第4章 第10話

文字数 896文字

 葵の運命の日。
 平日の月曜日なのだが俺は脚のリハビリの為に病院へ行き、その帰りに葵と校門の前で待ち合わせをする事になっている。葵には内緒なのだが亡き妻里子の遺影を鞄に入れてある。俺は約束を守る男なのだ。

 発表は十時からなのでその時間に間に合うようにリハビリをこなす。

「センムー、なんか今日は上の空だねー」
 リハビリの担当の橋上先生。先日の三ツ矢放逐の話をすると、
「あは。ちょっとは役に立った? アレ」
「ありがとうな。今度奴がなんかやらかしたら、その時に」

 先生は頷きながら、冷たい笑顔で
「ま、どこに行ってもあの性根変えない限り、アイツはダメっしょ」
「だよ、な」
「センムーみたいに」
「おいっ」

 先生はケタケタ笑いながら、
「へへへ。この後お嬢さんの発表なんっしょ。上手くいくとイイね!」

 気もそぞろなリハビリを終え、タクシーを拾い都立日々矢高校へ向かう。学校に近づくにつれ緊張した顔付きの親子連れが増えてくる。

 校門の少し手前でタクシーを降り、ゆっくりと校門に向かう。葵がスマホを弄りながら一人佇んでいる。

 この学校は大昔の超名門都立。俺の頃には凋落し東大合格者がゼロの年がずっと続いていたのだが、十数年前から実績が回復し、今やかつて程ではないが都立の中では復活の名門校として名高い。

 当初葵の学力では夢のまた夢であったのだが、夏休み以降の彼女の学力の上昇は異常とも言えるレベル(と翔が真顔で言っていた)で冬休み明けの模試でB判定まで持ってきた。試験は水モノ、本番に強い(と本人曰く)のでワンチャンある! と豪語してこの高校を受験したのだ。

 十時丁度。スマホから目を上げ俺を確認すると目で行くぞ、と合図する。
 肩を並べて合格発表の掲示板にゆっくりと歩いて行く。
 その表情はまるでこれから戦場に赴く戦士そのもの、こんな真剣な顔つきは生まれてこの方見たことがない。

「番号、何番だっけ?」
「213」

 人集りのする掲示板に更に近く。結果は既に貼り出されている。
 俺は拳を強く握る。手汗が滴り落ちる感だ。
 横を見ると強く鋭い視線を掲示板に送る娘が居る。

 鞄にしまってある遺影を祈るようにそっと握りしめた。
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