第16話 魔王戦 準備編 その3

文字数 4,591文字

「それで、健人様はなぜ拳銃を? 魔族には人間の武器は通用しないと言ったはずですが」

 俺とリード達は、現在家で夕飯を食べている最中だ。色々駆け回ってたこともあり、結局彼女たちに俺がなぜ拳銃を欲していたのか、それを説明するのがこのタイミングになってしまった。

「それは分かっている。分かっているのが、魔王戦に勝つためには必要なものだと思ったんだ。よく言うだろ? 電流が走ったって。まあ、無駄になるかも知れないが、何もしないよりは良いだろうし、このままだと本当に丸腰で魔王戦をやる羽目になる。それは阻止しなければならないことだろ?」

 リード達は、まだ納得していない様子だった。
 まあ、それもそうだろう。魔術が使える彼女たちからしたら拳銃なんてお守りにもならない代物だ。それに、俺の説明だって論理的ではない。

「……志は良いと思います。あらゆる可能性を想定し、出来ることを精一杯する。健人さんは魔術は使えないですが、それに腐らず努力しているところは好感ですね」
「まあ……諦めて投げ出されるよりはマシかもしれませんね」
「健人さん、がんばってください!」

 おおー、彼女たちの俺に対する好感度が上がっていっている!
 まあ、伊達に30年生きてきたわけではないし、挫折も人並みに経験している。
 それに……俺は彼女たちを引っ張っていく立場の人間だ。上司がしっかりしていないと、部下の士気に関わる。ただでさえ今回は彼女たちに任せっきりになるんだから、俺が勝つつもりで動いているというところを示して、少しでも心理的負担を減らしてあげたいという意図もあった。

「期待に答えられるよう、俺も頑張ってみるつもりだ。明日から休日だから、拳銃の練習に皆にも手伝ってもらうぞ! よろしく!」
「……頑張ってくださいね、健人様。私は陰ながら応援していますので」
「あー、私は明日も学校に行かないといけないので……でも、応援はしていますから!」
「私は明日空いているので健人さんの練習を手伝います! だから落ち込まないでください!」

 ……諦めよっかな、この試合。


 次の日の朝。

「よし! 白雪さんの尽力で俺が注文した拳銃が届きました! で、今から試し打ちしてみようと思います!」

 朝食を食べた後、リードとミネと3人でリード邸の庭に出てきた。
 拳銃は箱から取り出し、すでに俺が拳銃嚢(ホルスター)に入れて身につけてきている。
 なんでそんなにテンションが高いのかって? 
 ばっかやろうお前! 男なら拳銃を見たらカッコいいと思い、持ったら興奮すんに決まってんだろ!

「うっし! じゃあ、まずはリード! ちょっと的になってくれや!」

 リードを少し離れたところに立たせて、俺は手始めにとH&K VP9、長いからVP9とするが、それをリードに向けて構える。
 カタログに書いていたとおり、手にめちゃくちゃ馴染んで扱いやすそうだ。
 しかし……

「ふむ。撃ち方が分からん」

 当然だった。俺は初めて銃を持ったのだ。銃を撃っているところなんて、アニメやドラマでしか見たことがないし、当然撃ち方なんて知るわけもなかった。

「……まず、私を的にした挙げ句、躊躇(ちゅうちょ)なく撃とうとしていることに疑問を持ったほうが良いのでは?」
「健人さん……これはあんまりです……」

 リードとミネの2人の俺に対する好感度が下がった。

「いや、いきなり撃つわけ無いじゃん。試しに構えただけだよ。本当だよ?」
「それにしては、撃つ気満々だったような気がしますが。あと、銃口を人に向けた地点でアウトです」

 人じゃないじゃん、という言葉は飲み込み、「ごめん」と謝罪を口にする。
 しかし、困ったな。このままだと本当にただのおもちゃだ。どこかに説明書とかないのかな?
 ごそごそと拳銃が入っていた箱を探っていると……『白雪まとい作 操作マニュアル』と書かれたものが入っていた。ナイスゥー! 白雪さんナイスゥー!
 そこ書かれていることを読みながら、実践してみることにする。
 まずはじめに、弾倉(マガジン)に弾を入れる。魔術を使い、一瞬で入れることも可能。
 ……なるほど。 
 拳銃が入っていたものとは違う箱に弾薬が大量に入っていたので、そこから一先ず9mmパラベラム弾20発と、.50AE弾7発を取り出す。

「ちょっとミネ、弾を込めてくれないか?」

 手が空いているミネを呼び、魔術を使って弾を込めてもらうことにする。
 優しい彼女は二つ返事であっという間に弾倉(マガジン)に弾を装填してしまった。相変わらず魔術ってすごいな……
 マニュアルに目を戻す。なになに……込め終わったら、その弾倉(マガジン)を拳銃のグリップの下から差し込む。
 ふむふむ。このぽっかり空いているところに入れるわけか。
 カチッ、という音とともに弾倉(マガジン)がきちんと差し込まれたのを確認できた。 
 その次は……拳銃のスライドを引くらしい。これは、ドラマとかで見たことがあるぞ。
 マニュアル通り、VP9のみスライドを引く。デザートイーグルの方も同時にやっても良かったのだが、ここからはいつでも撃てる状態になると書いているので、安全に考慮してまずは一丁のみにした。
 ちなみにこの動作によって、初弾が銃身内にセットされ、かつ撃鉄(ハンマー)も起きた状態になるため発砲可能状態となるらしい。
 で、安全装置(セーフティ)を解除すると引き金を引けば弾が発射されるわけか。

「リード。俺の方は準備完了だが、そちらはどうだ? いけるか?」
「……本当に私を的にするのですか。まあ、いいですが。ただ、ここまでするのですから、成果なしでは許しませんからね」

 渋々だがリードも協力してくれるらしい。あとから肩もみをして機嫌をとっておこう。
 俺は、VP9の安全装置を解除して、リードに銃口を向ける。拳銃の上にある照星(フロントサイト)をリードの胴体に向け、照門(リアサイト)の溝の間に見るように照準を合わせる。目標までの距離はおよそ3メートル。かなり近いが、当たらなければ意味がないのでこのままの距離で撃つ。
 俺の準備が完了したのを見計らって、リードが魔術を発動する。

「《障壁展開》!」

 すると、リードの周りに薄い膜のようなものが現れた。
 これが、魔族が人間の兵器をおもちゃだという根拠となるものだ。この障壁はある一定の攻撃を耐えてくれるもので、人によっては核爆発に相当する威力の攻撃ですらこの障壁1つで耐えしのぐことが出来ると言われている。
 俺がなんのためらいもなくリードに的になれというわけがない。この障壁を使えると事前に聞いた上で実行したのだ。
 ちなみに、この存在を俺は今朝知った。
 知らなかったのならどうしたのかって? 流石にリードを的にはせずに、他の方法を模索したに決まっている。

「じゃあ、撃つぞー」
「いつでもどうぞ」

 安全装置(セーフティ)……解除。狙い……良し。撃つぞ! 俺は撃つぞ!

 パンッ!
 ガギンッ!

 ……めっちゃうるさいじゃん。これ、耳栓か何かしておかないといずれ聴力を失いそうだわ。
 銃を撃った反動は想定よりも大きかったが、耐えられないというほどでもなく、慣れれば動きながらでも撃てるかな、という感じだった。
 余韻に浸りつつリードのものへ駆け寄り、発砲音以外の音が発生した原因を見る。
 弾が障壁にめり込んでいた。まあ、見る限り魔術障壁のほうは、ほぼノーダメに近いが。

「ご覧の通り、人間の武器ではこの障壁を突破することは困難です。健人様の方針に口を出す形になりますが、拳銃よりも魔術の練習をしたほうがまだ可能性はあるかと」

 たしかに、そうだろう。誰だってこんなものを見せられたらそう思うに決まっている。
 しかし、俺は違う。いける、そう確信できるものがあった。
 俺は今年30歳になった男だ。他の人とは一味違う。誰も考えつかないことをひらめいたり出来るのだ!


 パンパンパンッ! パンパンパンッ!

「……健人様は一体何をしていらっしゃるので?」

 俺は、VP9とデザートイーグルを交互に持ち替えながら銃を撃っていた。リードにはずっと障壁を展開してもらっている。
 一旦休憩、ということで再びリードの元へ駆け寄り、障壁に阻まれた弾を見ながら彼女の質問に回答する。

「何って……楽しいから撃っている。ただそれだけだ。まあ、ミネにはこの様子をスマホで録画してもらっているが」

 そう、俺はあれから30分ほどずっと弾を撃っていた。無駄弾以外の何物でもないのだが、楽しいから仕方ない。
 さっき最強の主人公みたいな事を心のなかで言っていたが、それは皆の勘違いだ。
 俺が『いける』と言ったのは、自分が銃を撃つ姿を録画した動画をつまみにして酒が何杯でもいける、という意味であり、俺はあれ以降も何も解決策を思いついていない。
 つまりは、ミネに動画を撮ってもらって、銃をただ無邪気に撃っていただけ。

「いやー、すっきりした。でも、流石に手が痛くなってきたしここらへんが切り上げどきかな。リードもお疲れ! 後から肩もみして労をねぎらってやろうぞ! あはははは!」
「……健人……様……?」

 おやおや、リードさんがものすごく怖い顔をしていらっしゃる。
 ……はい、ちゃんと対策を考えます。
 「冗談だよ」とリードに言って落ち着かせながら、これからどうしようかと考える。 
 デザートイーグルでさえリードの魔術障壁はびくともしなかった。俺の『拳銃がこの状況を打開してくれる』という勘は外れてしまったんだろうか。
 いや、リードやミネですら思いつかなかった事をひらめく可能性がある人が1人いるじゃないか。彼女ならもしかしたら、何かヒントをくれるかも知れない。

「おーい、アルファさーん。起きてー、起きてくださーい」

 スポーツネックレスに擬態したアルファを指で小突きながら呼ぶ。
 すると、お決まりのように『……なんじゃ……ご主人様……?』という声が聞こえてくる。というか、この銃声の中よく寝ていられるな。
 俺なんて1発撃った後、ミネに防音の魔術を付与してもらったレベルでうるさいと感じていたのに。
 しかし、流石は魔王の鍵で最強と自負する彼女。すぐに状況を理解する。

「拳銃……さっきからうるさかったのはこれじゃったか」

 流石にうるさかったのか。というか、拳銃という存在を知っていたんだな。

「しかし、人間側の武器じゃ……」

 アルファが不自然なところで黙る。
 ……なんだ? もしかして、本当に何か思いついたんじゃ……

「……ご主人様よ、朗報じゃ! この拳銃と弾に魔術を付与すれば、ご主人様の弱点である通常時の魔術威力の大幅な減少を解決できるかもしれんぞ!」

 うっそだろ!? アルファがマジで思いついたぞ!
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