太盛とミウの会話。ミウの自宅のマンションにて

文字数 3,194文字

「いらっしゃい太盛君。紅茶でいいかしら? 
 ママは若い子達の邪魔はしないからゆっくりしていってね」

学園の支配者候補として恐れられたミウの母親、高野カコだ。
40代だが見た目はまだまだ若い。
茶色の豊かなショートカットにふちなしの眼鏡をかけている。

「ありがとうございます。でも今日はミウさんと
 一緒にテスト勉強をしにきただけなので夕方の5時過ぎには帰りますから」

「あら、つれないわねぇ。いっそ泊まっていってくれても構わないのよ?」

「はは……ご冗談を。うちの学校は男女の恋愛に関することは
 校則で特に厳しい決まりがあるんですよ。お気持ちだけ受け取っておきますね」

カコは「最近の子供は真面目なのねぇ」といいながら自分の部屋に消えてしまう。
カコはトレーディングルームと称する自室で今日の株価の終値をチェックする。
表向きは専業主婦とするこの奥さんは、
裏では株式トレーダーとしての顔を持っていた。

16時過ぎとなると欧州の外国為替市場が開くのでそちらも注視する。
この家は父親が証券アナリストで東京の証券会社で勤務しているので
完全なる資本家の一家だった。

この件がボリシェビキに知られたらミウは即逮捕されてしまうのだが、
父親は都内で単身赴任中としか書いてないから詳細は
奇跡的に知られていなかった。今となってミウは諜報広報部の
お気に入りになっているので、たとえ真実が知られたとしても
広報部のみんなが必死にかばってくれるだろうが。

「ママ、行ったよね?」
「ああ」
「太盛君。今私たち、私の部屋で二人っきりだよ」
「ミウ……わかったよ。たまたま唇が触れ合ったことにしよう」
「うん。たまたまだから仕方ないよね」

どちらともなく抱き合い、キスをした。
太盛は気持ちが盛り上がりミウの小さな胸をたくさん揉んだ。
いっそ胸が直接見たくなってしまったので彼女のブラウスのボタンを外す。

「あん……」

太盛が直接胸を触るものだからミウの吐息が漏れる。
愛おしい彼女の顔を、太盛は強く抱きしめながらまたキスをした。

「ミウ。好きだ。俺はやっぱり君のことが好きだ」
「私も大好きだよぉ。せまるくぅん」

すぐ隣の部屋にはミウのママがいる。二人が学校ではできないことを
するのはこの辺で自重することにして、テスト勉強を始めることにした。
「カップル申請書」の件があるから太盛は表向きエリカと付き合っていることに
なっているが、陰では高野ミウと浮気するという、
とんでもない関係となっていた。

なお、この件に関しては諜報部で公認されている。

ミウは2年の宮下に対しこう言ったのだ。
太盛君に自分の苦手な現代国語を教えて欲しいのだが、学校では何かと
気が散ることが多く、仕方なく自宅のマンションでやることにしたい。
これは漢字の読み書きが苦手な自分にとって学習効率を上げるため
仕方ないことであり、他意は無いので特に諜報部が操作する必要も無いと思う。

宮下はこう返した。
「帰国子女の高野さんの国語の成績を上げるためなら、仕方ありませんね」

もちろん本来なら言語道断なのだが、広報部の子達もこのふたりの
恋愛を応援する側に回っていたのでただちに賛同してくれた。

「やっぱり漢字を覚えるには書いて行くのが一番なんだね」
「そうだ。俺らだって小学生の時から書いて覚えたんだからな」
「同じ漢字をノートに10個ずつ書いていくのね」
「口に出しながら書いていくと覚えやすくなるぞ」
「さすが太盛君。教え方がうまい」
「ははっ。俺は普通だよ」

ふたりは絨毯の上に置かれた白い丸テーブルを囲って座っていた。
太盛は、にこにこしながらミウの漢字の書き取りを眺めていた。
もともとミウの容姿は好みだったので二人だけでいることに不満などない。

しかし太盛に罪悪感がないわけでもない。スマホのバイブが鳴る。
義理の兄になる人からメールだ。
『我が弟よ。最近私の遊び相手をしてくれないのでさびしいぞ。
またマリオテニスで遊ぼうじゃないか。任天堂のゲームにも飽きてきたので
今度はプレステ5を買おうと思うのだが、おすすめのソフトはあるかね?』

すぐに返信しないとアキラに悪いのだが、今この状況では返事がしにくい。
異常にカンの良いミウが、「太盛君。今誰かとメールしてるでしょ?」
とスマホを取り上げてしまう。太盛は悲鳴を上げそうになる。

「アキラさんって、前の会長のことか。ふーん……。
 エリカの兄上と太盛君は一緒にゲームするほどの仲良しさんなんだぁ。
 私全然知らなかったよ」

「ミ、ミウ。これはだな」

「アキラさんと仲良しになったきっかけって、君が去年の文化祭で
 エリカのお見舞いに行ったからだよね。
 あの時私のことは学校に置き去りにしてくれたよね。
 本当は一緒に前夜祭でダンスを踊るはずだったのにさ」

「ごめん……」

「今はもう気にしてないよ。こっちこそ空気を悪くしちゃってごめんね。
 でもあの時私は結構イラついたから口にしちゃっただけ」

「やっぱり俺なんていない方がいいよな。俺なんかいたら
 周りのみんなが不幸になっちまう。ごめんな……ミウ…・…」

「だから!! もう気にしてないってば!!
 そうやってマイナス思考になるのは太盛君の悪いところだよ。
 私が嫉妬深いせいで太盛くんに迷惑かけちゃったね。仲直りしよう?」

ミウは立ち上がり、太盛のそばに移動した。ミウがそっと自分の手を
彼の手に重ねる。見つめ合う。二人とも絵に描いたような美男美女であり
ルックスに差は無い。再びどちらともなく唇を重ね合う。

「私たちの関係は、ただの友達ってことにしておこうよ」
「友達なら規則違反にならないもんな。それに美術部員だ」
「そうそう。ものは言い様だよ。理由なんて後でなんとでもつけられる」
「ミウの体って暖かいんだな。なんか安心して眠くなってきたよ」
「少し寝る? 私が膝枕してあげようか」
「じゃあ少しだけ……・」

太盛は1時間くらいのつもりで寝たのだが、信じられないことに
目覚めたら夜の8時過ぎになっていた。実に4時間も昼寝をしていたことになる。

「やべえ!! 寝過ごしてしまったか!!」

体に布団がかかっていることに気づく。それにこの匂い。
枕から確かにミウの髪の毛の匂いがした。ここはミウのベッドだ。
この部屋には誰もいない。太盛は急に申し訳ない気持ちになり
今すぐ帰り支度をしようと思った。

「起きたの太盛君? 今日はシチューを作ったのよ。
 あなたの分まで作ったのだから食べていきなさいな」

とカコ。美人の娘の母だけあり年の割には十分に魅力的な女性だ。

「で、でも俺は」
「太盛君の家の人には電話しておけばいいじゃない」
「そうですね……。じゃあ夕食をごちそうになってから帰るってことで」
「のうのう。おうちの人には泊まるって言っておきなさい」
「ママさん!! 俺は高校生でしかも男なんですよ!?」
「ふふっ。そんなの見れば分かるじゃない」

食卓に大盛りのシチューやイタリアンサラダが並ぶ。
太盛は寝起きでお腹がすいていたのでお腹が鳴ってしまう。

しかし泊まることだけは避けようと思っていたのだが、
その時ちょうどミウがお風呂から上がってこちらにやってきたのだ。

「太盛君。起きてたんだね。私は今日は少し早めに入浴してたの」
「ミウ……君は……」
「真剣な顔してどうしたの?」
「その、綺麗だなって思って」
「え!!」
「やっぱりミウは美人だよ」
「ちょ、いきなり何言ってんの。うれしいけど……」

ミウは自分が美人だと自覚したことは一度も無いのだが、
彼氏に面と向かって真剣な顔で褒められたのでさすがに舞い上がる。
湯上がりで茶色の髪の毛が湿っているミウは、
それはもう天使のように美しかった。

太盛は学園生活を通じてアナスタシアやその妹のエリカ、斎藤マリエやクロエなど
数々の美少女をその目にしてきたが、やはり自分にとって一番好みなのは
高野ミウなんだと気付かされてしまう。本当にバカみたいな話だが、
この時ミウに改めて惚れてしまったのだ。
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