第20話

文字数 1,551文字

 
(そら)の成長が見れるなんて、夢みたい」
みやめが感激し、泣きじゃくる。
「あ、でも、また妖怪王が襲って来たら?」
一鍵(いっきい)は顔を引き締めた。
「人間を支配しようとする奴には絶対、渡さない。妖怪は人間と共存しなくちゃいけないのよ。『星の雫』の力は人間を守るために使うわ」
みやめは坊やの胸の上の宝石を固く握り締めた。
「妖怪王が来たら、皆で駆け付けるよ」
ここあが言った。
「僕は南方へ行って修行を続けます。当分、老化止める気無いし」
いーじまんがスッキリした顔で切り出した。
「そう、元気で頑張ってね」
みやめとここあが別れを惜しむ。
「その前に……僕に任せてもらえませんか?バーテンダーの名に掛けて元通りにしてみせます」
「え……?」
いーじまんは、コックコートからトレシーを取り出すと、超高速でここあの顔面を磨いた。
「ああっ。元通りどころか、おでこの皺まで消えてるわ」
「みや女神、それは言っちゃいけな……」
「スハーッ。息が出来るようになったーっ」
ここあが嬉しそうに万歳をする。
「涙の層が顔面を覆って鼻の穴まで塞いでましたよ」
いーじまんがドヤ顔で言う。
「あられちゃんみたいですわね」姫がクスクス笑う。*21)
「いーじまんなら、直ぐに一流コックになれるよ」
みやめが、いーじまんの肩を叩いた。
「僕もいーじまん君を見習って良いお巡りさんになるよ」
一鍵(いっきい)、元の職場にはもう……」
ここあが折角、元に戻った顔を歪める。
「私達も当分、身を隠した方が良いでしょうか」
屋根上がおずおずと聞く。
「皆さん、一緒に暮らしませんこと?北陸に山荘を持っていますの」
姫が提案した。
「まあ、素敵。借りぐらしも有りえってよ」
屋根上夫妻が大喜びをする。
「姫……ありがとう」
みやめがまた、泣きじゃくる。
「妖怪王が来たら、『ここあとルミの王女』軍団で、今度こそやっつけてやろう」
「そう言う姉貴はパクリの女王だな」
「パロディだよ」
ここあが、一鍵(いっきい)をブッ飛ばす。

一鍵(いっきい)さん。お巡りさんで無くても、仕事はありますわ。当分、ここで……」
「当分ってどのくらい?」
「まあ。ほんの50年いや、100年かな」
ここあが答える。
「ひゃ、百年―――?」
「あら、百年なんて、あっという間よ」
「そうですわよ。一鍵(いっきい)さん」
「姫……そうか、僕達は妖怪同士になったんだから、もう何の障害も……」
「あ、でも、私は一鍵(いっきい)さんより年上ですわ」
「なんの。愛があれば歳の差なんて。100年経てば、119歳と120歳なんて大して変わらなく……」
「あのう……私、百年以上生きてるんです」
「い、いいんです。100歳だろうと200歳だろうと、僕は姫を愛しています」
一鍵(いっきい)さん」
二人は見つめ合い、そして、熱い口づけを……。

ボカッ!
「痛いっ。何すんの、姉貴?」
「人前ですんなって。フン、別に羨ましくなんかないよ、嫉妬なんかしてないよ」
「意地張っちゃって……姉貴もいい人、見つけたら?そうだ、今夜は皆でお酒でも飲もうよ」
一鍵(いっきい)がクイッと手首を上げる。
「……私、グランツの18年物がいいわ。おお、マリオマリオ。どうしてあなたはマリオなの?」
「は?姉貴ってば、大丈夫?」
「私だって、忘れられない想い出があるの。ああ、私のマリオ。また、会えるかなあ……」
「マリオ?コンピューターゲームのことかな?」
一鍵(いっきい)は頭を傾げた。
「そうだわ。人間と恋するからいけないのよ。マリオは今まで出会った男性の中で一番、私好みで一番、私に好意を抱いてくれたわ。そうよ、彼も妖怪にしてしまえば、永遠の時の流れで添い遂げることが出来るわ。ああ、マリオ、待っていて。今、会いに行きます」
「あーっ、姉貴、どこいくの?」

ここあは風のように消えた。


*21)1981/4/8~1986/2/19『Dr.スランプ アラレちゃん』フジテレビ、東映.(2017/3/27アクセス)

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