第16話

文字数 1,483文字


「やはり、何かありそうね。『星の雫』を直接、私から奪わなかったのはなぜ?わざわざ他の妖怪に盗ませてから取り上げるなんて、おかしいわ。理由をおっしゃい」
「来るな……姫、近寄らないでくれ。お、俺様は真に美しい者に弱いのだ。
折角、そこのチンチクリンに盗ませたというのに」

「ちょっとー、それどーゆー意味?よくも私達をコケにしたわねっ」
ここあが憤怒の形相になり、額にピシピシと亀裂が入る。
「は?なんで、私達?一緒にしないでくれる?」
みやめとここあの間にも亀裂が入る。
「うるさい雑魚ども……うっ、来るな姫、それ以上近寄ると……」
妖怪王は顔を背けながら姫に向かって構えた。

「カミアリーナ姫。危ないから下がって」
一鍵(いっきい)が姫の前に飛び出した。
一鍵(いっきい)さん、止めないで。私、戦います」
「いや、ダメだ」
一鍵(いっきい)は姫を強く抱き止める。
「離してったら」
ボカッ!
「な、何するんだ。まるで姉貴みたい……あれ?」
いっきーの目の前に、おかめの顔をした見知らぬ女がいる。
「君の名は……?」
「私は妖力を使う時は顔から緊張が抜けるのです」
姫が答える。
「……抜け過ぎだよ」

「メアリー、ここへ」
「はい。姫様」
いつの間に目覚めたのか、メアリーが木の桶を差し出した。
「あれ?そんな桶どこにあったの?」
一鍵(いっきい)が首を傾げる。
「私はいつでも、この桶を担いでいます」
「沼地の精霊のダリルみたい……ってか、気付かなかった」*13)
姫が呪文を唱えると、桶の中からグロテスクなジュスタンの女神像が現れた。*14)
姫はそれを妖怪王に向かって満身の力を込めて押した。
しかし、女神像は非常に重かったので、グラングランと右に左に大きく揺れ、姫に向かって倒れて来た。

*13)神在琉葵(2017)『沼地の精霊』(星の砂)宇都宮ケーブルテレビ.(2017/3/27アクセス)
*14)神在琉葵(2017)『めぐり逢い~遥かなる時の彼方で』(星の砂)宇都宮ケーブルテレビ.
(2017/3/27アクセス)


「あれえー」
姫は(すんで)の所で避け、尻餅を突いた。
「姫様、しっかり。本当にドジなんですから」
「えっ、そうなの?」
一鍵(いっきい)が驚く。
「ドジでのろまなカメというのは姫様の十八番でございます」
「おや、人は見かけによらないものですね。でも、お茶目で可愛いな」
一鍵(いっきい)は嬉しそうに笑った。
一鍵(いっきい)さんたら……」
姫が赤くなった。
「でも、今度は失敗しませんわ」
姫は別の呪文を唱え、天高く両手を捧げた。

ゴロゴロゴロ……ピシピシッ!
ズガガガァーーーンッッ!!

「私の本当の名は『妖怪カミナリーア・ルミ』。雷を呼ぶ力があるのです」

ビリビリビリビリ……。

足元に激しい振動が伝わるが、それ切り、何も起こらない。
「なぜ?」
カミナリーアはおたふくな頬に両手を当てた。
力を出し切った姫の顔に緊張が走り、元の美しい顔に戻った。
「姫、もう妖力は使わないでください」
一鍵(いっきい)が、願いを込めて強く手を握った。
「えいっ」
みや女神がメガネビームを放つ。
サッと避けた妖怪王の脇をかすめたビームは見えない壁にぶち当たって、真っ直ぐ跳ね返った。
「危ない」
一鍵(いっきい)が叫ぶ。
みや女神は岩板を転がった。冷たい岩肌を撫でるとツルツルしている。
「まやかしよっ」
手元にあった丸い石を拾って、妖怪王へ投げ付ける。
グシャッ!
「うっ」
王の額で石が潰れてドロリと垂れる。

その瞬間、さっきまでの断崖絶壁が消え去り、元のダイニングカーとなった。
「こ、こしゃくな……」
妖怪王の顔は卵白卵黄に塗れていた。
ダイニングカーの棚は崩れ、冷蔵庫はへこみ、テーブルは滅茶苦茶に壊れている。
大理石の床にはドロドロの肉や卵、ガラスや食器の欠片が散乱していた。



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