第19話
文字数 1,583文字
目覚めると、辺り一面美しい花畑だった。
「ここは天国……? そうか、僕はもう……」
ゴロゴロゴロ……
「あれ、雷?天国で雷?」
ボカッ!
いきなり、殴られた。
「痛ぇ!何すんだよ、姉貴」
一鍵 は頭を押さえた。
「一鍵 さん、良かった」
姫が涙を浮かべている。
「雷は私が呼んでしまいましたの」
「あ、気が付いたのね、良かった」
みやめも涙を拭う。
「心配なんかしてないぞ」
いーじまんも涙ぐんでいる。
「あれ?どうして皆……まさか、皆も死んだの?」
「バカ、誰も死んでなんかない」
ここあの顔はクシャクシャになっている。
「え?だって、僕は胸をやられて……」
一鍵 は胸に手を当てるが、痛くもなんともない。
「え?どーゆうこと?夢だったの?」
「こういうことよ」
ここあがいきなり、一鍵 の手の甲にズブッと爪を立てた。
「ぎゃー、痛い!血が、血が、血……?」
流れる血が止まり、傷口は跡形も無く消え、緑色の血糊だけが残った。
「……」
「許せ、一鍵 。こうするしか無かった」
「嘘だろ?僕、妖怪になったの?あ、でも人間と血が混じるとどっちも消滅するって……」
「混じってない。全て抜いて、入れ替えた……いつかは、あんたを見送る時が来ると覚悟してた。でも、今じゃない。どうしても、生きて欲しかった」
ここあが顔を歪める。
「……不老不死か……」
「不老には技術が必要なの。ま、頑張れば、20年で習得出来るでしょ」
「え?」
「あまり早くやっちゃうと困るんだよ。私みたいにね」
みやめが口を挟む。
「みやめ……」
大地が物言いたげに、みやめを見る。
「そう。私に似て優秀過ぎた坊やは1歳で老化を止めてしまった。何年経っても、大きくならない……。『星の雫』を前に覚醒した時、これさえあればと一瞬思ったわ。
でも、チェーンを切る道具が無くて諦めたの」
「嘘。みやめちゃんのメガネビームなら、ネックレスを焼き切れた筈。みやめちゃんは優しいから盗らなかったんだよ。私は平気で噛み千切った。酷いよね。最低だよ」
ここあがクシャクシャの顔で笑う。
「そうだ。例え操られようと、正しい心があれば、悪いことは出来ないはずだ。これは、姉貴がいかにズルくて卑しくて根性が意地汚く……」
一鍵 の口は止まらない。
パチーン!
姫が一鍵 の頬を打つ。
「姫、な、何を……」一鍵 は驚いた。
「一鍵 さん、言い過ぎですわ。あの時、助かる確率は殆どなくて、二人共消滅していたかもしれないのですよ。一鍵 さんがいなければ生きる意味が無いって、ここあさん、半狂乱で……」
「……ごめん、姉貴。ってか、いつまで、変顔してんだよ」
一鍵 は、ここあのクシャクシャの顔を見た。
「うるさい。これは恐怖のあまり、顔が紙くずのようになって、お湯に浸けても戻らないのよっ」
「それって、『注文の多い料理店』のパクリ?」*19)
「違う、パロディよ」
ここあが言い張る。
「パクリとパロディの中間ってとこ?これって、出演者にはモロ、『注文の多い小説』だったよな。読んだら、実に『注釈の多い小説』だし」
ぼやきながらも一鍵 は付け足す。
「でも、まあ……結構楽しかったよ」
「あー。一鍵 さん、照れてる。可愛いー」
みやめが笑った。
「みやめちゃん、『星の雫』はあなたにあげます。これで、空 ちゃんを大きくしてあげて」
姫が宝石を坊やの胸にそっと乗せた。
「いいの?姫、本当に?」
みやめは、ゆっくり夫を振り返る。
「みやめ」
大地 が優しく微笑み、両手を開く。
「あ、ありがとうー」
みやめは夫でなく、姫に抱き付いた。
そして、息子の空を高く捧げ、皆もおなじソラを見上げた。*20)
「そのパクリ、もうやったじゃん」
「コンセプトが違うわよ」
*19)宮沢賢治(1924)『注文の多い料理店』新潮文庫、新潮社.(2017/3/27アクセス)
*20)山吹あやめ(2017)『おなじソラを見上げてる』(星の砂)宇都宮ケーブルテレビ.
(2017/3/27アクセス)
「ここは天国……? そうか、僕はもう……」
ゴロゴロゴロ……
「あれ、雷?天国で雷?」
ボカッ!
いきなり、殴られた。
「痛ぇ!何すんだよ、姉貴」
「
姫が涙を浮かべている。
「雷は私が呼んでしまいましたの」
「あ、気が付いたのね、良かった」
みやめも涙を拭う。
「心配なんかしてないぞ」
いーじまんも涙ぐんでいる。
「あれ?どうして皆……まさか、皆も死んだの?」
「バカ、誰も死んでなんかない」
ここあの顔はクシャクシャになっている。
「え?だって、僕は胸をやられて……」
「え?どーゆうこと?夢だったの?」
「こういうことよ」
ここあがいきなり、
「ぎゃー、痛い!血が、血が、血……?」
流れる血が止まり、傷口は跡形も無く消え、緑色の血糊だけが残った。
「……」
「許せ、
「嘘だろ?僕、妖怪になったの?あ、でも人間と血が混じるとどっちも消滅するって……」
「混じってない。全て抜いて、入れ替えた……いつかは、あんたを見送る時が来ると覚悟してた。でも、今じゃない。どうしても、生きて欲しかった」
ここあが顔を歪める。
「……不老不死か……」
「不老には技術が必要なの。ま、頑張れば、20年で習得出来るでしょ」
「え?」
「あまり早くやっちゃうと困るんだよ。私みたいにね」
みやめが口を挟む。
「みやめ……」
大地が物言いたげに、みやめを見る。
「そう。私に似て優秀過ぎた坊やは1歳で老化を止めてしまった。何年経っても、大きくならない……。『星の雫』を前に覚醒した時、これさえあればと一瞬思ったわ。
でも、チェーンを切る道具が無くて諦めたの」
「嘘。みやめちゃんのメガネビームなら、ネックレスを焼き切れた筈。みやめちゃんは優しいから盗らなかったんだよ。私は平気で噛み千切った。酷いよね。最低だよ」
ここあがクシャクシャの顔で笑う。
「そうだ。例え操られようと、正しい心があれば、悪いことは出来ないはずだ。これは、姉貴がいかにズルくて卑しくて根性が意地汚く……」
パチーン!
姫が
「姫、な、何を……」
「
「……ごめん、姉貴。ってか、いつまで、変顔してんだよ」
「うるさい。これは恐怖のあまり、顔が紙くずのようになって、お湯に浸けても戻らないのよっ」
「それって、『注文の多い料理店』のパクリ?」*19)
「違う、パロディよ」
ここあが言い張る。
「パクリとパロディの中間ってとこ?これって、出演者にはモロ、『注文の多い小説』だったよな。読んだら、実に『注釈の多い小説』だし」
ぼやきながらも
「でも、まあ……結構楽しかったよ」
「あー。
みやめが笑った。
「みやめちゃん、『星の雫』はあなたにあげます。これで、
姫が宝石を坊やの胸にそっと乗せた。
「いいの?姫、本当に?」
みやめは、ゆっくり夫を振り返る。
「みやめ」
「あ、ありがとうー」
みやめは夫でなく、姫に抱き付いた。
そして、息子の空を高く捧げ、皆もおなじソラを見上げた。*20)
「そのパクリ、もうやったじゃん」
「コンセプトが違うわよ」
*19)宮沢賢治(1924)『注文の多い料理店』新潮文庫、新潮社.(2017/3/27アクセス)
*20)山吹あやめ(2017)『おなじソラを見上げてる』(星の砂)宇都宮ケーブルテレビ.
(2017/3/27アクセス)