第13話  デス・ホライズン  ①

文字数 5,214文字

 それは、水色の空が徐々にオレンジ色に染まっていく時刻であった。
「全く、何でこの俺があの、僕チャンなんかのおもり

をしなきゃなんねぇのさ。」
とある街の一角のレトロ風のスナックでキースはビールを片手にすっかり出来上がっていたのだ。まだ店は開店したばかりであり、客もキースを含め2人だけであった。
「あら、キースちゃんそういう頼もしいトコロが好きなのよ。あの時だって、そうやって私を助けてくれたじゃない?」
カウンター越しに女は頬杖をしながら、キースの葉巻に火をつける。
「あの時はあの時だ。この前はな、俺は死ぬとこだぜ?あの博士に頼まれた時、片道地獄行きの切符渡されたかと思ったんだよ。」
キースは葉巻をふかしながら、5杯目のジョッキを飲み干した。ピッチャーはすっかり空になっていた。
「あの大鳥って子、凄いんでしょ?超有名みたいよ。」
女は黄色い声でカウンターに身を乗り出している。相当カケルを気に入っているようだ。
「いや、アレはダメだな。まず、身体がなってない。へなちょこだ。その上、精神が未熟なお子ちゃまだ。」
「ねぇ、今度連れて来てよ。あの子。」
女の目は、子供の様にキラキラ輝いている。
「駄目だ、駄目だ。アイツは生粋の女嫌いなんだ。表面は繕ってるが、指一本触れられただけで、軽くキレるんだよ。ホント、質が悪いぜ‥‥。」
キースは軽く溜息をしながら、しきりに髪を掻きむしる。
「私、そういう男にそそられるのよ。て言うか、今日はどうするの?仕事は?」
「いいや、俺には俺のペースってもんがあるの。それより、今日、泊めてくれる?」

すると、キースの背後でカチンと球が当たる音がした。自動人形が流れるような器用な手付きでビリヤードの玉を打っていた。玉はカチンと音を立て静かに穴に落ちていった。
キースは、彼の首筋にあるシリアルナンバーを見ると、慌ててバズーカを構えた。
「やばいぞ!セイラ、お前、裏口から逃げろ!!!」
女は軽く頷くと、子鹿のように萎縮し裏口から逃げた。
ーまさか、俺をついてきたー?ー
優男はチラチラとキースを眺めていた。
ー恐らく…、コイツは組織の末端でシリウスの部下だ。しかし、気配は感じなかったぞ‥‥?ー
すると、優男はビリヤードのキューを構えたまま、キース目掛けて高速移動した。キースは素早い反射神経で優男の右腕を掴むと、そのまま綺麗な円を描き背負い投げをしたのだった。
「やあ、御機嫌よう。何処から俺をつけてきた?」
キースはそのまま優男の頭を床に叩きつけ、バズーカをつきつけた。
「おやおや。これはこれは、キース様じゃ有りませんか?。」
男は表情一つも変えず飄々と首を傾げた。
「しかしながら、君には届きませんよ?」
「試してみるかい?」
キースは眉間にシワを寄せ、バズーカの引き金を引いた。
爆弾の弾けるような音と共に辺りに粉塵が部屋全体を覆い尽くし、焦げ臭い臭いが中を立ちこめた。
「やれやれ。下品極まりない戦闘形態。知性が微塵も感じられないー。」
優男の頭部は軽く穴が空いただけで、形状を保つていた。
「それより、日々谷ミライとサイモン・ベイカーは今、何してる?」
「日々谷、サイモン・・・ですかー?」
「知ってんだろ?お前は、パンドラの手下だもんな?」
キースの押さえる力は益々強くなり、腕は1.5倍ほどに膨れ上がった。
「さぁー、どうなんでしょう。私でもなかなか会えないんですよ。何せ、組織は機密事項が多いものでー。」
優男は軽く頭を傾げると押さえつけられた状態で、海老反の体勢で軽々と起き上がった。
ー何と言う力だー。
キースの押さえつける右腕は、まるで子供の力の様に非力であった。
優男は素早い身のこなしで攻撃をかわし、壁と天井をピョンピョン飛び回る。
「全く・・・。すばしっこい兎チャンだぜ。。」
優男は跳ね返り、キースの頭部目掛けて蹴りを入れようとした。キースは思いっきり椅子を優男に投げつけた。重たい椅子は落雷の様な電流を浴びながら、丸でロケットが打ち明けられるかの勢いで、優男に直撃した。しかし優男は、蝿を払うかのように軽く払いのけた。キースの頭部に蹴りを入れようとした。キースはヒョウの様な素早い身のこなしで優男の脚を掴むと、軽々と投げつけた。優男はマネキンの様にそのまま軽く店の奥の奥まで軽く吹っ飛んだ。
「お前、あのキースか‥‥‥。怪力自慢でジェネシスの中でA級クラスの、…雷帝の」
「バーか、俺よりもっと強い奴らがお前の身近に二人居るだろ?でも知らんで、残念だよ。」
「お前…。」
優男はガタガタ震えながらも最後の力を振り絞り、キース目掛けてドロップキックを仕掛けてきた。
「おっと、残念。そこはデッドゾーンでした。」
キースは分厚い左腕で優男の足を受け止めると、そのまま右腕で優男の頭部をグーパンチで、叩きつけた。キースの腕は益々膨れ上がり、その周りを分厚い電流がメラメラと覆いつくしていた。
「お前、その力は…?」
「さあな。モーメントの揺れじゃねぇの?」
キースは益々、腕に力をこめた。電圧は益々強くなり、鋭い衝撃音と電流がたちまち店内に広がった。そして雷の様にチカチカ光りながら、爆音を上げそして爆発した。

優男は、そのまま動きを停止した。


 ちょうどその時刻、カケルはあの事件以来、サイモンに会うべくどうやって組織に潜り込もうか博士の自宅で、暗中模索していたのだった。
「何と言う事だ…。」
「どうしたんだ?」
「兎に角大変なんだ。あの時の生き残りを呼ばねば…。」
博士は今まで見たこともない形相で、真剣にモニターを睨み付けている。
「あの、一ヶ月ほど前にビックウェーブカップがあっただろうー。」
「あぁ、奴と日々谷がでたレースか?あの、糞忌々しい野郎が…。」
「そうなんだ。その者の能力を分析したんだが、なんと恐ろしい事が解ったんだよ!」
「日々谷を飲み込んだ事か?」
「それもあるが、このアスクレピオスでモーメントの激しい揺れを関知したんだ。80%の確率でこの街全体で大災厄が起きるぞ!」
アスクレピオスと呼ばれた装置は直径1メートル程の土星型の形状をした模型であり、そこから電磁波の流れを関知することが出来る。中でもVXから流れ出る電磁波は特徴的でかなり強い傾向にある。
 青木博士は、独自の方法で例の生き残りの2人を自宅の研究室に呼ぶことにした。

「わざわざ来ていただいてすみません、20分ほどお時間頂いても宜しいでしょうか?」
「お前、大鳥カケルか?」
トリスタンが頭をかきながら、まじまじとカケルはを凝視していた。
「はい。そうですけどー。それが何かー?」
カケルは真剣に装置のメーターを確認している。
「今回俺らが呼ばれたのは、例の事件の目撃者だからか?それとも他に何かあるのか?」
「ええ、今回は貴方達を守るために呼びました。」
「あ、大鳥カケルかー!最近ちょくちょく見るよなー。」
ヒューゴはお祭りにいってるかのように、陽気にラップを口ずさんでいた。
「おい、もっと音量下げてくれないか?」
トリスタンは苦いものでも口にしたかのように顔をしかめている!
「あ?漏れてないよな?音ー。」
ヒューゴはヘッドホンの音量を確認すると、カケルの方を向いた。
「えぇ、何も聞こえてませんがー?」
「はぁー、これだから嫌なんだ。俺の能力はー。」
トリスタンは軽く貧乏ゆすりをし、コーヒーをすすった。

「何て言うことだ!?」
奥の方から博士の悲愴感漂う声が漏れてきた。
「博士、どうした?」
「私の家のセキュリティは完全だぞ?しかし何故ー。」
「しかし、何故かー。」
奥の暗がりの方から低く透き通る声が聞こえてきた。奥から、長髪の美青年が姿を現したのだった。
「お前は、シリウス・ベクターだな?」
「大鳥、知ってるのか!?」
「先日はリゲルが御世話になったよ。」
「日々谷をどうしたんだ?」
「どうもこうもー。彼女は僕の可愛い可愛い人形さ。」
シリウスは、博士の方を向いた。
「やぁ、青木君。僕を覚えているかい?」
博士はお化けを見るような目で、小刻みに振るえていた。
「いやーあ、お久しぶり。オリンポスは相変わらず侘《わび》しいもんだね。」
「ー何故私の家なんかにー?」
「何故って、僕は君のこの素晴らしい宝に用があるんでね。」
シリウスは目の前にある、アスクレピオスに軽く手を触れた。装置は、強い静電気を起こした。
「これは、渡さんぞ!お前に使える代物じゃないんだー。ほんの少しでも使い方を誤れば、大惨事に……」
「ふぅーん、使えない

使

か…。」
シリウスは興味ありげに、博士の製作した無数の装置をまじまじと眺めて回った。
「でも、やっぱり僕はコレが一場番欲しいなー」
シリウスは微笑みながら、アスクレピオスを眺めていた。
その瞬間、青い電磁波がイリュージョンの如くシリウスの周囲を取り囲み、彼は動けなくなった。そしてすっぽりオシリスの泉に飲み込まれた。
「やれやれー」
シリウスは軽くため息をついた。
「君たち人はいつも同じことをするー。」
「2人とも、あっちのバリケードの中へー。」
カケルは2人を向こう側に促した。
「おい、ここは何なんだよ!?」
ヒューゴは戸惑っている。
「奴は元は俺と同じタイプのジェネシスだったんだよー。」
「え、でもコイツから何も感じないぞ!?
「それが奴の能力さー。奴は今、サイボーグだ。」
トリスタンは額から汗をかきながら、シリウスを睨みつけている。
「ー、え!?コイツはマシンなのかー!?
ヒューゴは何かを感じたかのように身震いをした。
「ミライ、やれ。」
ミライは、チーターの様なスピードで2人目掛けて突進してくる。
「2人とも早く逃げて!!!」
カケルは瞬時に二人を仕掛けの裏口に誘導すると、突進してくる日比谷を背負い投げした。日比谷は、15メーとる程軽く吹っ飛ぶと、バッタのように天井を跳ね、カケルにドロップキックを食らわした。カケルは日比谷をかわすと、10メートル程間合いをとった。

「やれやれ、時代が変わっても科学が進歩しても、君たち人の思考原理はいつも同じ。まるで発展途上だよ。」
天使のような美貌の男は悪魔の様にほくそえむ。
「ミライ、今は止めるんだ。楽しみは後に取っとかないとー。」
すると、再びドロップキックを再開しようとした日比谷の動きはピタリと停止した。と、同時に博士の身体は鉄の様に段々重くなっていった。
「成程。強い者には最強の攻撃を仕掛けるー。何と言うか、単純だね。」
どういうわけか、彼には攻撃が効かないのだ。まるで、イリュージョンにかかったみたいである。
「大鳥レイジは、勇猛果敢で聡明でエネルギッシュな存在だったよ。まるでヘラクレスだ。でもあのサソリ

に殺られてしまうなんて、滑稽だよー。」
「ならば、お前がレイジを越えることは不可能だと言うことを、この剣《つるぎ》で教えてやろうか?」
「カケル君、よすんだ!」
カケルは這いつくばる博士の制止を無視した。そしてシリウス目掛けてクレイモアを振るい、猛火の勢いで向かった。カケルのの端正な顔立ちは般若の形相になっていた。
 シリウスは薄ら笑いを浮かべながら、身動き一つしていない。不思議な透明のような分厚い気圧は、カケルをバスケットボールのように30メートル後方へ弾き返した。
「博士、知らないかい?ジェネシスは、強い者から順にS級からC級の、4つの階級にランク付けされるんだ。世界中のおよそ100万人ものジェネシスの内、大半がB級かC級だが、その内の10%がA級クラス、5%がS級に振り分けられるのだ。そしてここに居るカケルクンと逃げた2人はA級クラスだね。」
「知っていたさー。だから、こうしてー。」
博士は、しきりに自身の体を動かそうとした。しかし、身体は岩のように動かないー。
「そしてS級は、A級から下より異次元のパワーを有してんだ。」
シリウスはカケルに歩み寄ると、飄々と彼を蹴りつけた。猛烈な蹴りがカケルの肋骨を直撃した。カケルは、鉄パイプが突き刺さるような痛みで悶え苦しんだ。
「カケルクン、僕は元はS級のジェネシスなんだよ。最新のVXなんて屁でもないのさ。実はね、君の父親も大鳥レイジも元はS級だったんだよ。」
そしてシリウスは、息もつかぬ間に2発3発と、カケルに強烈な蹴りを食らわした。カケルは潰れた蛙ように這いつくばり、床にへたりこんだ。
「見てみたいと思わないかい?あの英雄《えいゆう》と呼ばれた男の息子が、A級からS級へ変貌する様をー。」
天使の様な悪魔は、大胆不敵に薄ら笑いを浮かべていたのだった。
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登場人物紹介

キース・バークマン


主人公。アイルランド系のアメリカ人であり、角刈りで長身瘦躯の男。ワイルドな性格をしており酒癖と女癖が悪い。しかし、幼少の頃からジェネシスとしての過酷な訓練を受けており、武器の扱いに長け身体能力がが同胞の中でも遥かに高い。また、最高時速600キロを誇る、世界一危険で過酷なレース『ギャラクシー・レース』のトッププレイヤーでもある。大鳥に対してはレースにおいて自身のファンを取られた事を好ましく思ってない反面、戦いの時はしばしば暴走する彼に突っ込みや助言をするなどしている。昔、自身の親友や恋人が無残な死に方をした経験から、組織に猜疑心を持っており復讐の機会を狙っている。




大鳥 カケル


もう一人の主人公。長身で中世的な顔立ちをしている美青年のジェネシス。子供の頃、エンジニアである大鳥レイジの影響からメカや自動人形《オートマドール》に精通しており、各個体の性質や能力に詳しく戦い方も心得ている。時折、無鉄砲で命知らずな行動に出ることもあるが、それは被害を最小限に抑えるという自身の配慮でもある。普段は他人に柔和で時折笑顔を振りまいているが、それは本来の性格ではない。本来は冷静沈着であり、女嫌いな一面を持つ。人間《ノーマル》である母親とジェネシスである父親のハーフというイレギュラーな存在である。ハーフで実の両親の記憶も無く、子供の頃は時折疎外感を感じていた。組織に仲間や養父を虐殺された経験から、彼もまた復讐の機会を狙っている。

日比谷 ミライ


本作の最重要人物。オッドアイで左利き。右目が淡い緑色をしているが、普段はカラーコンタクトをしている。左頬に星形の痣がある。物静かで穏やかな性格をしており、丁寧口調で話す。とある重大な事件による過度なストレスにより、記憶の殆どを失っているジェネシス。実は大鳥からマークされている最重要人物であり、戦闘能力も桁違いである。

細身だが、身体能力は並みの人間を凌駕しており古めのvxなら一人で楽々倒すスキルを有している。本来の性格は冷徹で同胞や人の命に関心がなく、場合によっては平気で切り捨てるらしい。

大鳥 レイジ


カケルの養父であるジェネシス。身長193センチの長身で右ほほに大きな十字型の傷がある。非常に優秀なエンジニアであり、カケルにロボット工学のノウハウを授けた。かつては組織におけるナンバー2のポジションであった。自動人形《オートマドール》の開発や管理をしていたが仲間の陰謀により失脚し、自身の制作したvxに殺害されてしまった。

青木博士


穏やかで中年太りの大男である発明家。カケルの義手のメンテナンスをしている。マッドサイエンティストであり、研究に爆発や異臭を伴いしばしばご近所トラブルを起こしている。また、カケルが心を許す数少ない友人である。かつては組織に属していたが離反し、現在命を狙われている立場にある。組織内の情報や自動人形《オートマドール》に詳しく、また秘密の経路でしばしばカケルに情報を流している協力者でもある。

リゲル・ロード


大鳥レイジとウリ二つの顔をした、謎の美青年。身体全体を液体の様に自由自在に変形する能力を有している。常に無表情で冷淡な性格をしている。何らかの理由で日比谷の命を狙っている。かつてはジェネシスであったが、とある事件で化け物《ビースト》化してしまった-。

   何故かカケルに執着している。

シリウス・ベクター


組織の幹部。長身の優男。幼少期のカケルとは顔見知りであり、彼の両親を知る唯一の人物。大鳥レイジの死の真相も熟知している。また、リゲルに日比谷を捕らえる様に指示した。何かを企んでおり、日比谷の記憶が戻るのを心待ちにしている。

戦闘能力は未知数。謎のスキルがあるらしく、彼に攻撃しようにも弾きかえされてしまい、倍以上のダメージを喰らってしまう。

カケルや彼の両親についての秘密をにぎっている。

    彼の正体は並行世界の住人で、元は孤独で不器用な好青年だった。しかし、そちら側の日々谷をマシンに殺されてから、歪んだ性格になってしまった。やがて世界を憎み破滅へ導くようになる。

ヒューゴ.ブル


イギリス風の男。女好きで軽快な性格をしている。自身でラッパーを名乗っており、レース時は大音量で鳴らして走っている。大鳥が台頭する迄は、常に3位をキープしていた。ロック派のキースとはウマが合わなく、しばしば喧嘩をしている。

また、ことごとくトラブルに見舞われる体質の持ち主である。真っ先に日比谷やシリウス、リゲル等に遭遇したり、最新のVXに追われれる等している。

トリスタン. ボロン


フランス風の男。クールで毒舌家。タレ目で癖毛が特徴的である。落ち着いた静かな曲を好み、キースやヒューゴを煙たがっている。眠たそうな顔をしており、暇さえあればいつも昼寝をしている。レースでは大鳥が台頭するまでは、キースに次いで常に二位をキープしていた。

    かつては組織に属していたエンジニアであり、情報通でもある。

   組織やマシンに対し、激しい憎悪があり、時にはもて遊ぶ残酷な一面も持ち合わせている。

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