第9話     邂逅のデスレース②

文字数 2,787文字

2週間後ー、カケルは競技場でリゲルと対峙することとなった。オリンポス競技場は、いつもより一層コロッセオの様な白熱した雰囲気に包まれていた。
「例の大会の生き残りがリゲルと接触ようにうまくやってくれたか?奴の目的は彼等の抹殺だぜ?」
「あぁ、勿論だとも。お前達だけ私の造った装置で違うルートに出るように手配した。」
「サンキュー。」
会場内からはフォンたちからの黄色い声援が大反響している。
「ほら、皆、久々に君の姿を拝めるから、嬉しいんだろう。」
「久々に、女たちとも会うのかー。」
カケルは不味い物でも食べたかの様な顔になり、ファルコンのエンジンをつけた。
「いいかー?彼は普段は普通だが、殺意が強まると豹変するんだ。その時、眼がグレーに光ると共に殺傷能力が増大するんだー。あと、彼の狙いはお前だよ。奴とは眼を合わせるんじゃないぞ。今までウン百人のジェネシスが犠牲になってるんだ。話す時は、鏡を使うように。でないと、泥の塊になって元に戻れんようになる。あと、マジックミラーもきかないんだよ。何かあったら、即連絡して逃げるんだ。」
博士は息子を戦地へ送る親の様な眼差しで矢継ぎ早に話すと、カケルに通信機と小型カメラ、クレイモア型の武器を手渡した。本来、大会では武器の所持は認められていないが、今はリゲルの捕獲が最優先である。また、多く犠牲者を出したくはない。博士は主催者と偽り、いつもの小細工でボディチェックをすりねけたのだった。
「分かったさー、奴が俺も狙ってるって事をなー。あと、新たに犠牲者が出ないようにうまくやってくれ。」

試合の準備が終わり、ファルコンに乗った選手たちはぞろぞろと会場内に現れた。司会者の甲高い金銀声が会場内を木霊する。
「さぁー、始まりました!ゼッケンNo.1、リゲル・ロード、ゼッケンNo.2、大鳥カケル、ゼッケンNo.ー」
ふと、氷柱に刺さったかの様な鋭い視線が背中に突き刺さった。左側のサイドミラーには、レイジそっくりの顔をした長身の男がこちらをじっと見ているのが見えた。
リゲル・ロードである。
「リゲル…。」
カケルは歯を噛みしめ、ハンドルを握りしめる。そして、振り返らずに、左ミラーに映るリゲルと顔を合わせた。
「やぁ、俺を覚えているか?」
「あぁ、あの憐れな男のお弟子さんか。アレは実に気の毒だったよ。」
「お前がやったんじゃないのか?」
「まさか。憐れな男になんか興味など無いさ。」
「お前、全く老けてないな・・・。やっぱり、人を辞めたんだな・・・」
「だから何だ?後悔なんか無いさ。微塵もな。私は、人より上の次元に辿り着いたのだよ。」
「あの大会で、他の選手をどうしたんだ?」
「さぁ・・・。それは私の管轄外だ。私の任務は日比谷ミライの捕獲なんだよ。もう任務は達成したが、ずっと彼女を物凄く殺したい衝動に駆られてしまうんだよ。」
「日比谷ミライだとー?」
カケルは眉間に皺を刻むと、強くハンドルを握りしめた。
「例のフランス人とイギリス人は何処だ?始末せねば。」
リゲルはカケルの言葉を無視し、辺りをキョロキョロさせた。
「お前は、日比谷にしか興味がないかと思ったよ。案外浮気者なんだな。」
カケルは鬼の様な形相で、ミラーを睨み付けた。
「いやー、本音を言うと私が一番興味を持っているのは、昔から君なんだよ。」
すると、リゲルは身体を石像のように硬化させ、眼はグレーに光ったのだった。
『 では皆さん、構えてー。』

サイドミラーにはひたすら自分を睨み付けるリゲルの姿が映っている。

『 レディー、GO!』

カケルはロケットの如く、真っ先に飛び出した。オリンポス競技場を出て、U字型のコースを激走する。カケルはリゲルが前に出ないようにひたすらファルコンを前進させた。
ミラーを見るとグレーの眼のリゲルが、明らかに獲物を刈る眼でいたのだ。黒い魔物は不気味にじわりじわりとカケルの背中を睨んでいる。
数秒後に急カーブに差し掛かった時、メーターは350キロに達していた。カケルとリゲルは蛇の様にジクザクしたU字コースをひたすら走り続けた。すると、後方で何かが爆発した様な鼓膜を破る様な音がした。リゲルのファルコンが斜め後ろから猛タックルしてきたのだ。ハリウッド映画さながらの迫力である。カケルのファルコンは火花を描きながら倒れるスレスレまで傾いた。カケルはサイドミラーを確認しながら、コースの側面を走った。2人のファルコンは眼を閉じたくなる程のるのようなのような、おびただしい量の火花をバチバチ撒き散らした。2人は自身のファルコンを限界ギリギリまで傾け、ベーゴマの様に滑らかに大きな弧を描きながら、三度四度ガンガン激しくぶつかり合った。メーターは、既に380キロに達している。カケルは横転しそうな中、腕力と脚力を使いひたすら持ちこたえた。
すると、リゲルがうねうねした黒い職種を背中から排出したのだ。
ー例のテレビで見たやつかー。ー
彼は無数の黒い触手を大蛇の様にクネクネうねらせ、そして腕のように変形させ、カケルの頭部を掴もうとしている。カケルは、追い越されないようにひたすらギアを回し続けた。メーターは既に時速450キロに達していたのだ。

カケルは速度を緩めた。左腕にはクレイモアの様な形状の金属棒が隠されていた。それは、博士の造った特性のアイテムである。ファルコンとコードの様な物で接続されており、スピードを出せば出すほど大量の電磁波を集める様になっている。そこからエネルギーが増大し、ゲージが満タンにになると大量の電磁波を放出される仕組みなのだ。

リゲルはその事に気づいてはいないー。

数秒後、触手はカケルの予想どおり、左腕に絡み付いた。

すると、中一面が雷におびただしい量の電流が広がり、そしてダイナミックな花火が打ち上げられたかのような眩しい光と音が広がった。

ーうまくいったか?ー
カケルは全身から冷や汗を流した。

ーコレでしばらく、奴は姿を変形させることが出来ないー

彼はハンドルを握ったまま身体を硬化させ、ブルブル震わせていた。その振動は益々増大し、まるで石像のように身体を硬化していった。
「ー!?お前…」
カケルは毒虫を噛みしめた様な顔になった。
「いや、素晴らしいバトルだよ。大鳥カケル君。益々、君を殺したくなってきた。」
左のバックミラーには、グレーの眼を光らせたリゲルが真後ろにいたのが映っていた。彼は表情を微動だにせず、ハンドルから手を離し手をパチパチ叩いたのだった。
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登場人物紹介

キース・バークマン


主人公。アイルランド系のアメリカ人であり、角刈りで長身瘦躯の男。ワイルドな性格をしており酒癖と女癖が悪い。しかし、幼少の頃からジェネシスとしての過酷な訓練を受けており、武器の扱いに長け身体能力がが同胞の中でも遥かに高い。また、最高時速600キロを誇る、世界一危険で過酷なレース『ギャラクシー・レース』のトッププレイヤーでもある。大鳥に対してはレースにおいて自身のファンを取られた事を好ましく思ってない反面、戦いの時はしばしば暴走する彼に突っ込みや助言をするなどしている。昔、自身の親友や恋人が無残な死に方をした経験から、組織に猜疑心を持っており復讐の機会を狙っている。




大鳥 カケル


もう一人の主人公。長身で中世的な顔立ちをしている美青年のジェネシス。子供の頃、エンジニアである大鳥レイジの影響からメカや自動人形《オートマドール》に精通しており、各個体の性質や能力に詳しく戦い方も心得ている。時折、無鉄砲で命知らずな行動に出ることもあるが、それは被害を最小限に抑えるという自身の配慮でもある。普段は他人に柔和で時折笑顔を振りまいているが、それは本来の性格ではない。本来は冷静沈着であり、女嫌いな一面を持つ。人間《ノーマル》である母親とジェネシスである父親のハーフというイレギュラーな存在である。ハーフで実の両親の記憶も無く、子供の頃は時折疎外感を感じていた。組織に仲間や養父を虐殺された経験から、彼もまた復讐の機会を狙っている。

日比谷 ミライ


本作の最重要人物。オッドアイで左利き。右目が淡い緑色をしているが、普段はカラーコンタクトをしている。左頬に星形の痣がある。物静かで穏やかな性格をしており、丁寧口調で話す。とある重大な事件による過度なストレスにより、記憶の殆どを失っているジェネシス。実は大鳥からマークされている最重要人物であり、戦闘能力も桁違いである。

細身だが、身体能力は並みの人間を凌駕しており古めのvxなら一人で楽々倒すスキルを有している。本来の性格は冷徹で同胞や人の命に関心がなく、場合によっては平気で切り捨てるらしい。

大鳥 レイジ


カケルの養父であるジェネシス。身長193センチの長身で右ほほに大きな十字型の傷がある。非常に優秀なエンジニアであり、カケルにロボット工学のノウハウを授けた。かつては組織におけるナンバー2のポジションであった。自動人形《オートマドール》の開発や管理をしていたが仲間の陰謀により失脚し、自身の制作したvxに殺害されてしまった。

青木博士


穏やかで中年太りの大男である発明家。カケルの義手のメンテナンスをしている。マッドサイエンティストであり、研究に爆発や異臭を伴いしばしばご近所トラブルを起こしている。また、カケルが心を許す数少ない友人である。かつては組織に属していたが離反し、現在命を狙われている立場にある。組織内の情報や自動人形《オートマドール》に詳しく、また秘密の経路でしばしばカケルに情報を流している協力者でもある。

リゲル・ロード


大鳥レイジとウリ二つの顔をした、謎の美青年。身体全体を液体の様に自由自在に変形する能力を有している。常に無表情で冷淡な性格をしている。何らかの理由で日比谷の命を狙っている。かつてはジェネシスであったが、とある事件で化け物《ビースト》化してしまった-。

   何故かカケルに執着している。

シリウス・ベクター


組織の幹部。長身の優男。幼少期のカケルとは顔見知りであり、彼の両親を知る唯一の人物。大鳥レイジの死の真相も熟知している。また、リゲルに日比谷を捕らえる様に指示した。何かを企んでおり、日比谷の記憶が戻るのを心待ちにしている。

戦闘能力は未知数。謎のスキルがあるらしく、彼に攻撃しようにも弾きかえされてしまい、倍以上のダメージを喰らってしまう。

カケルや彼の両親についての秘密をにぎっている。

    彼の正体は並行世界の住人で、元は孤独で不器用な好青年だった。しかし、そちら側の日々谷をマシンに殺されてから、歪んだ性格になってしまった。やがて世界を憎み破滅へ導くようになる。

ヒューゴ.ブル


イギリス風の男。女好きで軽快な性格をしている。自身でラッパーを名乗っており、レース時は大音量で鳴らして走っている。大鳥が台頭する迄は、常に3位をキープしていた。ロック派のキースとはウマが合わなく、しばしば喧嘩をしている。

また、ことごとくトラブルに見舞われる体質の持ち主である。真っ先に日比谷やシリウス、リゲル等に遭遇したり、最新のVXに追われれる等している。

トリスタン. ボロン


フランス風の男。クールで毒舌家。タレ目で癖毛が特徴的である。落ち着いた静かな曲を好み、キースやヒューゴを煙たがっている。眠たそうな顔をしており、暇さえあればいつも昼寝をしている。レースでは大鳥が台頭するまでは、キースに次いで常に二位をキープしていた。

    かつては組織に属していたエンジニアであり、情報通でもある。

   組織やマシンに対し、激しい憎悪があり、時にはもて遊ぶ残酷な一面も持ち合わせている。

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