第11話

文字数 671文字

 
「よし、こうなったら自力で……姉貴、覚悟っ」
一鍵(いっきい)がいきなり、ここあの口に指を突っ込んだ。
「ら、らめろ、いっいー……おっ、おえーっ」

ピーーーーーーーーーーー
(好ましくない描写につき、割愛させていただきます)

洗面器の中で、台座の付いた宝石が揺らめいている。
「間違いないようですわ。でも……」
姫はそれを遠目で確認し、顔を背けた。  
怪しい色をした薄膜に覆われた表面は曇り、濁っていた。

「やあ、無事に発見出来て良かったですね。明日の業務に差し支えますので、僕はこれで」
万里王子はサッと車両を後にした。

一鍵(いっきい)はショックだった。
非常識の塊の姉だが、泥棒だけはしないと信じていのだ。
……一体、いつ?あの目覚めた時が犯行の後だったのか?
でも、刃物は持って無かったし、盗んだ記憶も無いなんておかしいぞ……
「ああ、姫様の大切な宝物がこのような汚らわしい……」
メアリーが、よよと泣き崩れた。

「あのう、僕にお任せ頂けないでしょうか」
脇に控えていたコックの伊井次饅(いいじまん)が歩み出た。
「バーテンダーの名に掛けて元通りのピカピカにして見せます」
「まあ。姫、お願いしてはどうかしら」
婦人が目を輝かせた。
「そうですわね、お母様。メアリーお渡しして」
伊井次饅は、すえた臭いのする洗面器を恭しく掲げてオープンキッチンへと向かった。車掌が念のため、直ぐ後について行く。

「皆様、大変ありがとうございました」
姫が残り一同に礼を言う。
「姫、この下賤な女を許すのですか?」
婦人がここあを蔑んだ目で見る。
「……お約束しましたもの」
「奥様、少しお休みなられては」
メアリーが婦人をベッドへ誘導した。

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