あの日の狂気

文字数 381文字

誰かが……何かが見てる。

その視線は冷たく鋭く、蔑む様な憎む様な重さを含んでいる。それがじっとりとのしかかってくる。

彼は集中した。

彼はその視線と同類のモノを知っていた。その視線を受けた事があった。

陽炎立ち上るグランド。ランナーや守備が走る度、焼かれた土が舞い上がる。照りつける日差しに喉は乾いてガサガサと音を立てていた。観客席から絶え間なく聞こえる応援歌。ブラスバンドの演奏。それに負けないほどの声援。
だがそれが自分を支えるものとは限らない。

打つな!

その言葉ではない思念が全身に纏わりつき雁字搦めにする。バッターボックス。滝の様に流れる汗。目に入りしきりに擦る。でないと目を開いていられないからだ。ただ歯を食いしばる。

負けるもんか。

ジリジリと皮膚を焼く熱気。纏わり付く狂気。それでも勝負は勝負。ピッチャーを睨み深呼吸する。

そして、自分の全てをかけてバットを振った。
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