第7話

文字数 1,079文字


「あー、お腹いっぱい」
ここあは部屋のベッドで寝転ぶ。
「某国のお姫様、ラウンジに出て来なかったな」
一鍵(いっきい)が呟く。
一鍵(いっきい)、もしや、あの姫を……?」
「ひと言、お話がしたかったな」
一鍵(いっきい)は壁にのの字を書く。
「してくれば? 3号車って隣じゃん」
「まさか、面識も無いのに」
「誰だって、初対面から知り合うのよ。なんなら、私も一緒に……」
「んなこと言って、スイートが覗きたいんだろ?」
「それもあるけど、あのネックレスが着けてみたいの」
「えっ?あの姫だから、着ける価値あるんだよ。姉貴が着けたら顔の存在価値すら無くなるよ」
「そこまで言うなら、力尽くでも……」
「ダメだよ、人の物欲しがっちゃ。仮にも僕は……」
「ふーんだ。もう、寝る。おやすみ、一鍵(いっきい)

グオー、スピー……。
「早っ。ああもう。戸締り、戸締り……」



夜中の12時。
不審な物音で、一鍵(いっきい)は目覚める。

……ん?何だ?……
衣擦れ。そして荒い息遣い。
「誰だっ」
飛び起きると、寝惚けたここあがネグリジェを引きずっていた。

「だ、誰か助け……」
ベッドに縛り付けられ、ここあが喚く。
「人迷惑だから静かにしろって」
一鍵(いっきい)、あんただったの。困った子ねえ。美しい私は皆の物。しかし、それほどまでに望むのなら……」
ボカッ!
「一生、寝てろ、酔っ払い」

ここあは再び眠りに就いた。



寝台列車が夜のしじまを走り抜ける。
「きゃーーーっ」
突如、闇を裂く悲鳴。
「なんだっ?」
「ん?どーした、一鍵(いっきい)
「今、悲鳴が聞こえた」
一鍵(いっきい)に続き、ここあも個室を飛び出した。
前の部屋からもパジャマ姿の男が出て来た。
「あ、初めまして。僕、屋根上と言います」
「どうも。一向です。今、後ろの方から悲鳴聞こえましたよね?」
「ああ、行きましょう」
後ろの2号車Cのドアが開き、眠そうな顔をした大地と息子を抱えたみやめが出て来る。
「花吹雪さん達も聞こえたんですね?行きましょう」
連結部分のドアはすんなりと開いた。
狭い通路を並んで3号車へ向かう。
3号車は一両まるごとを1室とした最高級スイートである。リビング・ダイニングに寝室、プライベートバルコニー、バスルーム、トイレも備えつけられ、全ての部屋の窓から景色が望めるのだ。
スイートの入り口は閉まったままだ。
コンコンコン!一鍵(いっきい)がノックをする。
「エクスキューズミー。グッドイブニング。ハーワーユー。ミス、ミス……」
「日本語でいいんじゃない?こっちが長いらしいから」
ここあが言う。
「それ、早く言ってな」

ガチャンッ。
大きな音がして、重い扉の中から血相を変えた美しい婦人が現れた。 

「責任者を呼んで頂けますか?姫のダイヤが盗まれたのです」

 
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