第12話

文字数 1,512文字

「バーテンダーって、自分の心を磨くようにグラスを磨くんですって。私も見て来ようっと」
みやめが坊やを抱っこしたまま、するっとキッチンへ滑り込む。大地も妻の後を付いて行く。
「私達も見学させて貰いましょうよ」
屋根上夫妻もキッチンへ行く。
姫とここあ、一鍵(いっきい)の3人が広間中央に残った。
ベッドでは婦人とメアリーが早くも寝息を立てている。

「あのう、一体なぜ、こんなことになったのか、僕も分からなくて、これには何か見えない力が働いているとしか……」
|一鍵「いっきい」が、しどろもどろで言い訳をする。
「妖怪ね」
ここあが言う。
「そう、妖怪……えっ?」一鍵(いっきい)はギョッとする。 
「あなた、さっき笑ったわよね 」ここあが姫にドヤ顔を向ける。
「何のことかしら?」
姫は美しい眉を潜める。
「忘れたとは言わせない」
「そんな昔のことは忘れたわ」
「それも古いギャグね。ドジでのろまな亀というのは、国民的人気ドラマ『スチュワーデス物語』*5)のギャグよ。あなたはこのドラマを観ていた。
と言うことはウン歳以上のはずなのに、どう見ても20歳なんて、妖怪に違いないわ」
「無茶言うなよ」
一鍵(いっきい)が怒り出す。
「無茶じゃない。一鍵(いっきい)、これを小学校の算数の問題にしたらどうなる?」
「意味わかんないし」
「『スチュワーデス物語』のギャグを理解できる人はウン歳以上です。Aさんは理解出来ました。Aさんは何歳以上でしょう?」
「そんな問題……あ、解けた」
*5)1983/10/18~1984/3/27『スチュワーデス物語』TBS,大映テレビ.(2017/3/27アクセス)



 
「いやいやいや、解けないぞ。僕が問題を出す。太郎君はケーキを7個買いました。3人が1個ずつ食べたら、プリンは何個残りますかっ?」*6)
ボカッ!
「解けない問題を出すなっ」
ここあが、一鍵(いっきい)をぶん殴る。
「痛―っ!ってか、これツイッタ―のパクリじゃね?」
「バレたか」
「いい加減になさって……そうですわ。最近、懐かしのアニメ・ドラマ特集を観ましたの。それも偶然、チャンネルを回したらそのシーンが……」
姫は必死で説明をする。
「ふふふ。語るに落ちるとは、このことね。チャンネルを回すという表現は1980年代までで
、ダイヤルでチャンネル操作をしていた時代の名残よ。20歳の人が使う筈ないわ」
ここあの勝ち誇った顔に姫は青ざめる。
「ちょい待ち。んなことで妖怪判定していいのか」
一鍵(いっきい)は姫を庇う。
「何と言う頭脳の持ち主なの……その通りよ」
ガクッと姫が項垂れた。
「ホントかよ」
「なーんて、実はネットであなたが百歳以上と書いたコメントを見ちゃったのよね」
ここあが舌を出す。
「まあ。人の私信を覗き見するなんて……」
「あら。あなたもするんじゃない?ネットサーフィン」
「そんなこと……コホン。そうですわね、閲覧自由ですし……」  
「そうよ、自由よー。ありの~ままに~*7)よ。妖怪同士、仲良くしましょう」ここあは握手を求める。
「宜しくお願いしますわ」
二人は和気あいあいとなる。
「そんな、ルミ姫が妖怪だったなんて……」
異様な盛り上がりを見せる女達を尻目に、一鍵(いっきい)はひとり呟く。
「あの、その呼び方やめて頂けます?」
姫が困った顔で見る。
「え、どうしてですか?」
一鍵(いっきい)はドキリとする。

*6)SAHK(サーク)@JOKers(@sc-sahk)『【問題です】息子が解いた超難問である今日の宿題を解けますか?』https://t.co/jW0UyNeCWJ(2017/3/25アクセス)

*7)アナと雪の女王 『ありのままで』 歌詞 https://ameblo.jp/pun02sai/entry-11795384646.html (2017/3/25アクセス)




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