降車ボタン

文字数 381文字

バスに揺られ渡された紙を捲る。随分ネット上には「噂」が溢れているようだ。

「小宮山もこれを追ってたんだよな……。」

奥さんの顔が思い浮かび、無意識に眉を顰めた。遠くから自分を呼ぶ小宮山の声が聞こえる気がする。妄想だとわかっているが何とも落ち着かない。

それと同時に感じる遠くからこちらを見つめる視線。

『見られてるぞ、お前。格好の噂のネタになるような事はすんなよ。』

薄ら笑いで知人に言われた言葉。彼が言うには、噂を追えば噂に見つかり噂に取り込まれるそうだ。全く意味がわからない。だが小宮山が追っていたであろう噂はそういうものだ。そもそも噂の方が人を見るなんてあるのだろうか?

「押してもらえるかい?」
「あ、降車ボタンですね?」

隣の老婆に声をかけられる。私はボタンを押してあげた。お婆さんはお礼を言って席を立った。

「あんた、あの子が見てるよ。雨には気いつけな。」

そう言った。
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