4月9日。午後の新入生歓迎会

文字数 2,512文字

体育館を出た後、無垢な新入生達は校庭に集められる。
校庭には無数のテントがずらりと横並びで設置してあり、
そこには運動系から文化系の部活まで計41の部活動の先輩方がいる。
それぞれが用意していた勧誘用の冊子を新入生に配っていく。

校庭の周囲はやはり完全武装した保安委員部の執行委員達が並んでいるのだが、
勧誘活動をしている先輩達はそんなこと気にもせず楽しそうな様子だった。

「うちの男子サッカー部は人数が不足してるので
 いつでもレギュラーが目指せますよ!!」

「我が校伝統の女子バレーです。根性のある人を求めます!! 
 目標は全国大会出場です!!」

「全国でも珍しい女子のボクシング部でーす!! 
 興味のある人はぜひ部活見学してください!!」

「水泳部は男子女子合同で勧誘を行っています!! 
 どうぞ冊子を手に取ってください!!」

各部活動は、具体的な活動内容や活動の記録をまとめた便利な冊子を配っていた。
所属してるメンバーの顔写真も載っている。生徒達は家に帰ってから
持ち帰った冊子を見て気になった部活の詳細を知ることができる。

実はこれを作るために中央委員部が忙しい思いをしていたのだ。
今回は臨時派遣でエリートの諜報広報のメンバーが手伝ってくれたので
誤字脱字などミスが一切無く完璧なパンフレットが完成していた。

新入生達は、周りを取り囲む保安委員部の先輩を恐れながらも、
いつしか楽しげな夏祭りのような雰囲気に飲まれていき、
勧誘する先輩達の説明を熱心に聞いて回る。
各テントの前に用意されたパイプ椅子に座れば納得するまで説明を聞けるのだ。
質疑応答の時間も用意されている。

総合コースを選択した生徒たちは校庭へ集められているが、
専門コースを選択した生徒は校内へ案内される。
彼らは100人以上の大人数で一塊になり、中央、諜報広報、保安、組織員など
各委員部の職場を順番に見学させられた。
彼らは中学時代より成績優秀者なので初めから一般生徒とは別枠で考えられている。

今日の予定は説明会と冊子の配布のみで1時間半。
これが終わると16時前になるので最後は各クラスに戻りHRを受けて帰宅となる。

生徒達がぞろぞろと行列を作り一斉に校門から出て行く。
中央部が製作した「生徒手帳」を読みながら歩いている顔に悲壮感漂う。
この生徒手帳は、各クラスで担任の先生から配布されており
絶対に捨てるなと厳命された。

手帳に示された校則の基本となる内容は次の通り。

【学校で起こったことを、家に帰ってから家族に話す必要はありません。
 親戚、友人、知人に話す必要もありません】

【皆さんの制服の襟には校章がつけられています。
 これにチップが内蔵されており、諜報部がGPSで24時間皆さんの居場所を
 監視しています。もし校章を道ばたに捨てるなどした場合は厳罰に処されます】

【学園の許可なく転校したり足利市外へ出ることを禁じています。
 脱走と判断された場合は足利警察がパトカーとヘリコプターを
 出動させて追跡します】

【警察は足利市議会の管理下にあるので警察に通報しても
 逆にあなたが逮捕されます。警察に通報した場合の罪は
 重く収容所送りになる可能性があります】

【学校関係者以外の人間とみだりに電話することを禁じます。
 皆さんのスマホアプリ(生徒会アプリ)にスパイウェアが仕込んであり、
 これによって皆さんのスマホの捜査履歴が直ちに判明します】

【栃木県内の市役所、警察、司法当局などの行政機関は
 栃木ソビエト社会主義共和国(宇都宮)によって秘密裏に管理されています。
 みなさんは表向きは日本人として、学内では日系ソビエト人民として
 振る舞うことが推奨されています。生徒が外国籍の場合もソビエト人です】

生徒手帳は分厚い。
手帳の中には新入生用に広報部が作成したビラが挟まっており、
実際の逮捕者がどうなったかの事例が丁寧に書かれている。

・逮捕者の例1
在校生が家族との旅行を装って夏休み中に茨城県へ脱出を図るも日立ソビエトの職員に逮捕される。家族4人は連帯責任で現在も日立ソビエト(茨城県日立市)の強制収容所に収容されている。

・逮捕者の例2
在校生が自らが在籍するクラス内で反乱をあおり、生徒会に反旗を翻そうとするが
計画を実行する前に諜報部によって逮捕される。クラスメイト全員が連帯責任で
強制収容所2号室に送られて現在も服役中。収容所では肉体労働を含む強制労働あり。

・逮捕者の例3
在校生が実は資産家の子息だった。入学直後は一般的な家庭と自らの経歴を偽り
諜報部を欺いていたが、入学後の言動などから中小企業を経営するの社長の
息子だと判明。彼の家系は資本家であるため逮捕。
革命裁判の結果、日本のスパイだと自白し銃殺刑。

・逮捕者の例4
在校生同士の恋愛が発覚。組織委員部にカップル申請書を提出せずに
資本主義的な自由恋愛をしていたことが明らかになった。カップルは逮捕。
尋問室での取り調べの後、収容所1号室にて思想教育を受け、
のちに一般生徒へと復帰。

校則や規則に対する質問に答えるホットラインとして
組織委員部にイズベスチヤ(報告)するための電場番号が書かれている。
責任者の名前は3年生の高倉ナツキとなっており顔写真もついている。


とんでもない学校に入ってしまった、騙されたと多くの生徒が思うのは毎年のことだ。日本の各地にソビエトが存在し、
その詳細は日本政府の関係者であっても正確に把握していない。
まず間違いなく全国の都道府県に存在するのだろうとされている。

相手がどこに潜んでいるかわからぬ恐怖は想像を絶する。
下手に脱走した場合は自分のみならず、自分の家族や親せきの
身の安全が保障されないゆえに在学生は党の運営方針に従うしかないのだ。

この学生たちは、入学と同時に家族を日本に無数に存在するソビエト人民共和国に
よって人質に取られたようなものであり、やがてこの不条理に納得できなくなる生徒らによって反乱を起こすことになるのが毎年のパターンだ。

これが少し頭の回る生徒ならば、下手に反乱を起こして収容所送りになるよりも
表面上はおとなしくソビエト共産党に従ったふりをして卒業するのが最善だと気付く。
そうなるのにだいたい半年以上はかかるのだが。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み