第8話     邂逅のデスレース①

文字数 1,658文字

その日は気持ちの悪い目覚めだった。最近、不気味な夢ににうなされているのだ。フック船長の様な容姿に下半身はクラーケンの様な化け物ー。
「まあ、顔でも見せに行ってくるか…右腕も気になるし。」
病み上がりで軽く痛みも残っているが、取り立てて特に立て込んだ用事はなかったのだ。気晴らしに青木博士に会いたい気分でもあった。
「やぁ、元気にしていたかい?」
ドームの様な場違いな建物の玄関からホイップクリームのチューブを片手に持った中年男が、陽気に出迎えてきた。
「まあまあだな…。まぁ、実際博士の造った玩具で助かった訳だし。それにしても、お腹ますますマズイね…。トドみたいだ。」
「玩具、言うな。なかなか社会に貢献してるんだぞ。それに、最近ダイエットマシンを発明したばかりなんだよ。」
倉庫の様に広い空間の中央には、アンティークなソファーとテレビが置いてあった。それらを取り囲むかの様に摩訶不思議なマシンが不規則に眠っていた。青木博士は奥のキッチンに向かい、電気ケトルを止めた。2人分のコーヒーをテーブルに置き、自分の分に生クリームをソフトクリームの様にたっぷりかけて飲んだ。カケルは吐きそうな顔になり、コーヒーをブラックのまま飲み干した。
「コレが、例のダイエットマシンか?」
部屋のすみに巨大なアスレチックの様な機械がそびえていた。
「そうなんだよ。君に是非、コレをやってもらいたい。」
「なら、博士が先にやり方見せてよ。」
「なら、見せてやろうじゃないか!」
博士は子供の様にはしゃいで、巨大なブランコをこぎ始めた。

カケルは博士を尻目に、コーヒーを継ぎ足し、漠然とテレビを眺めた。
『では、最新のニュースです。先週行われたビックウェーブカップで発生しました、痛ましい事件の速報です。どうやら、レースに最新のVXが数体紛れ込んでいた模様です。行方不明者20名。生存者はフランスの選手とイギリスの選手の2名となっております。井田さん、今回はなぜ回収された筈のVXが紛れていたのでしょうか?』
「何だって…、。日比谷未来も行方不明なのか!?」
「あぁ、あの件か。痛ましいー。あ…、ちょっと止めてくれないか…。止まらんのだよ。」
博士を乗せた巨大な振り子の様なブランコは激しく振り続け360度回転した。博士はあわてふためき、ひたすら手すりにしがみついている。
「ちょっと、静かにしてくれないか?」
カケルは博士を他所に、食い入る様にテレビを眺めていた。
ー何だ、アレは。ー
何の変哲もないレース中の映像だが、状況が明らかにおかしいのだ。皆途中から消えているのだ。そして辺り一面に黒い霧が覆ったかと思うと、霧は人の形になり、スカルの様な化け物がそこに姿を現したのだった。
「リゲル・ロード!」
カケルは眼を皿のように円く開けた。

「カケル君!!!」
博士の巨体が勢いよく不規則に回転し、そのままカケルの上にダイブした。カケルは下敷きになり、ソファーごと仰向けに倒れた。
「やめてくれよー」
カケルは溜め息をつき、苦しそうに天井を眺めた。
「悪い。悪い。お詫びだが…、お前にどれか好きなマシンを…」
「ソレはいいんだ。その代わり、俺がコイツとレース出来るようにうまくやってくれないか?」
「あぁ、出来なくはないが…命の保証は出来ないぞ。あ、忘れてたぞ…。」
博士は重い腰を上げ、クローゼットの方に向かうと、ハンガーラックからインナースーツを取り出した。
「わしらの開発した試作品だ。流石にスーツやメットは全て指定したのじゃないと駄目みたいだが、このインナーならボディーチェックもすり抜けられる。」
カケルはスーツを受けとると、テレビをまじまじと眺めていた。
かつてレイジはメンテナンスに来たあの日、おぞましい三体の魔物の視線を感じ、真っ先にその場から去りたかったと、話していた。
「コイツは、レイジが言っていた例の魔物と何か繋がりがあるかも知れないー。」
カケルは眉間に深く皺を刻み込んだ。






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登場人物紹介

キース・バークマン


主人公。アイルランド系のアメリカ人であり、角刈りで長身瘦躯の男。ワイルドな性格をしており酒癖と女癖が悪い。しかし、幼少の頃からジェネシスとしての過酷な訓練を受けており、武器の扱いに長け身体能力がが同胞の中でも遥かに高い。また、最高時速600キロを誇る、世界一危険で過酷なレース『ギャラクシー・レース』のトッププレイヤーでもある。大鳥に対してはレースにおいて自身のファンを取られた事を好ましく思ってない反面、戦いの時はしばしば暴走する彼に突っ込みや助言をするなどしている。昔、自身の親友や恋人が無残な死に方をした経験から、組織に猜疑心を持っており復讐の機会を狙っている。




大鳥 カケル


もう一人の主人公。長身で中世的な顔立ちをしている美青年のジェネシス。子供の頃、エンジニアである大鳥レイジの影響からメカや自動人形《オートマドール》に精通しており、各個体の性質や能力に詳しく戦い方も心得ている。時折、無鉄砲で命知らずな行動に出ることもあるが、それは被害を最小限に抑えるという自身の配慮でもある。普段は他人に柔和で時折笑顔を振りまいているが、それは本来の性格ではない。本来は冷静沈着であり、女嫌いな一面を持つ。人間《ノーマル》である母親とジェネシスである父親のハーフというイレギュラーな存在である。ハーフで実の両親の記憶も無く、子供の頃は時折疎外感を感じていた。組織に仲間や養父を虐殺された経験から、彼もまた復讐の機会を狙っている。

日比谷 ミライ


本作の最重要人物。オッドアイで左利き。右目が淡い緑色をしているが、普段はカラーコンタクトをしている。左頬に星形の痣がある。物静かで穏やかな性格をしており、丁寧口調で話す。とある重大な事件による過度なストレスにより、記憶の殆どを失っているジェネシス。実は大鳥からマークされている最重要人物であり、戦闘能力も桁違いである。

細身だが、身体能力は並みの人間を凌駕しており古めのvxなら一人で楽々倒すスキルを有している。本来の性格は冷徹で同胞や人の命に関心がなく、場合によっては平気で切り捨てるらしい。

大鳥 レイジ


カケルの養父であるジェネシス。身長193センチの長身で右ほほに大きな十字型の傷がある。非常に優秀なエンジニアであり、カケルにロボット工学のノウハウを授けた。かつては組織におけるナンバー2のポジションであった。自動人形《オートマドール》の開発や管理をしていたが仲間の陰謀により失脚し、自身の制作したvxに殺害されてしまった。

青木博士


穏やかで中年太りの大男である発明家。カケルの義手のメンテナンスをしている。マッドサイエンティストであり、研究に爆発や異臭を伴いしばしばご近所トラブルを起こしている。また、カケルが心を許す数少ない友人である。かつては組織に属していたが離反し、現在命を狙われている立場にある。組織内の情報や自動人形《オートマドール》に詳しく、また秘密の経路でしばしばカケルに情報を流している協力者でもある。

リゲル・ロード


大鳥レイジとウリ二つの顔をした、謎の美青年。身体全体を液体の様に自由自在に変形する能力を有している。常に無表情で冷淡な性格をしている。何らかの理由で日比谷の命を狙っている。かつてはジェネシスであったが、とある事件で化け物《ビースト》化してしまった-。

   何故かカケルに執着している。

シリウス・ベクター


組織の幹部。長身の優男。幼少期のカケルとは顔見知りであり、彼の両親を知る唯一の人物。大鳥レイジの死の真相も熟知している。また、リゲルに日比谷を捕らえる様に指示した。何かを企んでおり、日比谷の記憶が戻るのを心待ちにしている。

戦闘能力は未知数。謎のスキルがあるらしく、彼に攻撃しようにも弾きかえされてしまい、倍以上のダメージを喰らってしまう。

カケルや彼の両親についての秘密をにぎっている。

    彼の正体は並行世界の住人で、元は孤独で不器用な好青年だった。しかし、そちら側の日々谷をマシンに殺されてから、歪んだ性格になってしまった。やがて世界を憎み破滅へ導くようになる。

ヒューゴ.ブル


イギリス風の男。女好きで軽快な性格をしている。自身でラッパーを名乗っており、レース時は大音量で鳴らして走っている。大鳥が台頭する迄は、常に3位をキープしていた。ロック派のキースとはウマが合わなく、しばしば喧嘩をしている。

また、ことごとくトラブルに見舞われる体質の持ち主である。真っ先に日比谷やシリウス、リゲル等に遭遇したり、最新のVXに追われれる等している。

トリスタン. ボロン


フランス風の男。クールで毒舌家。タレ目で癖毛が特徴的である。落ち着いた静かな曲を好み、キースやヒューゴを煙たがっている。眠たそうな顔をしており、暇さえあればいつも昼寝をしている。レースでは大鳥が台頭するまでは、キースに次いで常に二位をキープしていた。

    かつては組織に属していたエンジニアであり、情報通でもある。

   組織やマシンに対し、激しい憎悪があり、時にはもて遊ぶ残酷な一面も持ち合わせている。

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