第15話

文字数 1,329文字

  
妖怪王は饅頭を口でキャッチした。
「おおっ、これは新潟名物、鮭まんじゅう。うーん、醤油の香りが何とも言えん」
すっかりご満悦である。*10)
「わーい、当たったー」
いーじまんは大喜び。
「やれば出来るじゃないか……ってか、何も起こらないぞ」
「えっ?老舗笹川餅屋の限定販売だよ。爆弾なんか仕込む訳……」
「私が食べたかったー」
ここあが白衣の襟首を揺すって悔しがる。
「チッ、こうなったら私が相手よ」
ここあは大きく息を吸い込み、白い歪な輪っかをピューッと吐き出した。
「あーっ、姉貴の入れ歯がー」
「入れ歯じゃない、出し歯よっ」

飛んで飛んで飛んで飛んで飛んで……
ガブリッ!
歯は妖怪王の肩に噛み付いた。

「げっ。これがダイヤを引き千切った凶器?」
喰らい付いた歯はギリギリ、ギリギリ歯ぎしりをする。
「って、噛み付いただけ?……」
「私の歯は虫歯だらけ。これを見よっ」ここあがウェブを開く。
『アマルガムは噛み合わせの際など摩擦が生じた時に、水銀を含んだ蒸気を発生します。蒸気化した水銀は毒性の気体で、肺に入り、動脈に入り、腎臓、肝臓そして、脳に蓄積されていきます。』*11)
「アマルガム、恐るべし」
ここあが残身の構えを取る。
「それって、敵が倒れる前に自分が倒れるじゃん」
一鍵(いっきい)がつっこむ。

*10)新潟商工会議所会員企業紹介サイト「㈲笹川餅屋」www.niigata-cci.net/com/sasagawamochiya(2017/3/25アクセス)

*11)MOCA-ハーネット事務局.「銀の詰め物、それとも白い詰め物?」http://www.j-dol.com /(2017/3/23アクセス)



ここあの歯はしぶとく食い下がる。
妖怪王はやおらスマホを取り出すと、片手でタップし、ニヤリと笑う。
「ええいこのしつこたらしいあまめ、すっとこどっこいあっちけあっちけほーいほい」
「クッ……ひらがな……」
ここあの歯から力が抜けた。
バキッ!弾き飛ばされた歯は、ここあの口の中へホールインワン。
「わっはっは。個人情報をネットに乗せると、こうなるんだ、覚えておけ」
「ネットにのせる、は『乗せる』じゃなくて『載せる』よ」
ここあが叫ぶ。
「貴様。その技、『引っ越し』のパクリだな」*12)
「パロディだわよ」
ここあが負け惜しみを言う。
「フン。俺様を倒したいならもっとデカい技を出して見ろ」
……デカい技、何処かに居ないか?一発逆転を狙える予想外の大物が……いた!
「屋根上夫妻。あなた達、何か技は?」
ここあが駆け寄る。
「いえ、私達は争いを好まない平和な妖怪ですから。ね、あなた」
「そうだね、おまえ」
夫妻は微笑み合って、岩盤の隅の小岩にちょこんと腰掛けたままだった。

姫の母とメアリーは未だ、優雅にお昼寝中である。
「ええい、どいつもこいつも役に立たん」
ここあは地団太を踏んだ。
「次は私の出番ですわね」
姫が見かねて一歩前に出る。
「むむ」
妖怪王が後ずさりをした。

ドンッ。
「おお、妖怪王がひるんだぞ。ってか、今、音しなかった?」
一鍵(いっきい)、幻聴よ」
「姫、ち、近寄るな」
王は顔色を変えた。

*12)いーじま(2017)『ショート頭ショート』「引っ越し」(星の砂)宇都宮ケーブルテレビ.(2017/3/27アクセス)




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