ニック・バントック:ヴェネチア人の不思議な妻

文字数 759文字



 これは、とてもしゃれた大人向けの絵本です。副題が「ルネッサンスの探検家とコンピュータと化身をめぐる官能の物語」となっていることからもわかるように、美術館のしがない学芸員のサラに、15世紀のヴェネチア生まれの探険家、ニコロ・ディ・コンティが収集していたインドの彫像コレクション42体を再び集めてくれるよう謎の人物から依頼があり、そして……というお話です。

 文章の多くは、サラと謎の人物の間のメールとサラの書くコンピュータ日記ですが、そのようなスタイルを取っている理由も謎の人物の正体と密接な関連があり、必然性もなく今っぽさを出すためだけにメールやブログを登場させる小説などとは違い、とてもよく考えられていて感心させられました。

 サラがコンティのインド人の妻にして魔法使いのヤショーダーの化身(メタモルフォゼス)であることは、物語の中でははっきりと書かれてはいませんが、ストーリーの示すところは明白です。

 それより何より、シヴァ、ガネーシャ、カーリー(ユルスナールの記事でも触れました)、パールヴァーティといったインドの様々な神像を始めとして、ふんだんに載せられた絵画、イラスト、コラージュが多彩なイメージを喚起してくれます。

 この本の主役はこうした画像です。例えばサラの日記には食い違った蝶番のアイコンが、サラから謎の人物へのメールには車輪のアイコンが使われていますが、そんなところにも神経の細やかな知的センスが感じられます。

 ただ若干の注文を言えば、サラの自分の内面の想いを隠したいという気持ち、それが覗かれているのではないかという不安、でも知られたいという密かな欲望、そうしたものがもう少し前面に出ていれば、つまりストーリーにもうちょっとひねりがあれば、より官能性(センシュアリティ)が高まったような気がしました。

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