アパートでの会話の続き。そして壮絶な会議へ

文字数 7,808文字

「うふ。オムハヤシ、気に入っていただけて良かったです。
 ところで先輩方、そんなに心配されなくても大丈夫ですよ」

「なにがだ?」

「ナツキ先輩が、夢美の家に泊まってしまったことです。
 先ほども言いましたけど、この件に関しましては私のわがままですから、
 世間に公表するつもりは初めからありません。私にとってもスキャンダル
 を起こしてしまうことは得策じゃありませんからね」

「ちょっとそれ、本当なのね? 信じていいのね?」

「もちろんですわ。夢美も今は学内でファンを失いたくない立場なんですよ。
 夢美はこれでも男子にそれなりの人気がありまして
 ファンクラブもあるほどなんです」

「……ふーんそう。今は時間もないからいちおう納得してあげるわ」

「ありがとうございます。で、会議の件ですが、
 議題は仮の結婚式のことだけでいいですよね。
 夢美の願いは、ミウさまの願いを叶えて差し上げることだけです」

「……」

「ユウナ先輩。何か言いたそうな顔をされてますね」

「仮の結婚式、意味ないよ。
 堀さんが高野さんのこと好きなのは間違いないと思う。
 学園側が何もしなくてもあのふたりは卒業後に結婚するんじゃないの」

「ええ。もしそんな未来があるなら素敵ですね」

「?? 何その言い方。未来であのふたりに不幸でもあるみたいな言い方ね」

「さあどうでしょうね」

と夢美はニコニコ笑うが、その笑顔の裏に不思議と哀愁が感じられてしまう。
ユウナには意味が分からなかったが、ナツキにはこの娘はただ頭が良い
だけじゃなくて神様から何か不思議な力を分け与えられた存在の
ように感じられた。もちろんただの気のせいだと思いたいが。

「夢美」とナツキ。オムハヤシは全部食べてお茶も飲みほした。

「僕は生徒の生活指導をする立場でもあるんだ。
 囚人たちの健康状態のチェックも定期的に行っている。
 その立場から君の日頃の食生活を少し管理してあげたいんだが。
 たまにこの家に僕が通ってもいいか。僕はこれでも自炊ができる」

「料理のご指導をしていただけるってことでしょうか。
 それはもうぜひ。こちらからお願いしたいくらいですわ」

「ちょ……何言ってんのよ、ナツキ!!」

「ユウナ。いいから黙って聞いていろ。
 雨宮夢美。君に関していろいろと知りたいことが山ほどある。
 ここでこ朝食を共にするのも何かの縁に違いない。
 だったらその縁を逆に利用して君のことを直接調べさせてもらうぞ」

「ええ。気が済むまで調べてくださいな。
 ナツキ先輩は男性の方ですから、夢美の体のことも、いろいろと
 興味がありますものね? 昨夜もそれはもう、激しく夜遅くまで……」

バシーンとユウナがおしゃれなデザインのちゃぶ台を手で叩いた。

「朝から破廉恥な会話をしてんじゃないわよ淫乱女。
 もういいわ。ここは佐野市だから早く出発しないと遅刻しちゃう」

「あーん。ユウナさんったらせっかちなんですね」

ユウナが二人の手を引いて玄関から出てしまう。
3人は気まずい雰囲気のまま駅までの道のりを歩いた。

さあこれからが大変だ。会議の予定は中央部で精査して2、3日以内と
されていたが、緊急の事案ということが会長に認められて即日に開催となった。


「ふむふむ。これはつまり……結婚式の予行演習かね?
 学園で結婚式の練習をするなど古今東西聞いたことがない。
 こんなバカな案など、話し合う価値すらないんじゃないのかね」

校長が、イベントの開催案の冊子を乱暴に机に放りだした。

「いやぁ私も校長の地位についてから実に10年、
 こんな無意味なイベントを開催する案を出されたのは
 校長歴10年でも初めてのことだよ。なあ雨宮君?」

「それは残念です。校長先生はお気に召しませんでしたか」

「お気に召さないのは私だけじゃなかろう。私は校長であると同時に
 中央委員部に所属する学園ボリシェビキ党員であるのだよ。
 雨宮君。君は今この会場に橘エリカ君がいることを知っていて
 このふざけた提案を我々に叩きつけているのかね!!
 1年生の分際で我々先輩を侮辱するのもたいがいにしなさい!!」

夢美は、校長の怒声を受けても気にした様子はなく、
いつもの笑顔でエリカの様子を観察していた。
エリカもまた、ニコニコしている。その笑顔が逆に怖かった。

(なんだこの雰囲気は。我々はどうすればいい?)
(そんなの知りませんよ。とりあえず会議の流れを見ましょう)

高木と宮下の諜報コンビはひそひそと話し合う。
広報の杉本は、結婚式に興味津々でありミウ派を自称する
稀有なボリシェビキだが、まさかこの案に賛成したいなど口が裂けても言えない。

(やべえ。エリカがマジで怒ってるぞ)

モチオの容姿が菅義偉元総理大臣の長男にそっくりなことはすでに伝えた。
チャラ男の代名詞を具現化する容姿をしている彼でさえ、隣に座る
エリカ嬢から発せられる怒りのオーラのせいで鳥肌が止まらない。

(エリカ……今にも夢美を絞め殺しかねないわね)

サヤカ会長もモチオと同じくエリカの親友である。
会長の権限を使えば、こんな案など簡単に切り捨てることができる。
しかしボリシェビキの会議は民主制。
学園の意思決定機関は決して独裁的であってはならないのだ。

「こんなことなど話し合う余地すらないことは明白だがね!!」

校長52歳が吠える。(過去作では何歳に設定したか忘れた)

「学園ボリシェビキの幹部諸君!! 学園の代表たる名誉ある幹部の諸君!!
 時間を無駄にしたくないので個々人の意見表明を今回は省いてしまおう。
 副会長殿もそれでいいかね? うん? うむ……今頷いたね?
 よし。それではこの仮の結婚式とやらを破棄することについて、
 賛成の者のみ挙手したまえ!! 挙手しない者は反対とみなす!!」

手を挙げたのは、校長、サヤカ、モチオ、エリカは当然として、
中央部に配慮して高木、宮下、杉本も続く。組織部からユウナも手を挙げた。

しかし、肝心の副会長のマリカ、組織部代表のナツキ、
そして特別参加者であり発案者の夢美の計3名が手を挙げなかった。

「そんな馬鹿な!!」

校長はディディーコング(任天度のゲーム・ドンキーコングに登場する
チンパンジーのこと)のような顔をしてしまう。

「井上副会長!! 君はなにゆえ反対の側に回るのだね!!
 学園一聡明で公平な人物と呼ばれるほどの君が!?」

マリカは姿勢を正し両目を閉じ、一言も返さない。

「ナツキ君もだぞ!! ……私はだね、友人のアキラ君から
 妹のことをぜひ頼むと、お願いされている立場なのだよ!!
 友人の大切な大切な妹を悲しませるとわかっていながら
 高野との結婚を君が支持するのかね!! 断固許さんぞ私は!!」

「こ、校長。おちついて」

「止めてくれるなよサヤカ君!!
 私が特に気に入らないのはナツキ君の態度だ。
 なんだその顔は。まるで雨宮君に弱みでも握られてるような顔じゃないか。
 ナツキ君。君には失望したよ!!」

校長はナツキの胸ぐらをつかんで騒ぎ続けた。
52歳で学生よりはるかに年長者の校長がこれほどまでに
怒る姿はめずらしく、会場が騒然としていく。

サヤカとモチオが必死で校長を取り押さえ、
なんとか着席させることができた。

「なあ校長、ナツキ君の考えも気になるが、それよりマリカさんのことを
 問いただすべきなんじゃねえのか。なあマリカさん。
 おっと失礼。あんたには副会長って呼ばないと失礼だった」

「山本代表。私は……私はだな。私はその……私は。私は……」

「お、おう。落ち着けよ。
 ゆっくりで大丈夫だぜ。俺らはちゃんと最後まで聞いてやるからよ。
 誤解のないように言っておくが、俺はあんたのことは尊敬してる。
 副会長さんほどの人が反対するってことは深い事情があるんだろうからな」

山本モチオの意見に、高木、宮下、杉本も「うんうん」と何度もうなずく。
この会議に出席してるメンバーで副会長を尊敬する人の方が多い。

「私は人間のクズだ」

「あ!? なんだって!? 人間のクズだぁ?」

「そうだ。私は人間のクズだ。いや前からそんな気はしていたんだが、
 今回いろいろあってそれがやはり本当のことだと確信してしまった。
 私は今日限りで副会長の座から降りようと思う」

「おい、おーい……? 
 あんたは今副会長を辞めるって言ったのか? 
 俺の耳がおかしくなったか……?」

あのモチオでさえ立ち眩みがしてしまうほどの衝撃発言だった。
校長は困惑を通り越してプルプルと震えている。
宮下は目を見開いて微動だにしない。高木は口を大きく開けている。

「いきなりなんてこと言ってくれてんのよ井上さん!!」

サヤカが猛烈に吠える。

「副会長を辞める? 人間のくず? ぜんっぜん意味が分からないわ!!
 いきなりそんな爆弾発言をして我々を混乱させるのはやめて頂戴!!
 どういうことなのか全員に分かるように説明してくれるかしら!!」

「そ、そうだなぁ。私は責任をもって説明をしなければならない。
 説明を……みんなに説明を……説明をしないと……うぅ~~」

マリカは、嗚咽した。
両手を顔で覆いながら「うぅ~」と言い、涙を流し続けている。

学園の実質的最高権力者であり、法の専門家を父つ持つこの少女が
長年にわたる諜報部と中央部の派閥関係を終わらせたのは記憶に新しい。
人を立派に叱り、正しき道へ導いていた井上マリカが、
今では童女のように力なき存在になってしまっている。

(あの副会長閣下が泣いておられる)
高木も宮下も思わずもらい泣きしそうになった。どんな事情があったのかは
知らないが、彼女をここまでに追い詰めてしまう何かがあったのは確かだ。

「どうして泣いてんの!! 泣いてたら何もわからないでしょうが!!」
「サヤカ……すまない。すまないとは思ってる……」
「謝らなくていい。あなたが隠してる不祥事の内容について聞かせて!!」
「そ、それはぁ。ここでみんなの前で言うのはあまりにも恥ずかしい……」

「恥ずかしいって何よ!! そんなの今更じゃない!!
 私なんて昨年の討論会で頭痛で倒れた姿を全校に披露したのよ!!
 本当なら中央を即首になるところを学園の優しい皆のおかげで
 会長にまでなることができた!!
 私とあなたはね、高野ミウの悪意から全校生徒を救うために、
 命がけで生徒守ると誓った同志じゃない!! 
 そのあなたが、どうしてなの!!」

「私が全校の代表にはふさわしくないクズだからだだ」

「だからどうしてクズなの? それをちゃんと説明しなさい!!」

「い、言えないよぉ。そんなこと、みんなの前で言えないよぉ……」

「井上さん……あなたって人は!! 私とあなたは会長と副会長!! 
 甘えが許されない立場だと言っていたのは、あなただったわよね!!
 私よりずっと頭が良くて才能があるあなたほどの人がそんなんじゃ困るのよ……。
 私は何のためにあなたを副会長に就任させたのよ!!」

「だめなんだぁ。私にはどうしても言えないんだぁ……」

「井上さん!!」

サヤカがマリカの頬を二度三度と叩いてしまう。そのお仕置きは
普段は年が離れた弟たちを叱るときにやるものだから手慣れている。
それでも、マリカは嗚咽するだけでまともな会話になりそうになかった。

「もうやめてください!!」と宮下がとんでもない声量で怒鳴る。

「恐れながら申し上げます。サヤカ会長!! 会議は一時中断として
 副会長様の気持ちが落ち着くまで一人にしてあげませんか!!  
 会長も学園のためを思って行動されてることは痛いほどわかるのですが、
 これ以上副会長様が傷付けけられるのを見てるのは耐えられません」

「そんなこと言ってもね、これは学校の治安を崩壊させるほどの
 重大事件なのよ? あの高野ミウにかかわる事件なのよ!! 
 緊急事態なのよ!!!」

「会議の一時中断ですが、私からもどうかお願いいたします。会長閣下!!」

高木代表は、腰を深く曲げてお辞儀をした。

「なるほど。緊急の事案であることは確かでございます。
 あの高野さんを調子づかせることがあれば危険があると思うもの当然のこと。
 しかし高野さんは現在、我ら広報部の部室にて平和的かつ学園の模範たる活動を
 しておりまして、反乱の兆しはみじんもございません。それは保証します」

「確かにね。あなたがそこまで言うなら高野には悪意がないと信じてあげるわ。
 でも副会長がこのざまじゃこの学園が……」

「恐れながら申し上げます。
 会長閣下は先ほど、井上副会長のお顔を何度も叩きました。
 私にとっては自分の身を打たれることより辛いことでありました。
 宮下の意見の繰り返しになってしまいますが、
 どうか副会長様の気持ちの整理がつくまでのお時間を与えてくださいませんか」

宮下と高木が必死に頭を下げ続けている。杉本もそれに続いた。
その姿から、彼らの井上マリカを心から尊敬する気持ちが伝わってくる。

サヤカはさすがにバツが悪くなり、マリカのえりをつかむのをやめてあげた。
彼氏のモチオもサヤカの肩をつかみながらなだめる。
サヤカも気持ちの整理がついてみんなに謝罪し、会議の一時中断を認めてくれた。

「では、1時間後に会議を再開することにしましょうか」

サヤカ会長に続いてマリカとナツキ以外の全員が廊下に出る。
めいめいにトイレに行くか、メモ帳を開いて何かを書き残している。
宮下と高木は真剣な顔で今後の行方について語り続けている。
ただエリカだけは違った。

「雨宮さんだったわね。ちょっと話があるんだけどいいかしら?」
「ええ。かまいませんよ」

エリカによって女子トイレに連行される夢美。
夢美の制服の肩に食い込むほどの力が込められている。
不良の女子によって優等生がいじめられてるようにも見えるその光景。
一度だけバシーンとでかい音が聞こえてきたが、あとは何も聞こえてこない。

二人はトイレに入ったまま15分も出てこない。

(おい宮下。ちょっと中の様子を……)
(見てこれるわけないでしょうが。私まで殴られるかもしれないんですよ)

諜報組はトイレ前の廊下で緊張しながら待つしかなかった。
この状況は以前に広報部の部室でミウとエリカが大喧嘩をしたのに近いが、
今回は学内を巻き込む一大イベントの開催に絡む件なのでレベルが違う。

杉本が「あのぉ。私、おトイレに行きたいんですけど、怖くていけません」
宮下が苦笑し「だったら下の階のトイレに行けばいいでしょう?」
「あ、その手がりましたね」と杉本が走って階段を駆けていく。
「杉本~。急に走ってケガするんじゃないぞ」と高木が声をかける。
「は~い」と階段の向こうから聞こえる。

その様子を見ていたモチオとサヤカが「ぷっくくくっ」と笑ってしまう。

高木が赤面し「お見苦しいところを見せてしまいました……」と言うが、
サヤカは「見苦しくなんかないわ。むしろ微笑ましくて笑っちゃったのよ」
モチオも「諜報と広報って最高だな。なんていうかこう…みんなが暖かくてよ」

そして宮下も交えて四人で談笑する。
モチオがたまに冗談を言うので他の三人は大いに笑った。
以前は彼ら所属の違う者同士で笑いあうなんて考えられなかった。

少し離れた場所からその様子を見ていたユウナは、こんな時なのに
校長にしつこく声をかけられていて困っていたが、校長も根が悪い人じゃない
事は知っている。会議の最中エリカを守るために怒鳴っていた校長の姿は
男らしかった。やはりボリシェビキ幹部は心の優しい人の集まりなんだと思った。

共産主義者は冷酷な殺人鬼だと誤解されることが多いが、
冷酷なのは利潤の追求のために国民(労働者)を奴隷にすることを
是正とする資本主義者のことである。

学内で人気のあるサヤカもナツキもマリカも、貧しくて困っている人を救うため、
お金持ちから余ったお金を収奪して貧者を救ってあげたいと思う優しい心から
この主義を信仰しているのだ。政治活動の目的は、断じて自分自身の利益の
ためではない。日本の政府与党の連中は自分のことしか考えていないが。

サヤカたち四人組が今も談笑して盛り上がってる最中、エリカが
隠れるように女子トイレから出てきた。校長とユウナのところへ向かってくる。

「エリカ君。わかってはいると思うが、下級生相手に乱暴するのはだね……」
「そんなことしてませんわ。話し合いをしただけです」
「それで話し合いの決着はついたのかね?」
「まあそれなりに。雨宮が愉快犯だってことがわかりましたわ」
「愉快犯だと? 詳しく聞かせてくれ」

エリカが語った内容によると、雨宮はエリカに個人的な恨みがあるわけじゃなく、
エリカを陥れるために仮の結婚式を提案したわけではないらしい。
エリカは姉のアナスタシアから
人を尋問する際のテクニックを教わっていたからこれは信用していい。

雨宮はミウの熱烈な主義者ゆえに正確には共産主義者ではなく、
ミウ主義者と称するべき新しいタイプの危険人物であることが明らかになった。

エリカはユウナの肩をつかみながら真剣な顔で語る。

「ユウナさんは次の代の生徒会幹部の筆頭になる人よね。
 だからこそあなたに伝えておきたいことがあるわ」

「な、なんでしょうか」

「あなた、私たちが卒業した後はあの雨宮に苦労することになるわよ。
 奴は15歳なのに信じられないくらいの政治力を持っているわ。
 奴のあれはおそらく天性のものね。私たちがいなくなった後は
 おそらく奴の独裁政権となるわ。そのことは覚悟しておきなさい」

「独裁って……高野さんが目指していたように毒ガスとかを
 使って生徒を脅すやり方をするってことでしょうか」

「そう考えておくべきでしょうね。ミウの代でできなかった
 独裁と圧政を奴は間違いなくするつもりなのよ。
 たぶん、多くの生徒が死ぬことになるかもしれない」

「待ちたまえよエリカ君。
 私は教員なので来年もここで働かなければならないんだが?」

「校長先生は56歳まで生きたんだからもう十分でしょう。
 いつ死んでも悔いはありませんよね?」

「君い!! 私はまだ52歳だよ。
 勝手に4歳も年上にするのはよしたまえ!!
 それに私はまだまだ生きていたいのに、
 その言い方はあんまりじゃないかね!!」

「うふふっ。もちろん冗談ですわ。
 校長先生ったら反応が面白いんですもの!!」

「ぐぬぬ……。最近の君はクロエ君並みに容赦がなくなってきて困るよ。
 こ、こらユウナ君。君まで笑うのは失礼じゃないかね!!」

こんな殺伐とした会話なのに途中からジョークにしてしまうあたり、
先輩たちは頭がいい人の集まりだからこそこんな言い回しができるんだなと
ユウナは笑いながら思った。

「みんな。もうすぐ会議を再開するわよ~~」サヤカの声が遠くから聞こえる。
エリカは会議室までの廊下を歩きながら校長に耳打ちした。

「もし。校長先生」

「ん?」

「さっきはありがとうございました。校長がナツキ君を叱ってるときに、
 友人の大切な妹を悲しませることはできないとおっしゃってくださいました」

「ああ、そんなことかね。私は今でもアキラ君の親友だ。
 アキラ君の妹であるエリカ君のことを大切に思うのは当然だろう」

「私はすごくうれしかったです。私はあの会議の最中
 ずっと雨宮のことが憎くて頭がおかしくなりそうだったのですが、
 あの瞬間だけすごく気が楽になりました。本当にありがとう。校長」

エリカは、異国の文化の入る娘らしく校長の頬に軽くキスをしてくれた。
校長は感動のあまり小刻みに震えてしまい、
その様子をまたユウナにからかわれていた。
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