第14話

文字数 1,536文字

 
突如、みやめが叫ぶ。
「ちょっとー、なんで崖が出てこないのよ! この手のサスペンスじゃあ、犯人の告白は崖って決まってるのよ!」 
「んな無茶な……」
一鍵(いっきい)が呆れる。

・・・…と
ジャージャージャーーン♪
ジャージャージャーーン♪
お馴染みの音楽が鳴り響き、ダイニングカーが消え、断崖絶壁となる。

「そう来なくっちゃ!」
みやめは坊やに頬ずりした。

妖怪王は崖を背に妖怪達と対峙する。
巨大な岩盤の上には大小の石がゴロゴロしている。

「おう。戦いやすくなったじゃん」
ここあもニヤリと笑う。
「ひええーっ。な、なんで?」
今にも崩れそうな足元に、一鍵(いっきい)が震え上がる。
「妖怪王。よくも、妖怪の心を弄んだわね。私は妖怪みや女神、行くわよーっ」
みや女神は坊やを抱いたまま、勢いよく回転する。
「妖怪みやメガネビーム―ッ!」
ビビビビ―ッ!
あやめ色の光線が空を切る。
ビシュッ!妖怪王が指一本で跳ね返す。
パーンと音がして白い粉が起ち、みや女神ががすかさず、「燃えちまえ」と八つ当たりの呪い*7)をかける。
粉はパッと燃え上がったが、妖怪王の髪の毛を数本焦がしただけだった。
「みやめ」
大地がサッと歩み出て、紙飛行機を飛ばした。それは火花を吹きながら縦横無尽に飛び回り、その軌跡に炎の文字を浮かばせた。
「かいてんおおうりだし?」
一同は文字を読み上げ、おなじソラを見上げた。*8)

「意味ないし」
一鍵(いっきい)がガクリと肩を落とした。
「みやめ……」
「間違えたのね。いいのよ、あなた」
「わっはっはっは。相手にもならんわ」
妖怪王はふんぞり返って笑った。

*8)山吹あやめ(2017)『おなじソラを見上げてる』(星の砂)宇都宮ケーブルテレビ.




「妖怪王、よくも騙したな」
井伊次饅(いいじまん)が床から起き上がった。
「ってことは、井伊次饅も妖怪?あいつとグルだったの?」
ここあが問い詰める。
「う……『星の雫』を手に入れたら、コック長にしてくれるって言うから、姫たちのワインに眠り薬を……」
「それで、『星の雫』を引き千切られても、目が覚めなかったのね」
「本物の車掌は荷物室に……僕が間違ってました。『星の雫』を取り戻します」
「して、いーじまんの本名は?」
「戦隊ヒーロー妖怪いーじまんだ」
いーじまんはポーズを決めた。
「喰らえ。肉まん10連発」
いーじまんはコックコートのポケットから肉まんを取り出した。
「えいっ」
バーンッ!
いーじまんが肉まんを投げると、妖怪王の後ろでポンッと炸裂した。
「もっと、狙って!」
ここあが怒鳴る。
「えいっ、これでもか、これでもかっ」
いーじまんはポケットから肉まんを取り出し、千切っては投げ、千切っては投げ……肉まみれになった。
「千切らなくて、いんじゃね?しかも、1つも当たってないし」
一鍵(いっきい)がつっこむ。
「あ、肉まん無くなっちゃった」
いーじまんはテヘぺロと可愛く舌を出した。
「いーじまん君、他に技無いの?」
一鍵(いっきい)が聞く。
「まだ、カレーまんがあります。ピザまんも」
「そうじゃなくて、もっと破壊力のある……」
「う……ど、どうせ僕は皆さんみたいに凄い技は持ってないです。メガネビームも打てないし、開店大売出しの紙飛行機も飛ばせないし……」
「それ、羨む程のもんじゃないから」
みや女神が苦笑いする。
「う、羨ましくなんかないぞ。嫉妬なんかしてないぞっ」
いーじまんが涙を浮かべる。
「か……」「可愛い~」
ここあと、みやめが声を揃えてはしゃいだ。
「こーなったら、取って置きの技、行くだにゃー。跳べっ笹川!」*9)
いーじまんは小さな饅頭を取り出し、力いっぱい投げた。
「姉貴。また、パクリかよ」
一鍵(いっきい)がつっこむ。   
「いいえ、パロディーよ」
ここあが主張する。

*9)いーじま(2017)『跳べっ笹川!』(星の砂)宇都宮ケーブルテレビ.(2017/3/27アクセス)



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