第3章 第3話

文字数 1,416文字

 凍える寒さの中二時間並んでようやく初詣を終え、翔を家に送っていく。
 おいおい、まだ店開いているし… どうせ身内のヤツらばかりだろう、健太とか健太とか、あとは健太など。捕まると面倒なのでとっとと車を出し家に帰る。年末までみっちり仕事をし、昨日は一日大掃除。身も心もクタクタの俺は風呂も入らずベッドに入り、即落ちる。

 目が覚めると昼前だ。大きく伸びをしキッチンに降りるとお袋がお節料理を並べ正月らしい雰囲気を感じさせる。食事の準備ができた頃葵を起こしに行く。まだ寝こけていると思いきや、一心不乱に机に向かって勉強している。やる時は、やる。娘の受験合格を早くも確信する。

「それで何時頃『しまだ』に行くー?」
「それはお前に合わせるよ。どうしたい?」
 目の下にクマをこさえた葵が天井を睨みながら、
「んーーー… 夕方までみっちりやって、それから、かな」

 これがあの葵なのか? ウザとダルいしか言わなかった葵なのか? 
「オッケー。じゃあ、五時頃に家出るか」
「わかった。じゃ、それまで。むんっ お婆ちゃん、ご馳走さま〜」
「はいよっ 頑張ってね〜」

 俺は雑煮を啜りながら、
「母さんも五時に出るから用意しとけよ」
「はいよっ お年玉は翔くんだけの分でいいのかねえ?」

 あ。俺も翔に落としてやらねばならない、のか…… でもよかった、もし忘れていたら葵が春先まで口をきいてくれなかっただろう。さすがお袋、助かったぜ。

「いいと思うよ。そう言えばお袋、葵以外にお年玉用意するの初めてじゃないか?」
 俺は一人っ子、葵も一人っ子。お袋にとって孫は一人だけ。

「そうだねー。最近は、ね」
 俺は首を傾げ、
「最近? え、昔は?」
「うふふふ」

 まあ、どうでもいいか。

 小さな会社ではあるが、我が社は大手企業にはない現代的な合理性を持つ慣例が幾つかある。その一つに『年賀状の自粛』がある。これは本当に助かる。上司がいた頃は書くのが本当に面倒だったし、部下を持ってからは返信するのが本当に苦痛だった。

 今の世の中、SNSが普及し、知ろうと思えば友人知人の最新の日常データを入手することができるので、写真付き年賀状で彼らの家庭の成長を確認することは不要になりつつある。一番かったるかったのが、宛名に鈴木マロンだの山田ムギなどペットの名前を含めるか否かだった。
 今時はペットも家族の一員だと言うことで、年賀状の差し出し人の所にレオだのカカオ、ココって入っている。初め見た時、外国人の養子を貰ったのかと慌てて電話したのは俺だけか?

 幸い我が家は犬猫はおらず、そんな手間はかからないのだが、今後はどうか分からない。葵が受験に失敗し、心を癒すために犬が欲しいなぞ叫べばお袋ははいよっとどっかから貰ってくるに違いない。まあそんなことはどうでもよい。

 その年賀状の手間が大いに減ったことの代償として。ウザいほどのメール、ラインなどの『あけおめ』への対応が死ぬほど面倒臭い。今朝も起きるとスマホから溢れるほどの『あけおめ』や賀正スタンプを受信している。その返信には定型文をコピペし葵に教わった賀正スタンプを送りまくる訳なので、押し並べて考えてみれば年賀状とやっている事は一緒なのかも知れない。

 SDGSが叫ばれる昨今、紙資源の削減としてこのSNSでの挨拶と言うのは有効な手段なのだろう。手間としては然程変わらん、いやむしろ面倒な気もするが。

 それでも時代の流れ。しみじみと感じる歳になってきた。
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