第18話

文字数 818文字


「マズイ。ツボにはまってしまった。ワッハッハ。これは笑える。イーヒヒ苦しいー」
妖怪王の手から遂に妖怪宝石が零れ落ちた。

「いただきっ」
みや女神のメガネブーメランが光り、カーブを描いて戻って来る。
『星の雫』は煌めきながら姫の手の中にスッポリと収まった。
「くそーっ。下等な妖怪どもが、覚えておれーっ」
突如、現れた巨大鳥獣が列車の外から嘴で大窓を叩き割った。
時速800キロの風を食らって、ガラスが車両内に飛び散る。
「危ないっ」
一鍵(いっきい)が姫を庇う。
妖怪王は風圧を物ともせず、割れ目をすり抜け、鳥獣の背に飛び乗った。
「逃げられたか」
みやめが舌を打つ。
「人間業とは思えぬこの惨状。犯人は逃げた……私たちも逃げないと」
室内はありとあらゆる調度品が破損し、荒れ放題である。
窓ガラスの破壊はシステムに関知されたに違いない。
「そうね。私たち、戸籍無いし、掴まったら面倒ね」
「よし、皆で行こう。一鍵(いっきい)ほれ、掴まって」
ここあが手を出す。
「う……」
一鍵(いっきい)は胸を押さえ顔を大きく歪めている。
一鍵(いっきい)、どうした?」
「ゲボッ」
一鍵(いっきい)が真っ赤な血を吐いた。
「きゃあーっ」
姫が叫ぶ。
胸から手を離した途端、噴水の様に血が噴き出す。 
「大変、ガラスが刺さったのよっ」
みやめが叫ぶ。
一鍵(いっきい)、どうして避けなかった?」
「私のせいですわ」
姫が真っ青になる。 
「僕は、いい……早く逃げ……」
「バカヤロー、おまえを置いて逃げれるか」
ここあが怒鳴る。 
いっきーの全身を痛みが貫き、冷や汗が流れ、目の前が暗くなる。
「しっかりしろーっ」
ここあの声が聞こえる。

瞼の裏を走馬灯のように流れるのは、同じ顔ばかりだった。
短いけど、楽しい人生だったな……小さく唇を動かす。 
「もう無理です。出血が……」
周りの声がだんだん遠くなる
一鍵(いっきい)の頬に涙が滴り、赤い海に流れて行く。

ピ――――――――ッ!
「大変、緊急停止の合図よ」
一鍵(いっきい)は薄れる意識の中で強い風と温もりを感じた。
やがて、その感覚も無くなり、何も分からなくなった。



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