み潰された。
「貴様らは、用済みだ。」
クラーケンの周囲は螺やモーター等の残骸が散乱しているのだった。
すると、遠くの建物から短髪でパンクファッションの男が、猛スピードでファルコンに乗ってやって来た。ファルコンはレーンから1番近くの建物までダイブすると、そこからクラーケンのいる屋上まで30メートル軽々とダイブした。そして、クラーケンの横に着地した。
「どうだ?うまくいったか?」
「まずまずですねー。なんつうか、さ。」
来栖と瓜二つの男は、黒ジャンのポケットから、煙草とライターを取り出し、煙をふかせた。
「閣下、こんな『ガイア』なんかに居て、何が楽しいのですか?何にも栄えてませんよ。こんなちんけな所ー。」
「いいさ。いずれはアストロンとガイアの融合が、始まるだろうー。軍の進行はどうだ?」
「結構、順調ですよ。」
黒ジャンの男は気だるげにメットを外すと、ファルコンを脇に停めた。
「さてとー。月宮柊ニの動きはどうだ?」
閣下と呼ばれたそのマシンは微動だにせず、遠くを睨みつけている。
「先ほど、日比谷ミライを装置に入れた模様ですよ。」
「『 ソロモンの箱』にかー?」
「ええ、そうです。でも、難しいんじゃないかな?亡くなった彼女は生き返りませんよ。彼女の脳は殆んど粉々になったみたいじゃないですか。しかも、何せ、アルカナの娘ですからね…」
「ふん。笑わせるわ。」
「でも…しかし、亡くなった人を生き返らせたいだなんて、滑稽ですよ。黒魔術か何かですかね。」
「奴の考えて居ることは容易に予想がつくわ。」
「人は皆、誰かに執着し過ぎなんですよ。死んだらそれで終わり。バイナラさ。だからさ、死者を蘇らせるなんて非合理的過ぎますねー。夢物語ですよ。」
「それが、いけないのだ。執着は全てを駄目にするのだ。数多くの馬鹿共も、執着に溺れて腐敗してしまった。形無い物には何の価値も無いのだよ。」
「でも、俺達だって、元は人だったじゃないですか。閣下は、常に冷静だったって言うんですか?」
「ふっ…、そんな遠い昔の話は、記憶に無いわ。」
閣下は鉤爪をカチカチ鳴らし、遠くの景色を眺めているー。
「あの大鳥カケルって奴、貴方の正体知ったらビックリするでしょうね…。」
ヒューゴとそっくりなその男は、ヘッドホンをはめると陽気にラップを口ずさんだのだった。