第1話  キース バークマン ①

文字数 4,621文字

 果てしなく淀んだ空の下、自動人形(オートマドール)が超高速で市街地を移動していた。雨がザーザー滝のように振り続けている。彼は濡れたアスファルトの上をスピードスケーターの様に滑走する。彼の足には直径30センチ程の巨大なローラーが取り付けられている。
「何でこんなに早いんだよ・・・」
俺はバイクの様な形状をしたマシン『 ファルコン』に乗って

の背を追った。
スピードメーターは既に300キロを超えている。

はクルリと180度振り返ると両眼からレーダー照射した。華奢な女子高生風の風貌をしているが、油断はできない。俺は車体軸をめいいっぱい左に傾け、ジグザグ走りかわした。レーダーは綺麗に弧を描いた。高層ビルが次々と模型の如く崩れ落ちていく。橋は崩れドミノ倒しとなり、河の藻屑となった。幸い深夜の誰もいないオフィス街だが、何処に人がいるか分からないー。俺は意を決してファルコンから

にダイブした。ファルコンは駒の如くクルクル回転し、火花を散らして停車した。自動人形(オートマドール)は急カーブをし橋の手すりに激突した。手すりはぐにゃりと倒れた。俺と彼はそのまま手すりを乗り越え、川に落ちた。
俺と彼の身体は濁った深い川の底まで沈んでいき、そして浮上した。俺はひたすら彼の頭を押さえつける。額から冷や汗が滴り落ちてくる。

は打ち上げられた魚の様に口をパクパクしながらバタバタもがいていた。俺は電気砲(バズーカ)を構え、

の額を狙うー。俺の体力は限界になっていた。すると、

の左手が俺の首を掴んだ。とてつもない握力だ。まるでプレス機に押しつぶされたかのような感覚を覚えた。俺はむせ込みながら、

の背中の螺子を緩めた。すると螺子の内部に水が浸食し始めた。

はビクっと動転した。

は真顔のままそのままの体勢で水面をアメンボの如く後方に滑走し、俺と間合いを取った。彼は両目からレーダー照射した。しかし威力は前より断然落ちてきている。レーダーは俺の右肩はかすり、上着から煙が出ている。感電したかの様な激痛が走り、ぐっと歯を噛み締めた。

雨は次第に強くなるー。

「ちっ、ちょこまか動くなよ。ゴッキー《ゴキブリ》がー」
電気砲(バズーカ)のバッテリーも残り少ない。モタモタしてると切れてしまうー。
彼の背中から煙が吹き出し、動きも鈍ってきた。俺は歯を噛み締め、

に照準を合わせた。レーダーは電光石火の如く彼の額に直撃した。

は、星屑の様に粉々になりそろそろと川の底に沈んだ。
青碧の川は不気味に静まり返り、ただそこにはひたすら雨に打たれる音だけが反響していた。

今は23世紀ー。高度な技術の発展(メカトロニクス)により、人工知能とロボット工学が普及した。彼等は次第に高度な知能を持つようになり、そして自我が目覚めた。やがて彼等は独自の集落(コロニー)を造り、アンドロイドだけの巨大都市(メガロポリス)まで生まれた。彼等は独自の思想を持つようになり、その1部の高度な個体が化け(ビースト)と化し、殺戮を繰返す事となった。人間の知性と探究心が破滅をもたらす様になるのである。
そんな中、とある科学開発機関が奴ら《ビースト》に対抗すべく、極秘のやり方で優れた第六感と超人的な身体能力を持つ人間の開発に成功した。彼等は『 ジェネシス』と呼ばれる様になる。そして幼少期から過酷なトレーニングを積み、中には命を落とす者までいた。そして強者は生き残り大人になり、守護者(ガーディアン)として人間達を守る立場になるのである。

近年では、人間は急激な地球温暖化の影響により、年の大半は巨大なドームで生活するようになり、娯楽はバーチャル化するようになっていった。
そんな中、『ギャラクシーレース』と呼ばれるゲームが流行していた。
そのゲームは、俺達『 ジェネシス 』が超高速電動マシン『ファルコン』に乗ってスピードを競うゲームである。一般に人間達がやるバイク等のレースとは違い、相手にタックルしたり(スキル)の発動をしたりと、何でも有りのゲームだ。平均で大体40~50キロの距離を走るのである。またこのマシンは人間が乗る大型バイクより一回り程大きく、平均時速350キロMAX600キロを誇る超高速電動マシンだ。このゲームは、一部の富裕層が娯楽として大金を注ぎ込み、賭け事に興じていのである。一人当たりで何十万、高くて百万単位のお金が流れ込むのである。
 

俺は子供の頃から異常な子供だった。周囲から『 モンスター』と恐れられていた。子供のうちはキックボード型のマシンに乗って練習するのだが、周りの皆は時速100キロのスピードに怖気付いてしまい、中には漏らしてしまった者までいた。それもそのはずである。前途の通り死傷者迄いたのだからー。子供にそれをやらせるのは残酷な罰ゲーム《デス・ゲーム》に等しかったー。しかし、何故か俺には恐怖心など微塵もなかった。150キロでも余裕に感じた程である。そんな俺だけアンドロイドの如く真顔で、サクサク残酷な罰ゲーム《デス・ゲーム》をクリアしていた。走ってる時は、湧き上がるマグマ様な熱く不思議な感覚を覚えるのである。しかし、その正体は何かは分からない。俺は日々訓練を重ねる毎に次々にライバルをなぎ倒し、世間では知らぬ者はいない存在になった。そしてその噂を聞きつけたスコーピオンという名のスポンサーが目をかけ、世界中で俺の名は轟いたのだった。
 

そんな俺の本拠地(ホーム)が、森の(グリーンキャピタル)である。その森の(グリーンキャピタル)は、今や世界中のレーサーの憧れの街になりつつある。壮大なコースが縦横無尽に設置されてあり、そこの中央にコロッセオを連想させるかの様なデザインのメイン会場がある。ここは、メインレースが行われてるオリンポス競技場である。この様な感じの競技場は他に何百ヶ所かあるが、注目のレーサーが出る時や賭け事では主にここが使われているのだ。
 


そんな中、とうとうそのレースの日が来てしまったー。『ギャラクシーレース 』だ。
3日前の大仕事で、俺は全身が鉛の様にダルく疲弊していた。俺はファルコンに乗ってトレーニング用コースでウォーミングアップを始めた。今日は快晴だ。無限に続く巨大都市(メガロポリス)が、眼下にそびえ立っている。街の至る所で全長350メートル程の風車が回転していた。郊外の田園地帯では原子炉があり、アンドロイドがひたすら作業をしていた。そのまた遠くには深い樹海に囲まれた山々が切り立ち、一望できるのだ。
俺はイヤホンをつけ音量を上げた。
軽くハミングをし、ギアを全開にした。俺は頭の中でビートを刻んだ。疲れが一瞬で、風に吸い取られたかのように吹き飛んだ。俺はエクスタシーになり、時速200キロでコースを一回りした。
練習を終え会場裏に着くと、会場内部から狼煙の音と、観客の歓喜の声が聞こえてきた。まるで夏祭りが始まるかの様な雰囲気に包まれてあある。
会場は東京ドーム6個分の広さがあり、各エリアにそれぞれ巨大モニターが取り付けられている。コースの各地点や選手のメットに各カメラが備えられており、それがモニターと繋がっているのだ。その映像はランダムに流されており、観客はそれで大金を掛けるのである。

会場内から、司会者が声を張り上げた
「さぁ〜、始まりました!2222年、第5回グリーンキャピタル賞金争奪戦、チャンピョンカップ!先ずは選手の紹介ー累計獲得賞金、30億!!!フェニックス所属、期待のルーキー、大鳥カケル!!!」
奥の暗い通路から、ファルコンに乗った大鳥カケルが悠然とやって来た。ここ数年で、成績がうなぎ登りのいけ好かない若者だ。すれ違いざま、大鳥は俺に目もくれずにその場を後にした。彼が会場に出ると、女達の黄色い声援が俺の鼓膜を振動させた。
俺はアイツの透かした顔が気に食わない。
背こそは高いが、人形の様な女顔に白い肌をした若者である。
「続きましてー、累計獲得賞金35億、スコーピオン所属『 雷帝』、キース.バークマン!!!」
会場中で何百もの声援が高々と響き渡るった。俺はイヤホンを外し、再びビートを刻んだ。
「続きまして第3レーン、サジタリアス所属、トリスタンーボロン!第4レーン、オリオン所属、ヒューゴーブル!第5レーン、アクエリア所属、日比谷ミライ!」
各有名なライダー達が次々と会場に現れた。どいつもコイツも馴染みのある強者(つわもの)揃いだ。彼らは数多(あまた)ものハイリスクなレースを命懸けで這い上がってきたのだ。
「では、皆さん構えてー。」
「レデーイ、ゴー!」
俺は大鳥から逃げる様に、アクセルを全開にした。
「おーっと、バークマン選手、真っ先に飛び出しました!今回は円棒型の非常に難易度の高いコースになっております!このままペースを維持出来るのでしょうか!?」
俺は脱兎の如く加速し、大鳥をグイグイ引き離した。彼は、20メートル後方にいる。

ーと、コースの中盤を過ぎた辺りの事だった。彼を乗せたファルコンは、乗馬のように軽々と俺の頭上を高跳びした。

コイツ、俺の上をー?

咄嗟の事だった。俺の落雷にあったかの様なえも言わぬ痺れた感覚を覚えた。そして大鳥は俺の5メートル先に着地した。そしてその先の酷く湾曲した道をべーゴマの如くしなやかにカーブした。

ーふざけるなよ。ナメてるのかー?俺は『雷帝』だぞ。ビートのキース様だぞ?ー

大鳥は、電光石火の如く滑走した。
彼は傾斜60度の高低差のある急勾配のある蛇の様にグニャグニャしたコースををギア全開で突き進んだ。俺は獲物を狙うチーターの如く彼を追った。しかし、彼を越えようにも風圧でこれ以上進めなかった。

ーアイツー、なんかの(スキル)を使ったんじゃー?ー

俺達ジェネシスは、それぞれ固有の(スキル)を有している。しかしその(スキル)はレース中には滅多に披露することは無いのだ。その(スキル)を使うと体力の消耗が激しくなり、成れの果ては命を落とし化け(ビースト)になると言われているからである。
その時、司会者のキンキン声が会場全体に響き渡る。
「さぁ~、残り二キロを切りました!賞金は一体誰の手に!?」

「させるかよ!」
俺はギアを前回にし、全力で大鳥を睨みつけた。
ファルコンは次第に、30メートル、20メートル…と、猛スピードで会場に近づいていくー。俺は依然として彼との距離を縮めないで歯がゆい思いをしていた。
そしてー、会場全体に張り上げた声のアナウンスが流れた。
「ゴール!!!」
女達は再び黄色い声をキャーキャーと仔犬の様に響かせた。
「大鳥選手やりました!!賞金二億円です!!」
彼はメットを外し、観客席に向かって微笑みかけた。
「瞬間最高時速は538キロ!タイムは・・・何と28分57秒です!!何と、記録更新しました!!!」

全身が鉄になったかのように重たく冷たく感じた。俺は舌打ちしながら、ファルコンに乗りその場を後にした。
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登場人物紹介

キース・バークマン


主人公。アイルランド系のアメリカ人であり、角刈りで長身瘦躯の男。ワイルドな性格をしており酒癖と女癖が悪い。しかし、幼少の頃からジェネシスとしての過酷な訓練を受けており、武器の扱いに長け身体能力がが同胞の中でも遥かに高い。また、最高時速600キロを誇る、世界一危険で過酷なレース『ギャラクシー・レース』のトッププレイヤーでもある。大鳥に対してはレースにおいて自身のファンを取られた事を好ましく思ってない反面、戦いの時はしばしば暴走する彼に突っ込みや助言をするなどしている。昔、自身の親友や恋人が無残な死に方をした経験から、組織に猜疑心を持っており復讐の機会を狙っている。




大鳥 カケル


もう一人の主人公。長身で中世的な顔立ちをしている美青年のジェネシス。子供の頃、エンジニアである大鳥レイジの影響からメカや自動人形《オートマドール》に精通しており、各個体の性質や能力に詳しく戦い方も心得ている。時折、無鉄砲で命知らずな行動に出ることもあるが、それは被害を最小限に抑えるという自身の配慮でもある。普段は他人に柔和で時折笑顔を振りまいているが、それは本来の性格ではない。本来は冷静沈着であり、女嫌いな一面を持つ。人間《ノーマル》である母親とジェネシスである父親のハーフというイレギュラーな存在である。ハーフで実の両親の記憶も無く、子供の頃は時折疎外感を感じていた。組織に仲間や養父を虐殺された経験から、彼もまた復讐の機会を狙っている。

日比谷 ミライ


本作の最重要人物。オッドアイで左利き。右目が淡い緑色をしているが、普段はカラーコンタクトをしている。左頬に星形の痣がある。物静かで穏やかな性格をしており、丁寧口調で話す。とある重大な事件による過度なストレスにより、記憶の殆どを失っているジェネシス。実は大鳥からマークされている最重要人物であり、戦闘能力も桁違いである。

細身だが、身体能力は並みの人間を凌駕しており古めのvxなら一人で楽々倒すスキルを有している。本来の性格は冷徹で同胞や人の命に関心がなく、場合によっては平気で切り捨てるらしい。

大鳥 レイジ


カケルの養父であるジェネシス。身長193センチの長身で右ほほに大きな十字型の傷がある。非常に優秀なエンジニアであり、カケルにロボット工学のノウハウを授けた。かつては組織におけるナンバー2のポジションであった。自動人形《オートマドール》の開発や管理をしていたが仲間の陰謀により失脚し、自身の制作したvxに殺害されてしまった。

青木博士


穏やかで中年太りの大男である発明家。カケルの義手のメンテナンスをしている。マッドサイエンティストであり、研究に爆発や異臭を伴いしばしばご近所トラブルを起こしている。また、カケルが心を許す数少ない友人である。かつては組織に属していたが離反し、現在命を狙われている立場にある。組織内の情報や自動人形《オートマドール》に詳しく、また秘密の経路でしばしばカケルに情報を流している協力者でもある。

リゲル・ロード


大鳥レイジとウリ二つの顔をした、謎の美青年。身体全体を液体の様に自由自在に変形する能力を有している。常に無表情で冷淡な性格をしている。何らかの理由で日比谷の命を狙っている。かつてはジェネシスであったが、とある事件で化け物《ビースト》化してしまった-。

   何故かカケルに執着している。

シリウス・ベクター


組織の幹部。長身の優男。幼少期のカケルとは顔見知りであり、彼の両親を知る唯一の人物。大鳥レイジの死の真相も熟知している。また、リゲルに日比谷を捕らえる様に指示した。何かを企んでおり、日比谷の記憶が戻るのを心待ちにしている。

戦闘能力は未知数。謎のスキルがあるらしく、彼に攻撃しようにも弾きかえされてしまい、倍以上のダメージを喰らってしまう。

カケルや彼の両親についての秘密をにぎっている。

    彼の正体は並行世界の住人で、元は孤独で不器用な好青年だった。しかし、そちら側の日々谷をマシンに殺されてから、歪んだ性格になってしまった。やがて世界を憎み破滅へ導くようになる。

ヒューゴ.ブル


イギリス風の男。女好きで軽快な性格をしている。自身でラッパーを名乗っており、レース時は大音量で鳴らして走っている。大鳥が台頭する迄は、常に3位をキープしていた。ロック派のキースとはウマが合わなく、しばしば喧嘩をしている。

また、ことごとくトラブルに見舞われる体質の持ち主である。真っ先に日比谷やシリウス、リゲル等に遭遇したり、最新のVXに追われれる等している。

トリスタン. ボロン


フランス風の男。クールで毒舌家。タレ目で癖毛が特徴的である。落ち着いた静かな曲を好み、キースやヒューゴを煙たがっている。眠たそうな顔をしており、暇さえあればいつも昼寝をしている。レースでは大鳥が台頭するまでは、キースに次いで常に二位をキープしていた。

    かつては組織に属していたエンジニアであり、情報通でもある。

   組織やマシンに対し、激しい憎悪があり、時にはもて遊ぶ残酷な一面も持ち合わせている。

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