第18話 魔王戦 準備編 その5

文字数 4,429文字

 魔術弾の製作を始めてから3日目。
 今日も今日とて朝イチから賢者タイムになってダラダラと過ごしていた。
 夜。夕食を皆で食べ終わって部屋にこもってゲームをしていると、部屋をノックする音が聞こえてきた。

「健人様。少し宜しいでしょうか?」

 ドアの外側からリードの声がする。どうやら一日中悟りを開いている俺に用があるらしい。
 重い腰を上げてドアを開けると、寝間着姿のリードが立っていた。
 最近はこの彼女の姿も見慣れてきたが、初めて見た時は鼻血が出たくらいドエロイ姿だ。本人に直接『ちょっとエロすぎて興奮するから着るのやめてくんない?』とか言ったらぶっ殺されそうだし、それに俺には言えない事情があるのだ。なので、黙っているしか無い。

「なにか用か?」
「今から晩酌をしようと思うのですが、健人様も一杯どうですか?」

 ふむ。酒か。俺は両親ともに酒が弱く、例に漏れず俺もかなり弱い体質だ。
 昔、スーパーで買ったアルコール度数5パーセントで300ml入っている缶酎ハイを買って、家で飲んだら4時間ほど頭痛と吐き気が止まらなくて地獄を見た経験を持っている。それ以来、お酒が弱いうえに好きでもない、という酒嫌いになってしまった。
 ただ、リードも何か考えがあって俺を誘ってくれたのだろう。それに、魔界のお酒というのも興味があった。もしかしたら俺でも飲めるお酒を発見できるかも知れない。

「そうだな。じゃあ、俺もお邪魔させてもらうよ」

 かくして、初めてのリード家での晩酌が始まったのだ。

 食事処でやっているということで、リードと共にそこに向かうと……フィンとミネが机に大量に並べられた酒を片っ端から飲んでいた。ただし、彼女たちも寝間着姿だ。それも、リードと同じくドエロイもの。
 そう、これが俺が何も言えない理由だ。俺の感覚としてはスケスケの寝間着というのは、エッチな事をする時に着るものだと勝手に思っている。
 が、ここでは違うのかも知れない。あれが普通なのかも知れない。
 だって、女子と女性の3人が揃ってドエロイ寝間着を着ているんだぞ!? それも大して恥ずかしがっている素振りを見せずに。俺の感覚がおかしいと疑ってしまって何も言えなくなるのが普通だとは思わんかね!? 
 失礼、取り乱してしまった。話を変えよう。
 明らかに未成年の2人がお酒を飲んでいる。これはまずいのではないだろうか。
 ……下手をしたらポリスメンのお世話になってしまうかも知れないな。

「フィンとミネよ。それは未成年飲酒にあたるんじゃないのかなって思うんだけど」
「健人さん。言っている意味がよく分かりませんが、魔界では子供でもお酒を飲むのは普通ですよ?」
「ですね。私も6歳くらいから飲んでました!」

 フィンとミネは俺の言っている意味がよくわからないらしい。

「リード。魔界ではお酒に関する法律とかそういうものは無いのか?」
「無いです。赤ちゃんから飲んでも誰も文句言いませんし、捕まりません。というか、そもそも魔族にとってお酒は水みたいなものですから」

 なる……ほど。なんか酒豪みたいなことを言い出したが、アルコールが魔族にとっては毒にならないんだろう。種族の違い、というものか。
 俺とリードも椅子に座って、酒を物色する。
 一升瓶に入ったものから、おしゃれなラッピングを施されたもの、紙パックに入っているものまで選り取り見取りだった。
 うーん、相変わらず魔族語が読めないからどれが何なのか全く分からないな。

「皆、アルコール度数が低くて飲みやすいお酒ってあるか?」
「健人様、それでしたらこれがおすすめです」

 リードがノータイムでお酒をズイッと俺に差し出してきた。ふむ、張り切りすぎて裏を感じるが……まあ、いいだろう。

「これは健人様も馴染みが深い日本酒です。ただし、魔界で取れた魔水を使用しており、人間界のものとは一味違う美味しさがあると言われているものです。また、魔力回復の速度が上がるとも言われており、今の健人様にはピッタリのものかと」

 ……そういうことか。まあ、アルコール度数が低いのであれば問題ないな。
 机に置いてあった小さい酒坏を手に持ち、その日本酒を自分で注ごうと思ったら……リードがお酒を注いでくれた。なんだよ、気が利くじゃねぇか。

「じゃあ、いただきます」

 くいっと酒をあおる。
 ふむ……これは……アルコールのパンチが無く、お酒というよりかはジュースを飲んでいるような。そんな感じがする。
 どっかで飲んだものと似ているな……何だっけ……あ! そうだ、澪だ! その日本酒と似ている。ただ、似ているだけで、あれよりももっとジュース感がある。

「これ、すごい飲みやすいな。もう一杯」
「気に入ってもらって良かったです」

 リードが注いでくれる。
 ……うん。やっぱり美味しいわ。このお酒は俺の美味しかったお酒リストに保存しておこう。

「健人さんはお酒は強いほうなのですか?」

 フィンが質問をしてくる。

「いや、俺はかなり弱いほうだな。友達とか仕事とかでお酒を飲む場所に行くときは、かなりペースを抑えて飲まないと終盤あたりでグロッキー状態になるくらい弱いぞ」
「そうなんですね。じゃあ……私からはこのお酒をおすすめします」

 フィンもズイッと俺に瓶を渡してくる。
 ふむ……なんだかおしゃれな瓶だな。

「これは、 カグルと呼ばれる果物から作られるお酒で、魔界の女子の間では大人気なんです。ただ、アルコール度数は高いので、ほんのちょっと、舐めるくらいが健人さんだったら良いと思います」

 そういって、フィンは俺の酒坏に一滴だけお酒を器用に垂らす。
 ……流石にこんなに少なかったら味なんてわからないんじゃ……
 こちらもクイッとあおる。

「どうですか……?」
「うん……かなり果物の素材の味がする。形容しがたいけど、美味しいのは間違いない。ただ、たしかにアルコールがキツイな。一滴飲んだだけで顔が熱くなってきた」
「確かに頬が赤いですね」

 ぐいっとフィンが顔を近づけてくる。
 ……その行為で余計に顔が熱くなった気がするわ。
 目のやり場に困ったので、続いてミネに話題を振る。

「ミネは何かオススメのものはないか?」
「私ですか……? そうですね……これなんかはどうでしょう?」

 ドン、と出してきたのはなんというか……禍々しいラッピングがされたものだった。

「これは……?」
「魔族でも酔うこと間違い無しのお酒です! 私、いくら飲んでも酔えなくて……魔族でもある程度飲めば酔える人が多数なんですけどね……。そういうわけで! 色々探しまくって、飲みまくってようやく見つけたのがこのお酒なんです! 健人さんも一杯どうです?」
「……今日は……いいかな……結構お酒飲んだし、たぶんそれを今飲んだらぶっ倒れる自信があるし」

 そう。大した量は飲んでいないが、そもそも今日は魔力をほとんど使い切って賢者タイムになっている。いくら夜になって若干量回復したからと言って体力が戻ったわけではない。体調が万全の時に飲まないと最悪吐くことになるだろう。

「そうですか……でも! 次の晩酌では必ず飲んでくださいね!」
「お、おう」

 なんか、お酒を飲んでいるかわからないけど、いつもより押しが強いな。
 いや、別に悪いとか言っているわけではないけど、なんか新しい一面をみたような感じだ。
 みんなから一通りおすすめされて、その中で一番気に入ったリードのお酒をちびちびと飲んでいると……リードの様子がおかしいことに気がついた。
 彼女もフィンとミネと同じように机に並べられたお酒を手当たりしだいに飲んでいたのだが……

「けんと〜さん! もっと〜飲まないんですかぁ〜」

 端的に言えば酔っていた。それも結構ひどい酔い方をしていた。

「い、いや……俺は酒が弱いってさっき言っただろ?」
「……あ〜! 私がぁ〜オススメしたお酒〜のんでくれてるんですぅねぇ〜」

 キャラが壊れてるぞ! リード! しっかりしろ!

「ま、まあ……これが1番飲みやすかったし、味も好きだし……」
「えぇ〜? 私のことがぁ〜好きってぇ〜言いましたかぁ〜」
「いや……そうではなくて……おい、フィン、ミネ。こいつをどうにかしてくれ」

 だる絡みをし出してきているリードから逃れようとフィンとミネに救援を求める。

「あー……リードは一度こうなると、定めた標的から絶対に離れないんですよ。我慢して下さい、健人さん」
「ですね。私達ではどうしようもないです……」
「まじか……」

 厄介だな、おい。
 まあ、毒舌を吐いてこられるよりはいいのだが……これはこれで面倒だ。

「ちょっとぉ〜、私が話している時にぃ〜何浮気しているんです……かぁ!」

 隣に座っていたリードが俺の腕にしがみついてくる。
 おいおいおいおい! 胸が! この服として意味をなしていな寝間着から乳の感触が俺の皮膚へとダイレクトに伝わってきていますよ、リードさん!

「ちょ! リード! 離れろって!」
「いやだいやだいやだ! ご主人様とずっと一緒にいるもん!」

 ……え? 破壊力やばすぎでしょ、このリードさん。最近デレ期が来ていて、前からかわいいかわいいとは思っていたが……
 待って待って。俺の息子が戦闘準備を始めちゃってるよ? リードさんが胸を当ててきて、『ずっと一緒にいるもん!』とか20歳にしてはきつすぎる言葉を吐きながら、なんというかドエロイ顔を俺に向けてきているせいで、俺の、息子が……!

「色々やばいから一旦はなれーー」
「いやだ! 大好きなご主人様と一緒にいたいのっ!」

 ……んはぁぁぁぁ! やばいですぞ! これは破壊力がやばいですぞ! フィンとミネが見ていなかったらリードを襲っていたかも知れないくらい破壊力がやばいですぞ!

「分かったから落ち着こう、な?」
「……うん」

 その後、結局2時間ほどリードに抱きつかれた状態で、ずっと『ご主人様しゅきしゅき』攻撃を受け、息子が臨戦態勢になりながら耐えた。お預け感がパなかった。
 フィンとミネが一通り飲み終わったタイミングでリードを彼女の部屋に寝かせ、俺も眠りについた。
 息子が静まるまで1時間かかったが……明日も学校を休むので、まあいいだろう。
 次の朝、リードが隣で何故か寝ており、起きて混乱したリードに腹パンを打ち込まれて騒ぎになった。
 うん、平常運転だな!
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