第9話 いざ学院へ! その2

文字数 3,309文字

 魔王学院までどうやって行くのかと思ったが、まさかの徒歩だった。別にこの魔界の文明が発達していないわけではない。人間界と同レベルかそれ以上のものだとこの前の買物のときに感じたのだから。
 今も目の前を路面電車が通っていったし、通学路は大量の車が行き来している。
 ……いや、学生が通学するには危なくね? まあ、魔術が使えるなら車なんて怖くないんだろうけど。
 とはいっても俺は人間だ。魔術が満足に使えないのだから注意していて損はないだろう。

「なあリード」
「はい、なんでしょうか?」

 学院までの道のりがわからない俺のために先導してくれているリードが目線だけをこちらに向けて反応してきた。器用に歩くのな、すげえよ。

「なんで交通機関があるのに徒歩なんだ? 学院まで近いのかも知れないけどそれでも使えるものは使ったほうが楽じゃん?」

 リードが少し黙る。もしかして、リードも俺と同じことを思っているのかも知れない。

「……校則でそう決まっていますから」
「……そうか」

 まあ、高校生以下であれば校則って破ると面倒だもんなぁ。別に大学以上になったら破っていいというわけではない。ただ、大学生だったら自己責任という言葉で罰せられるのだが、高校生や中学生だと先生に説教される、ということになる。責任を取らされるわけではないのだが、ある意味責任を負うよりも面倒なことがおきかねないので、良識のある学生は校則を遵守するのだ。
 ただ、俺は学生であって学生ではないので勝手が分かってきた頃合いに公共交通機関に黙って乗りますがね!
 しかし、前を歩いているリードを見ていると胸が高まるのを感じるなぁ。ハイカラにブーツ! その組み合わせだと分かった時に大声を出したせいでリードに怒られてしまったが、どれだけの衝撃を伴っていたのか理解してほしい。
 ニヤニヤ歩くこと数十分。ようやく学院に到着した。
 遠いよー、遠すぎるよー。おじさん、授業を受ける前にグロッキーになっちゃってるよー。
 ヘロヘロになって今にも倒れ込みそうな俺を見て、リードが一言。

「軟弱ですね」

 事実だが、そこは『大丈夫ですか!?』とか言うのがメイドでは……?






 立派な校門を抜け、校舎の方に向かう。この学院は高等部と中等部がある。校舎は別々だが食堂や体育館などの施設は共有しているため、生徒同士の交流は思った以上にあるらしい。
 しかし、校舎が大きい。それしか感想が出てこないくらいに大きい。まあ、魔王候補生に選ばれた人を半強制的に連れてくるんだから、それなりに立派じゃないと学院の面子が潰れるかも知れないし、立派なものを用意しているんだろうけど……
 あと、登校中からチラホラと生徒たちを見かけたが、どの人も育ちが良さそうだった。なんというかまとっているオーラが違ったし、醸し出す雰囲気が貴族みたいな……俺は直接そういう人を見たことがないから適当なことを言っているのかも知れないけど。
 しかし、周りの生徒はみんなブレザーなのに、俺達だけ場違い感がすごい。というか登校中から今に至るまで、周りの生徒からの視線が痛いほど刺さる。いや、この視線は人間が魔界に、それも魔王学院に居るということについてのものかもしれないが、生きた心地がしない。
 ビビりまくっている俺を他所に、リードはズンズンと校舎の中を進んでいく。てか、どこに行こうとしているんだ? 

 黙ってついていくこと数分。よく分からない文字が書かれた扉の前でリードが止まった。というか、街で見かけた文字もそうだったし、なんならリードに買ってもらった日用品の文字もそうだったが、魔界には魔族たちが使っている独自の文字があるらしい。俺は全く読めないのだが、会話はできている。これは一体どういう……

「ここは学院長室です。学院長に挨拶するだけですので、緊張せずにいつもどおりの健人様で結構ですよ」

 この扉の訳のわからん文字の羅列は学院長室って書いていたのか。規則性さえ分かれば俺でも読めるようになりそうだが……面倒くせぇ……
 っといかんかん。今はお偉いさんと顔合わせだからシャッキとしないとな。

「任されよ!」

 冷たい目でリードに見られたが、いつもの俺だったらとんでもないことになるんだから仕方ないじゃないか。
 ただ、俺は社会経験者。こういうときの対応くらい知っているので、人間と魔族にそこまで違いがないのであれば問題は起こさないはずだ。

 「失礼します」

 ノックをして、リードが学院長室に入室する。俺も後を追って入ると、見た目が50代くらいの男性が椅子に座ってこちらを見てきた。
 なんというか、歴戦の猛者みたいな雰囲気を纏っている人だ。室内の装飾とかもなんというか……殺っている人が好きそうな感じだし。いや、別にそういう人の部屋を見たことはないから偏見なんだけど……たてつけている額に「見敵必殺」ってデカデカと書かれていたり、武器の類がそこら中に置かれていたりしたら、誰でも俺と同じことを考えると思うんだ。
 室内を挙動不審に見渡していた俺だったが、すぐに気を取り直し、まずは自己紹介をすることにする。

「はじめまして。今日付で転入してきました播磨健人と申します。宜しくお願いします」

 お辞儀もしっかりして、リードの主人として恥ずかしくない行動をする。ただ、これは日本では一般的なものではあるのだが、海外に行くと違った印象で捉えられることもあるわけで、魔界においてはどうなるのか全くわからない。まあ、人間界の礼儀です、と言えば大丈夫だろう。
 ギシッっと椅子の音がして、とてつもない雰囲気を纏っている男が口を開く。

「いやー、生で人間の、しかも日本人のフォーマルな場での自己紹介を聞けるなんて夢みたいだな! そんなに緊張しなくても良い。取って食うわけでもないしな! アハハハ!」

 なんというかギャップがすごい人だった。






 少しの雑談の後。学院長から俺をこの場に呼び出した理由を聞かされた。

「播磨くんも魔王候補生になったわけだから、これから他の魔王候補生と戦うこともあるだろう。リード君からある程度の話は聞いているとは思うが、私の方からも一応説明しておこうと思ってね!」
「ありがとうございます」

 リードが間違ったことを俺に伝えてくるとは思えないが、伝え忘れがあるかも知れない。学院長の心遣いは願ってもないことだった。真剣な顔をしていると思ったら、急にバカみたいに明るい感じになることに関しては直してほしいが。

「私の方からは重要なところだけを。もっと詳しく知りたいのであれば、君の眷属であるリード君に聞けばいい」
「分かりました」

 それから学院長は分かりやすく魔王を決めるための戦いの規則みたいなものを教えてくださった。
 1つ。魔王候補生同士の戦闘はいつでもどこでもやっていいというわけではない。申請をし、学院長の認証が貰えれば特定の場所においてのみ戦闘が可能となる。
 2つ。魔王候補生同士の戦闘において、眷属の同伴を認める。この眷属というのは、魔王候補生と契約を結んでいる者のことを指す。奴隷契約、主従契約など制限はない。また、人数制限もない。
 3つ。魔王候補生同士の戦闘の勝敗は、当人同士で決めるものとする。また、勝者は敗者の全てを貰い受けることが可能。ただし、これは勝ったからと言って必ず全てを貰え、というわけではない。
 大まかに言えばこういうことだった。学院長は『リード君からある程度の話は聞いていると思うが』とおっしゃっていたが、どれも聞いたことがなかった。
 リードをチラリと見たのだが、無表情だ。学院長が説明するだろうと思って手を抜いたのか、説明しようと思ったときには俺がダラケまくっていて、言うに言えなかった状況だったのか。真相はわからないが、終わった話だし、まあ……いいだろう。
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