第4話 出会い その3
文字数 5,251文字
「まあ、その力が使えるのは近接戦闘が行われる距離、具体的に言えば半径5メートル以内での話ですが。それと敵と交戦している場合に限ります。あと、その力の副産物として通常時の魔術の威力が極端に弱くなります」
最強の力を手に入れたと思ったらとんでもなく癖のある力だったでござる。
いやいやいや。最強なんだよな? いや、漢字が最凶なのか? いやそれも違う。そもそもアルファは『一番強い』って言っていたんだからそこに間違いはないはずだ。なのにも関わらず、近接戦闘距離まで近付かないと力を使えず、あまつさえその力のせいで、ろくに魔術を使えないと。
橘 は『副産物』なんて言っていたが、副作用のほうがイメージ的に合っているだろ。魔術が主な攻撃手段であろう魔族がいる世界、一応魔界としておこうか。その魔界で、近付かないとまともに戦えないとか、全裸で戦場に突っ立っているみたいじゃねえか。詰んだわ。はいはい、負けました、死にましたよ。
しかし、そんな俺とは正反対にアルファは自信満々、と言った感じだ。
「なにをそんなにガッカリしておるのじゃ。たしかに使いづらい力かも知れんがの。近づけば間違いなく最強なのじゃぞ?」
「いや、そもそも近づくことができないんじゃねえの? ろくに魔術が使えないんじゃ遠距離攻撃ぶちかまされて一発退場だろ?」
しかし、なおもアルファの態度は変わらない。何を心配しているのか分からないようだ。
はぁー、とため息をついていると、橘が何かに気づいたのか補足説明を入れてくる。
「健永 様。別に魔王候補の戦いでは魔王候補のみが戦う、というわけではありませんよ? 先ほど述べたように私はあなたのメイド。つまりはあなたの駒です。健永様が近づけないのであれば、私が、いえ。正確にはあと2人、健永様のメイドがいるので、私たちが道を切り開きます」
……え? 橘がメイドって自己紹介してきたのは覚えているけど、まさかのまさか、彼女は戦うメイドだったのか!? しかも、他に2人いるとか言っていたし! うひょー、興奮してきたぜ!
「そのメイド達はどこにいる? 今すぐに会いたいんだが、だが!」
「……落ち着いてください。どうせすぐに会えますから。その前に、健永様を私の正式なご主人様として登録しなければなりません」
他のメイドに会いたいと浮き足立っていた俺だったが、橘の話を聞いてピタリと動きが止まった。
ふむ、主従契約か。通常、こういうものはエロいことをして契約するものだと思う。奴隷契約などでは、腹のところに奴隷紋章をつけたり、隷従 の首輪を首につけたりするものだが、これは主従契約。下手をしたら性交を求められるやも知れん。出会ったときに思ったが、橘の顔は俺のタイプだ。体は大したことはないが、それを補って余りある美しさだと思う。つまり何が言いたいかと言うと、余裕のよっちゃんで抱ける。
「ご主人様よ、いやらしい顔になっておるが、大丈夫かの?」
「大丈夫だ、問題ない」
これからエッチなことができるのだ。出会った時はデ○ヘルかと思って迫って俺の息子が悲鳴をあげたが、今度こそ抱ける! 俺の息子もスタンバイ状態に突入し、徐々に仰角を上げてきている。
しかし、ここでアルファが衝撃の事実を告げる。
「ご主人様よ。リードとの契約は、従属を誓う宣言のみで行われるのじゃ。通常であれば、それこそ誓いのキスや、女性の大事なところに契約の術式を埋め込むのじゃが……さっきリードが言った通り、妾の力のせいでご主人様の魔術は使い物にならないからのぉ」
いや、いやいやいや。ここまで期待させておいて……とんでもない御馳走が目の前にあるのに……
「ーーーーくっそぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
突然叫び声を上げた俺に、橘とアルファは体を縮こまらせたが、俺はお構いなしで思いの丈を口にする。
「期待していたんだぞ! 俺は……俺は、やっと自慢の息子が使えると! 今まで使ってやれなかった、女を知らなかった俺の息子に、我慢させてきた息子を……ようやく、喜ばせられると……なのに! なのにだぞ!? アルファの力が原因でそれができないなんて……あんまりだよ……こんなの絶対おかしいよ!」
泣きながらそう話す俺の背中をアルファは同情するような目をしながら撫でてくる。
「ご主人様……苦労しておるのじゃな……妾が癒してやろうぞ」
暖かく、優しい声だ。ロリコンではない俺でもバブみを感じてオギャりそう。
一方、そんなアルファに対して橘は絶対零度の目で俺を見てくる。
「……アルファ。騙されてはいけません。健永様は、自分の性欲を私で発散しようとしているのです。それに、健永様。おかしいのはあなたであり、健永様がいくら女性経験がない童貞だとしても、主従契約の方法に変更はありません」
橘は無慈悲にそう告げてくる。
……くそっ! 俺はこのまま何もできずに終わってしまうのか……? せっかく目の前にチャンスが転がっているのに、このままアルファにバブみを感じてオギャっているだけで本当にいいのか? ……いや、何か、何か逆転の一手があるはずだ……!
必死で頭を回転させ、アルファが言っていた言葉を思い出す。すると、気になる言葉が見つかった。
『女性の大事なところに契約の術式を埋め込む』、これが逆転の一手に……あ! これだ! この方法なら完璧に向こうを言い負かすことができて、俺の息子を幸せに出来る!
ずっと背中を撫でてくれていたアルファに『ありがとう、もう大丈夫。俺、イってくるよ』と言い残し、未だに冷たい目をしている橘と向かい合う。
「待たせたな、橘。もう俺は負けない、挫けない! アルファが支えてくれた、応援してくれた! そして気づいた! この状況からお前に勝つ、鍵となるものに!」
「健永様、私は健永様に忠誠を誓うメイドです。なので私のことは橘ではなく、リードとお呼びください。あと、私は悪役ではありません。どちからというと健永様が私にーー」
「負け惜しみはよせ、リード。俺に勝てないからって時間を稼ごうとしても無駄だぞ。今からお前を言い負かして、俺のメスガキわからせ棒から出る強靭大人液でお前をわからせてやる!」
『わからせてやる!』という言葉と同時に、俺の息子がビンッ、と戦闘モードに移行した。俺の分身は特大なので、パジャマのズボン越しでも一目で起立したことが分かるのだ。それを見た橘は再び能面のような顔になり、黒炎を出す準備をし出す。 おおー、怖い怖い。
しかし、俺は負けじと言葉を続ける。
「いいか、よく聞け! さっき言っていた主従契約の方法に穴を見つけたんだ!」
その言葉を聞いて、橘が止まる。どうやら興味を持ってくれたらしい。イケる、これはイケるぞ!
「して、それはどのようなものなのでしょうか? 馬鹿みたいなことを言ったら承知しませんよ?」
リードは俺の息子に右手を向けてくる。しかし、それに怯えることなく、俺は力強く頷く。
深呼吸をして、画期的な考え方を口に出した。
「大事な所に契約を刻む魔術が使えないなら、既成事実として俺とリードがを子作りーー」
「この者に天罰を! 《黒炎 》!」
「んほおおおおおお!」
1回目より激しい痛みが俺の息子を襲い、そのまま俺は気絶した。
「起きてください、健永様」
誰かが俺の名前を呼びながら体を揺さぶっている。
アラームが鳴った記憶がないので、まだ睡眠していていい時間だろう。ただ、なぜか股間が痛い。それと、なにか重要なことを忘れているような感じがする。というか、前にもこんなことがあったような気が……
しかし、そんな思考を邪魔するように揺さぶりがどんどん激しくなってくる。
「健永様…健永様…早く、早く起きてください」
体が、頭がまるで激しい地震が起きたときのように揺れる。激しい揺さぶりの中、目を開けると、メイド服を着た女性が見えた。髪は透き通るような銀色で、暗い室内でも分かるほど色が白く、身長は一般的な女性と同じくらいだろうか。ただ、出るところは出ている……訂正。視界がブレいていてそう見えるだけで、実際はシャイなのか出るところが出ていなかった。
……いや、これ前にもこんなことがあった気がする、じゃなくて確実にあったわ。というか、全く同じだわ。
「健永様、おはようございます」
リードは俺と彼女がこの時初めて会った、みたいな感じで接してきている。
「……いや、さっき俺に魔術ぶっ放してきたよな? なに出会いからやり直そうとしてんだよ。こっちの記憶が残ってんだから、すぐバレるに決まってんだろ」
「……意識が戻ってなによりです」
パッとリードは切り替え、心が篭っていない声で心配していました感を出してくる。
いや、俺を気絶させたのはリードなんだか。というか、未だにアソコが痛いのはおかしいだろ。もうちょっと力加減を考えてくれよ。
「まあ、いいや。でも、なんで俺に魔術をぶっ放せたんだ? 俺を中心とした半径五メートル以内であれば相手は魔術が使えなくなるんだろ? まあ、それを言い出したら契約の魔術が使えない理由が分からないんだが」
そうなのだ。リードは確かに俺から五メートル以内にいた。でも、魔術が使えた。それも、威力が減衰している様子はなく普通に。
「その疑問は妾が答えてやるのじゃ」
ゴソゴソ、と俺が被っていた布団からアルファが顔を出してくる。何か体が重いと思ったらアルファだったのか。
「まず、リードが魔術を使えた理由じゃが、それはご主人様と主従契約を交わしたからじゃ。まあ、正確に言えば従者からの一方的な契約じゃがな」
……ん? 俺はいつリードと契約を結んだんだ? 『従属を誓う宣言』によって契約がなされると言っていたが、そんなものされていないぞ。
頭をひねる俺に、リードが口を開く。
「健永様はお馬鹿なのですか? 健永様がまるで少年漫画の主人公みたいなことを言っていたときに、宣言したではありませんか」
そう言われて、あの場面を思い出す。
『待たせたな、橘。もう俺は負けない。挫けない。アルファが支えてくれた。応援してくれた。そして気づいた! この状況からお前に勝つ、鍵となるものに!』
『健永様、私は健永様に忠誠を誓うメイドです。なので私のことは橘ではなく、リードとお呼びください。あと、私は悪役ではありません。どちからというと健永様が私にーー』
ふむ、多分『私は健永様に忠誠を誓うメイドです』のところだろう。なるほど、これが『従属を誓う宣言』なのか。
「……いや、宣言短くね? こんなの、本来の主従契約を鎖だとすると細い細い糸みたいなもんじゃねか」
「ご主人様の言う通りじゃな。しかも、この契約はさっきも言ったことじゃが、従者からの一方的な契約じゃ。故に、リードは簡単にご主人様を裏切ることができるのじゃよ」
契約の意味ねえじゃん、それ。というか、アルファの力の弊害多くね? この主従の契約って超重要だと思うんだけど。下手したら、戦闘時に背中を預けていたら突然背後から殺される、なんてことが起きるぞ。
身震いする俺をよそに、アルファは補足説明をしてくる。
「あと、主従契約を結べない理由じゃが、妾の力にも例外はあっての。それこそ主従契約を交わしたものは、例えご主人様の5メートル以内にいても魔術は使えるというのもその例外じゃが。つまり妾の力が原因で主従契約の魔術が使えない、という例外が発生しておる。難しいのなら、たくさんある例外の内の1つに引っかかったと考えてもらればいいのじゃ。ちなみに、妾を手放すと魔術自体使えなくなるから注意するのじゃぞ」
……打つ手無しか。
ガックリ肩を下げる俺に、アルファとリードが励ますような声をかけてくる。
「まあ、そんなに気を落とすでない。例え契約がすぐに解けてしまうほど弱いものであったとしてもリード達は裏切りはせんじゃろ」
「そうです。というか、健永様に裏切られるかもしれないと思われていること自体心外ですね。今ここにいない2人も同様です。もっと私たちを信頼してください」
……いや、リードに関しては裏切るだろ、と思う節がかなりあったのだが。というかむしろ、裏切る気満々ですよ? 的な感じの行動しか見てこなかったんだが。
「……うん。まあ、うん……ありがとう」
歯切れの悪い返答しか今の俺には出来なかった。
最強の力を手に入れたと思ったらとんでもなく癖のある力だったでござる。
いやいやいや。最強なんだよな? いや、漢字が最凶なのか? いやそれも違う。そもそもアルファは『一番強い』って言っていたんだからそこに間違いはないはずだ。なのにも関わらず、近接戦闘距離まで近付かないと力を使えず、あまつさえその力のせいで、ろくに魔術を使えないと。
しかし、そんな俺とは正反対にアルファは自信満々、と言った感じだ。
「なにをそんなにガッカリしておるのじゃ。たしかに使いづらい力かも知れんがの。近づけば間違いなく最強なのじゃぞ?」
「いや、そもそも近づくことができないんじゃねえの? ろくに魔術が使えないんじゃ遠距離攻撃ぶちかまされて一発退場だろ?」
しかし、なおもアルファの態度は変わらない。何を心配しているのか分からないようだ。
はぁー、とため息をついていると、橘が何かに気づいたのか補足説明を入れてくる。
「
……え? 橘がメイドって自己紹介してきたのは覚えているけど、まさかのまさか、彼女は戦うメイドだったのか!? しかも、他に2人いるとか言っていたし! うひょー、興奮してきたぜ!
「そのメイド達はどこにいる? 今すぐに会いたいんだが、だが!」
「……落ち着いてください。どうせすぐに会えますから。その前に、健永様を私の正式なご主人様として登録しなければなりません」
他のメイドに会いたいと浮き足立っていた俺だったが、橘の話を聞いてピタリと動きが止まった。
ふむ、主従契約か。通常、こういうものはエロいことをして契約するものだと思う。奴隷契約などでは、腹のところに奴隷紋章をつけたり、
「ご主人様よ、いやらしい顔になっておるが、大丈夫かの?」
「大丈夫だ、問題ない」
これからエッチなことができるのだ。出会った時はデ○ヘルかと思って迫って俺の息子が悲鳴をあげたが、今度こそ抱ける! 俺の息子もスタンバイ状態に突入し、徐々に仰角を上げてきている。
しかし、ここでアルファが衝撃の事実を告げる。
「ご主人様よ。リードとの契約は、従属を誓う宣言のみで行われるのじゃ。通常であれば、それこそ誓いのキスや、女性の大事なところに契約の術式を埋め込むのじゃが……さっきリードが言った通り、妾の力のせいでご主人様の魔術は使い物にならないからのぉ」
いや、いやいやいや。ここまで期待させておいて……とんでもない御馳走が目の前にあるのに……
「ーーーーくっそぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
突然叫び声を上げた俺に、橘とアルファは体を縮こまらせたが、俺はお構いなしで思いの丈を口にする。
「期待していたんだぞ! 俺は……俺は、やっと自慢の息子が使えると! 今まで使ってやれなかった、女を知らなかった俺の息子に、我慢させてきた息子を……ようやく、喜ばせられると……なのに! なのにだぞ!? アルファの力が原因でそれができないなんて……あんまりだよ……こんなの絶対おかしいよ!」
泣きながらそう話す俺の背中をアルファは同情するような目をしながら撫でてくる。
「ご主人様……苦労しておるのじゃな……妾が癒してやろうぞ」
暖かく、優しい声だ。ロリコンではない俺でもバブみを感じてオギャりそう。
一方、そんなアルファに対して橘は絶対零度の目で俺を見てくる。
「……アルファ。騙されてはいけません。健永様は、自分の性欲を私で発散しようとしているのです。それに、健永様。おかしいのはあなたであり、健永様がいくら女性経験がない童貞だとしても、主従契約の方法に変更はありません」
橘は無慈悲にそう告げてくる。
……くそっ! 俺はこのまま何もできずに終わってしまうのか……? せっかく目の前にチャンスが転がっているのに、このままアルファにバブみを感じてオギャっているだけで本当にいいのか? ……いや、何か、何か逆転の一手があるはずだ……!
必死で頭を回転させ、アルファが言っていた言葉を思い出す。すると、気になる言葉が見つかった。
『女性の大事なところに契約の術式を埋め込む』、これが逆転の一手に……あ! これだ! この方法なら完璧に向こうを言い負かすことができて、俺の息子を幸せに出来る!
ずっと背中を撫でてくれていたアルファに『ありがとう、もう大丈夫。俺、イってくるよ』と言い残し、未だに冷たい目をしている橘と向かい合う。
「待たせたな、橘。もう俺は負けない、挫けない! アルファが支えてくれた、応援してくれた! そして気づいた! この状況からお前に勝つ、鍵となるものに!」
「健永様、私は健永様に忠誠を誓うメイドです。なので私のことは橘ではなく、リードとお呼びください。あと、私は悪役ではありません。どちからというと健永様が私にーー」
「負け惜しみはよせ、リード。俺に勝てないからって時間を稼ごうとしても無駄だぞ。今からお前を言い負かして、俺のメスガキわからせ棒から出る強靭大人液でお前をわからせてやる!」
『わからせてやる!』という言葉と同時に、俺の息子がビンッ、と戦闘モードに移行した。俺の分身は特大なので、パジャマのズボン越しでも一目で起立したことが分かるのだ。それを見た橘は再び能面のような顔になり、黒炎を出す準備をし出す。 おおー、怖い怖い。
しかし、俺は負けじと言葉を続ける。
「いいか、よく聞け! さっき言っていた主従契約の方法に穴を見つけたんだ!」
その言葉を聞いて、橘が止まる。どうやら興味を持ってくれたらしい。イケる、これはイケるぞ!
「して、それはどのようなものなのでしょうか? 馬鹿みたいなことを言ったら承知しませんよ?」
リードは俺の息子に右手を向けてくる。しかし、それに怯えることなく、俺は力強く頷く。
深呼吸をして、画期的な考え方を口に出した。
「大事な所に契約を刻む魔術が使えないなら、既成事実として俺とリードがを子作りーー」
「この者に天罰を! 《
「んほおおおおおお!」
1回目より激しい痛みが俺の息子を襲い、そのまま俺は気絶した。
「起きてください、健永様」
誰かが俺の名前を呼びながら体を揺さぶっている。
アラームが鳴った記憶がないので、まだ睡眠していていい時間だろう。ただ、なぜか股間が痛い。それと、なにか重要なことを忘れているような感じがする。というか、前にもこんなことがあったような気が……
しかし、そんな思考を邪魔するように揺さぶりがどんどん激しくなってくる。
「健永様…健永様…早く、早く起きてください」
体が、頭がまるで激しい地震が起きたときのように揺れる。激しい揺さぶりの中、目を開けると、メイド服を着た女性が見えた。髪は透き通るような銀色で、暗い室内でも分かるほど色が白く、身長は一般的な女性と同じくらいだろうか。ただ、出るところは出ている……訂正。視界がブレいていてそう見えるだけで、実際はシャイなのか出るところが出ていなかった。
……いや、これ前にもこんなことがあった気がする、じゃなくて確実にあったわ。というか、全く同じだわ。
「健永様、おはようございます」
リードは俺と彼女がこの時初めて会った、みたいな感じで接してきている。
「……いや、さっき俺に魔術ぶっ放してきたよな? なに出会いからやり直そうとしてんだよ。こっちの記憶が残ってんだから、すぐバレるに決まってんだろ」
「……意識が戻ってなによりです」
パッとリードは切り替え、心が篭っていない声で心配していました感を出してくる。
いや、俺を気絶させたのはリードなんだか。というか、未だにアソコが痛いのはおかしいだろ。もうちょっと力加減を考えてくれよ。
「まあ、いいや。でも、なんで俺に魔術をぶっ放せたんだ? 俺を中心とした半径五メートル以内であれば相手は魔術が使えなくなるんだろ? まあ、それを言い出したら契約の魔術が使えない理由が分からないんだが」
そうなのだ。リードは確かに俺から五メートル以内にいた。でも、魔術が使えた。それも、威力が減衰している様子はなく普通に。
「その疑問は妾が答えてやるのじゃ」
ゴソゴソ、と俺が被っていた布団からアルファが顔を出してくる。何か体が重いと思ったらアルファだったのか。
「まず、リードが魔術を使えた理由じゃが、それはご主人様と主従契約を交わしたからじゃ。まあ、正確に言えば従者からの一方的な契約じゃがな」
……ん? 俺はいつリードと契約を結んだんだ? 『従属を誓う宣言』によって契約がなされると言っていたが、そんなものされていないぞ。
頭をひねる俺に、リードが口を開く。
「健永様はお馬鹿なのですか? 健永様がまるで少年漫画の主人公みたいなことを言っていたときに、宣言したではありませんか」
そう言われて、あの場面を思い出す。
『待たせたな、橘。もう俺は負けない。挫けない。アルファが支えてくれた。応援してくれた。そして気づいた! この状況からお前に勝つ、鍵となるものに!』
『健永様、私は健永様に忠誠を誓うメイドです。なので私のことは橘ではなく、リードとお呼びください。あと、私は悪役ではありません。どちからというと健永様が私にーー』
ふむ、多分『私は健永様に忠誠を誓うメイドです』のところだろう。なるほど、これが『従属を誓う宣言』なのか。
「……いや、宣言短くね? こんなの、本来の主従契約を鎖だとすると細い細い糸みたいなもんじゃねか」
「ご主人様の言う通りじゃな。しかも、この契約はさっきも言ったことじゃが、従者からの一方的な契約じゃ。故に、リードは簡単にご主人様を裏切ることができるのじゃよ」
契約の意味ねえじゃん、それ。というか、アルファの力の弊害多くね? この主従の契約って超重要だと思うんだけど。下手したら、戦闘時に背中を預けていたら突然背後から殺される、なんてことが起きるぞ。
身震いする俺をよそに、アルファは補足説明をしてくる。
「あと、主従契約を結べない理由じゃが、妾の力にも例外はあっての。それこそ主従契約を交わしたものは、例えご主人様の5メートル以内にいても魔術は使えるというのもその例外じゃが。つまり妾の力が原因で主従契約の魔術が使えない、という例外が発生しておる。難しいのなら、たくさんある例外の内の1つに引っかかったと考えてもらればいいのじゃ。ちなみに、妾を手放すと魔術自体使えなくなるから注意するのじゃぞ」
……打つ手無しか。
ガックリ肩を下げる俺に、アルファとリードが励ますような声をかけてくる。
「まあ、そんなに気を落とすでない。例え契約がすぐに解けてしまうほど弱いものであったとしてもリード達は裏切りはせんじゃろ」
「そうです。というか、健永様に裏切られるかもしれないと思われていること自体心外ですね。今ここにいない2人も同様です。もっと私たちを信頼してください」
……いや、リードに関しては裏切るだろ、と思う節がかなりあったのだが。というかむしろ、裏切る気満々ですよ? 的な感じの行動しか見てこなかったんだが。
「……うん。まあ、うん……ありがとう」
歯切れの悪い返答しか今の俺には出来なかった。