その花の色が違うなら

文字数 381文字

その声に反射的に振り返った。心臓が重く早打っている。雨に鳴る夜の森は、声を潜めてざわざわと騒がしく不安を掻き立てた。立ち尽くす私の視界に何か白っぽいものが見える。

「……あった。阿久津!あった!紫陽花だ!」

私は叫び、知人と共にそこに向かう。そして何も言えなくなった。

「……何で……色が……。」
「紫陽花の色が変わるのには様々な要因がある。別に死体があるってんじゃないさ。」

不気味だった。枯れかけた紫陽花は雨に打たれ沈黙していた。私は周囲を見渡す。友人が近くにいるのかと思ったからだ。けれどそれらしき人影も人のいれそうな場所もない。花を探すよう言った知人は、紫陽花と同じようにその前でじっと雨に打たれていた。

「おい!」
「……下だ……。」

それに苛立った私が肩を掴むと彼はボソリと呟いた。そして我に返って叫ぶ。

「下だ!掘れ!!」
「!!」

私はその言葉に凍りつくしかなかった。
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