囚われる

文字数 384文字

「……阿久津?」

友人が危険な状態であるにも関わらず、私は彼を責める事ができなかった。いつも飄々と薄ら笑いを浮かべている知人。その彼が硬直した様に立ち尽くしている。固く握られた拳は肉眼でわかるほど震え、ガチガチと鳴る歯の音が聞こえる気がした。

「……さっさとそいつを掘り起してここを離れろ……。俺にゃ睨み合うだけで精一杯だ……。」

彼の視線の先、私には何も見えない。ただ粘着質な湿度の濃い闇があるだけ。
だがそうやって彼が「何か」と睨み合う事で、私と友人が守られているのだと理解した。急いで友人を土から引きずり出す。
ふと、妙な臭いが鼻を突いた。アンモニア臭?不思議に思って顔を上げる。

「?!」

知人のズボンが雨ではない液体で濡れていく。その意味を理解した時、彼はガクンッと膝を折り、そのまま地面に倒れ込んだ。

「阿久津?!」

声は出たが動けなかった。私は射す様な強い視線に囚われた。
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