第17話

文字数 1,595文字

「幻覚だったのか」
「電車だから、雷を通さなかったのね」
みやめの鋭い指摘。
「疲れたわ……」
姫がくずおれる。
「姫、大丈夫ですか?クソッ。僕が相手だ」
一鍵(いっきい)が折れた鉄パイプを拾う。
「愚か者め。人間ごときにワシが負けるとでも思っておるのか?」
「姫の大切な父上の形見、僕が取り戻して見せる」
「生きてますってば」
姫がつっこむ。

一鍵(いっきい)は両手で鉄パイプを持ち中段に構えた。
突然の空気の変化を感じた妖怪王は戸惑う。
「ドゥアア……アアァ、ヤアアアーッ!」
一鍵(いっきい)は、妖怪王を正面に凄まじい気迫を発した。
車両内の空気がビリビリと振動し、その全てが妖怪王を刺す!

一鍵(いっきい)の気迫。
そこらの妖怪ならば、ちびって泣き出してしまうだろう。
一鍵(いっきい)自身も、どうして自分が妖怪相手にこんなことをしているのか分からなかった。
「さあ、どうする、妖怪王?逃げ出すかーっ?」*15)
すると、妖怪王が片手でチョンと鉄パイプの先を突いた。

「うわぁっ」
カラーン!
鉄パイプに電撃が走った。一鍵(いっきい)は手を離し、腰を抜かす。
「バカめ」
妖怪王は鼻で笑っている。
「バカ!妖怪相手に武道や拳法が通じるかっ」
ここあが怒鳴る。

「ちょっと待ったー。さっきのは明らかに盗作だ。12行目から21行目まで『GOLD~豪剣の契り~』まんまじゃないか」
一鍵(いっきい)は抗議した。
「男のくせに細かいわね、パロディよ」
「酷い、あんまりだ。ヒロインとヒーローの感動の名場面をお笑いコメディにするなんて……」
「うるさい。一鍵(いっきい)、こうなったら、あの手しかない」
「誤魔化すなよ……えっ、あの手って.まさか……」
「そう、そのまさかよ!」
「嫌だあーい」
一鍵(いっきい)が、電車の中心で、(あーい)を叫ぶ。


ここあはポーチを取り出し、チークにマスカラ、付け睫毛で目にも留まらぬ早業メイクをする。
「ああっ」「おおっ」「な、なんと」
「私よりも美しいわ」
姫が顔色を変える。
白雪姫のごとき絶世の美少女の出現に、妖怪王は脂汗を流し始めた。*16)
「やっぱりね。一鍵(いっきい)は昔から女の子みたいに可愛かったのよ」
「この世の者とは思えぬ美しさ。く、苦しい……」
しかし、王は『星の雫』を離さない。

「どうすれば……そうだ。一鍵(いっきい)、あの衣装を着るのよ」
「え、嫌だー。あれだけは絶対に」
「それーっ」
暴れる一鍵(いっきい)を皆で押さえつけ、服をはぎ取り、着替えさせた。

「うわっ」「ぶっ」「わ、笑える……」
顔だけ白雪姫の、おかっぱ頭のちび○るこちゃんが昭和のサスペンダー付きスカートをはいて、踊るポンポコ〇ンの歌に合わせてフラダンスを踊り出した。
妖怪達は声を合わせて「パッパ〇ラパー♪」と大合唱した。

王の全身がブルブル震え、涙と鼻水を垂らし始めた。
「ダメ押しーっ」
ここあが紙切れに何やら書きなぐって押し付ける。
「ああっ、これは……」
それは、一枚の楽譜だった。
「いいから、歌えっ」
ここあが握りこぶしを振り上げる。
一鍵(いっきい)は戦慄した。
「はっ。まさか、これが『戦慄の楽譜』……?しょぼい、しょぼ過ぎるがヤケクソだーっ!*17)
一鍵(いっきい)は、いきなり電車の端から端まで走りながら大声で『カエルの歌』を歌い始めた。*18)
「この歌声を消させはしない。この旋律が……旋律が狂ってるぅー」
ここあが狂喜乱舞する。*17)
しかし、周りがやけに静かだ。妖怪達はポカーンと口を開けてフリーズしている。

「しまった。滑ったか?」
一鍵(いっきい)は妖怪王を振り返る。

*15)いっき(2017)『GOLD~豪剣の契り~』(星の砂)宇都宮ケーブルテレビ.(2017/3/27アクセス)
*16)いっき(2016)『白雪とギャル男』(星の砂)宇都宮ケーブルテレビ.(2017/3/27アクセス)
*17)2008/4/19 『名探偵コナン戦慄の楽譜』東映、トムス・エンタテイメント.(2017/3/27アクセス)
*18)いっき(2016)『電車のバスガイドさん』(カクヨム) KADOKAWA.(2017/3/27アクセス)



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