泡瀬鏡

文字数 370文字

瀬伏し、瀬戸際、逢魔が時。
鏡面鏡裏、泡の中。

泡に会ったら気ぃつけな。

そこに映る自分と目が合うと、パチンと弾けて出られない。
くるりとまわって出られない。


昔、祖母がお手玉をしながらそう歌っていた。面白いと思っていたが、今考えると恐ろしい。
だいたい泡に会うって何なんだろう?生まれてこの方、泡に会った事はない。

「泡じゃなくて合わせ鏡の事なんじゃない?」

何の気なしに歌の話をすると、サオリはそう言った。なる程と納得。

「いやいや!だったら更に怖いじゃん!」
「昔の歌って言葉遊びがあるし、裏の意味もあるって言うしね?」
「やめてよ!」

ニヤッと笑うサオリ。そんな話をしながら私達は歩く。
夕暮れ。ビルの硝子にその姿が反射する。

「瀬伏し瀬戸際……。」

教えたばかりの歌を歌うサオリ。その声が突然止まる。

「……え?泡?」

パチンと弾けるような淡い音。
サオリは消えた。
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